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第四章
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「どう思う? 仕事を任せて大丈夫だと思うか?」
「本当に、王女様を働かせるおつもりなのですか?」
レシティがユリウスに再確認する。
「働かせることに何か問題でもあるのか? 良くできていると褒めたていたではないか。王女だから駄目なのか?」
「いえ、そう言うわけでは…初めてにしては良く出来ています。仕事を任せても大丈夫だと思います」
それを聞いて、ユリウスは口角を上げた。
「では、明日から衣装部屋に行くよう伝えてくれ」
ユリウスがケーラにそう言った。
「は…」
「ケーラ」
「はい」と返事をしようとしたケーラの腕を、レシティが肘で突付いた。
「なに? レシティ」
「どうした? 何か言いたいことでもあるのか?」
「それならユリウス様から直接仰られてはいかがですか?」
レシティがコホンと咳払いしてそう言った。
「俺から?」
ユリウスが片眉をピクリとさせて、レシティを見る。
「ええ、そのシャツを任せたのはユリウス様です。その仕事ぶりを褒めて、これからも任せたいとご自分から伝えてください。その方が王女様も喜びます」
「そうですわね」
ケーラも何やら察したのか、その提案に同意して大きく頷いた。
「彼女が…喜ぶ?」
「うまく縫えたと誇らしげになさっていましたから、そう聞けば喜びます」
ユリウスは持っているシャツをジッと見つめた。
「ついでにお食事にでも誘われてはどうですか?」
「食事?」
驚いてユリウスは顔を上げ、二人を交互に見た。
「いきなり二人でというのが誘いにくければ、リロイ様たちと四人で」
「いや、あの子達は口に運ぶより零す方が多いし、口の周りはすぐ食べ物だらけになるし、食べながら喋るし、飽きるとすぐに食べ物で遊びだす。何度教えてもマナーが身につかないと、ケーラも嘆いているだろう? とても他人と一緒には…まして彼女は王族だ。そのような場には」
ユリウスは、子供たちとの食事の状況を思い出し、とんでもないと首を振る。
「それはそうでございますが…」
ユリウスの言葉にケーラも困ったと言いたげに、頬に手を当てる。
食の細いリロイに食べさせるのも大変だが、そんなリロイの皿を狙って手を出すミアにも困っていた。
「だからですよ。きっと王女様ならマナーは完璧な筈です。美しい所作を目の前にすれば、お子様たちも自分の食べ方と比べて改めようとするのではないですか? 人の振りを見て我が振り直せと言います」
「まあ、それはいい考えだわレシティ。そうね。二人も王女様のことに注目するはずよ」
「どうです? ユリウス様、いい考えだと思いませんか」
「そんなにうまくいくだろうか」
言い出したレシティもケーラもいい考えだと信じているが、そんなにうまく行くのか、ユリウスは今ひとつ確信が持てなかった。
これまでいくら言っても、「はあい」といい返事は返ってくるのだが、返事だけ良くて結局は何も変わらなかった。
「その際には、是非そのシャツを着てください。自分が繕ったシャツを着ているユリウス様を見て、きっと喜んでくれるでしょう」
「これを?」
もう一度、ユリウスは手に持ったシャツを見た。
ジゼルとはここへ来るまでの道中で、何度も食事を共にした。
パンを丸かじりする時でさえ、その食べ方は優雅で、きちんとテーブルに着き、皿の上から食べる姿も見惚れるほど美しかったとユリウスは思い出す。
小鳥のように小さく啄むように、美しく食べる所作を見れば、確かに子供たちにとってもいい手本になるだろう。
「わかった。誘いを掛けてみよう」
それを聞いて、ケーラとレシティはしたり顔で頷いたが、次の瞬間二人は気遣わしげにユリウスを見た。
「それと、お聞きしたいことがあるのですが」
「なんだ?」
「オリビア様のことです。そろそろはっきりなさった方がいいかと…」
「わかっている。サイモンにも同じことを言われた。これは俺がはっきりしなかったのが悪い。だが、彼女と王女のことはまた別だ」
「そうだとしても、彼女はそうは思いませんよ。たとえエレトリカの国王への牽制のためだけに王女様を連れてきたとしても、オリビア様は納得しないと思います」
「俺が違うと言ってもか?」
ジゼルがここにいる理由は、子供たち以外にははっきり言ってある。
それをそのまま伝えているのに、なぜか周りは疑いの目を向けてくる。
「俺は女と見れば見境のない、節操なしのように思われているのか? これまでもそんな行動はしてこなかったと自負しているが」
「これまではね。ですがお子様たちもなぜか王女様にご執心ですし、王女様を見るユリウス様の表情を見れば、勘の良いものは何かあるとわかります」
「俺の…表情?」
ケーラの言葉に、ユリウスは自分の顔に触れた。
「俺の表情がどうだというのだ?」
壁に掛かった鏡に映る自分を見るが、特に変わったところはない。
「今はいつものユリウス様ですよ。けれど、王女様のことを話している時は、お子様たちに接しているような優しい表情をされています」
