出戻り王女の恋愛事情 人質ライフは意外と楽しい

七夜かなた

文字の大きさ
上 下
30 / 102
第四章

1

しおりを挟む
 子供たちに本を読み聞かせ、いつの間にか眠っていたジゼルは、目が覚めると目の前にはユリウスの顔があって、自分と視線が絡み合って驚いた。

 ここがどこなのかと周りを見渡すと、子供部屋から出てすぐの廊下だった。

 彼女が驚いたのはそれだけではない。

 自分がボルトレフ卿に抱き抱えられていた。

「え、あ、あの…ど、どうして」
「暴れるな、落ちるぞ」

 動揺して彼の腕の中で身動ぎしたジゼルに、ユリウスが注意した。

「あ、あの…なぜ」
「リロイの部屋に行くと、子供たちに本を読んでくれているうちに、あなたが寝てしまったと、メアリーが言うので、病み上がりで風邪をひいてはいけないから、部屋に運ぶところだ」
「そ、そうではなく。それなら、起こしていただければ」

 抱き抱えられていることもそうだが、彼に寝顔を見られたことも恥ずかしくて、ジゼルは自分の顔が真っ赤になっているのがわかった。
 それを隠そうと、両手で顔を覆う。
 他に人がいないのが唯一の救いだ。

「とても気持ちよさそうに寝ていたので、起こすには忍びなくてな」
「お、おろして…は、恥ずかしい」
「何を今更、熱を出したあなたをここに運んだときも、こうして運んできた」
「そ、それは…熱が…」
「そうだ。回復したとは言え、まだ病み上がりで本調子ではない。それなのに、子供達が迷惑をかけたな。頼みを聞いてくれとは言ったが悪かった」
「い、いえ、それは、ただ本を読んだだけで、迷惑では…あの、子供たちは?」
「先にリロイのベッドに二人共運んだ。そのまま一緒にと思ったが流石に子供とは言え、三人一緒では狭いからな」
「そ、そうですか。では、もう起きたので、おろして…」

 もう一度ジゼルは体を動かして、彼の胸に手を置いて距離を取ろうとした。

「そんな遠慮せずとも、あなた一人抱えて運ぶくらい造作もない」
「え、遠慮などでは…」

 何とか彼に下ろしてもらおうともがき、そんな彼女を離すまいと、ユリウスは更に抱える腕に力を込める。

「大将…あ!」

 そんな攻防を繰り広げていると、グローチャーが現れ、この場の状況にしまったという顔をした。

「ランディフ、どうした」

 ストンとジゼルを下に降ろす。

「す、すみません、後にします」
「あ、あの、私はこれで…」

 小声で呟き、ジゼルは顔をそらしてランディフの横を通り過ぎた。
 ランディフは、耳を赤くして慌てて自分の横を擦り抜けていくジゼルを、微笑ましげに見た。

「どうした?」
「実はカルエテーレから書状が届きました」
「またか」

 立ち去るジゼルの背後で、ランディフとユリウスの会話が聞こえてきた。

(カルエテーレ。ここと国境を接する国だわ)

 表立ってエレトリカと対抗はしていないが、トリカディールから独立した国である。

「すみません」

 立ち去るジゼルを視線で追っているユリウスに、ランディフが再度謝った。

「謝る必要はない。リロイの部屋のソファで寝ていたから、また熱を出してはいけないと思って運ぶところだっただけだ」
「お二人、なかなかいい雰囲気でしたよ」
「いい雰囲気? 馬鹿なことを言うな。それよりその書状を見せてみろ」
「はい」

 ランディフが彼に見せるために持ってきた手紙を差し出す。
 それを受け取るために手を出したユリウスは、ふわりと自分の体から放たれた香りに気がついた。

 清涼感がありながら、ふわりと甘さが混じるその香りは、抱き上げていたジゼルの髪から漂ってきたものだと気づいた。

「大将?」

 一瞬、目を閉じた彼の様子にランディフが怪訝そうに問いかけた。

『いい雰囲気でしたよ』

 先程ランディフが放った言葉が蘇る。

「何でもない。手紙の中身はどうせこれまでと変わりないだろうな」
「そう思われます」

 ユリウスは厳しい顔つきで、中の手紙に目を通した。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

処理中です...