「そんなことは…」
「ない」と言おうとして、ユリウスははっきり否定も出来なかった。
「本当に、王女様を働かせるおつもりなのですか?」
レシティがユリウスに再確認する。
「働かせることに何か問題でもあるのか? 良くできていると褒めたていたではないか。王女だから駄目なのか?」
「いえ、そう言うわけでは…初めてにしては良く出来ています。仕事を任せても大丈夫だと思います」
それを聞いて、ユリウスは口角を上げた。
「では、明日から衣装部屋に行くよう伝えてくれ」
ユリウスがケーラにそう言った。
「は…」
「ケーラ」
「はい」と返事をしようとしたケーラの腕を、レシティが肘で突付いた。
「なに? レシティ」
「どうした? 何か言いたいことでもあるのか?」
「それならユリウス様から直接仰られてはいかがですか?」
レシティがコホンと咳払いしてそう言った。
「俺から?」
ユリウスが片眉をピクリとさせて、レシティを見る。
「ええ、そのシャツを任せたのはユリウス様です。その仕事ぶりを褒めて、これからも任せたいとご自分から伝えてください。その方が王女様も喜びます」
「そうですわね」
ケーラも何やら察したのか、その提案に同意して大きく頷いた。
「彼女が…喜ぶ?」
「うまく縫えたと誇らしげになさっていましたから、そう聞けば喜びます」
ユリウスは持っているシャツをジッと見つめた。
「ついでにお食事にでも誘われてはどうですか?」
「食事?」
驚いてユリウスは顔を上げ、二人を交互に見た。
「いきなり二人でというのが誘いにくければ、リロイ様たちと四人で」
「いや、あの子達は口に運ぶより零す方が多いし、口の周りはすぐ食べ物だらけになるし、食べながら喋るし、飽きるとすぐに食べ物で遊びだす。何度教えてもマナーが身につかないと、ケーラも嘆いているだろう? とても他人と一緒には…まして彼女は王族だ。そのような場には」
ユリウスは、子供たちとの食事の状況を思い出し、とんでもないと首を振る。
「それはそうでございますが…」
ユリウスの言葉にケーラも困ったと言いたげに、頬に手を当てる。
食の細いリロイに食べさせるのも大変だが、そんなリロイの皿を狙って手を出すミアにも困っていた。
「だからですよ。きっと王女様ならマナーは完璧な筈です。美しい所作を目の前にすれば、お子様たちも自分の食べ方と比べて改めようとするのではないですか? 人の振りを見て我が振り直せと言います」
「まあ、それはいい考えだわレシティ。そうね。二人も王女様のことに注目するはずよ」
「どうです? ユリウス様、いい考えだと思いませんか」
「そんなにうまくいくだろうか」
言い出したレシティもケーラもいい考えだと信じているが、そんなにうまく行くのか、ユリウスは今ひとつ確信が持てなかった。
これまでいくら言っても、「はあい」といい返事は返ってくるのだが、返事だけ良くて結局は何も変わらなかった。
「その際には、是非そのシャツを着てください。自分が繕ったシャツを着ているユリウス様を見て、きっと喜んでくれるでしょう」
「これを?」
もう一度、ユリウスは手に持ったシャツを見た。
ジゼルとはここへ来るまでの道中で、何度も食事を共にした。
パンを丸かじりする時でさえ、その食べ方は優雅で、きちんとテーブルに着き、皿の上から食べる姿も見惚れるほど美しかったとユリウスは思い出す。
小鳥のように小さく啄むように、美しく食べる所作を見れば、確かに子供たちにとってもいい手本になるだろう。
「わかった。誘いを掛けてみよう」
それを聞いて、ケーラとレシティはしたり顔で頷いたが、次の瞬間二人は気遣わしげにユリウスを見た。
「それと、お聞きしたいことがあるのですが」
「なんだ?」
「オリビア様のことです。そろそろはっきりなさった方がいいかと…」
「わかっている。サイモンにも同じことを言われた。これは俺がはっきりしなかったのが悪い。だが、彼女と王女のことはまた別だ」
「そうだとしても、彼女はそうは思いませんよ。たとえエレトリカの国王への牽制のためだけに王女様を連れてきたとしても、オリビア様は納得しないと思います」
「俺が違うと言ってもか?」
ジゼルがここにいる理由は、子供たち以外にははっきり言ってある。
それをそのまま伝えているのに、なぜか周りは疑いの目を向けてくる。
「俺は女と見れば見境のない、節操なしのように思われているのか? これまでもそんな行動はしてこなかったと自負しているが」
「これまではね。ですがお子様たちもなぜか王女様にご執心ですし、王女様を見るユリウス様の表情を見れば、勘の良いものは何かあるとわかります」
「俺の…表情?」
ケーラの言葉に、ユリウスは自分の顔に触れた。
「俺の表情がどうだというのだ?」
壁に掛かった鏡に映る自分を見るが、特に変わったところはない。
「今はいつものユリウス様ですよ。けれど、王女様のことを話している時は、お子様たちに接しているような優しい表情をされています」
「そんなことは…」
「ない」と言おうとして、ユリウスははっきり否定も出来なかった。
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