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第一章

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 会場には既に今日のために集まった多くの貴族たちがひしめいていた。
 外国からも多くの来賓が訪れていて、綺羅びやかな衣装に身を包んだ人々が国王一家の登場を待ち構えていた。

「コルネリス国王陛下、並びにフィエン王妃殿下、ジュリアン王太子殿下、ジゼル王女殿下のご入場です」

 宰相が声を張り上げ、楽団がファンファーレの音楽を奏でると、会場にいた人々から拍手が沸き起こった。

 しかし、何人かは最後に名を呼ばれたジゼルの登場に、戸惑いを見せているのがわかり、ジゼルの体に緊張が走った。

「姉上」

 それを察したジュリアンが、そっと自分の腕に手をかけたジゼルの手を撫でる。

「ごめんなさい、ありがとう」

 その気遣いに、ジゼルの頬も緩む。

「ありがとう、ありがとう」

 会場全体を見渡しながら、国王が手を振り皆に挨拶を返す。
 そして拍手がひと通り収まった頃を見計らって、父である国王が口を開いた。

「今日はこのように大勢お集まりいただき、感謝する。この佳き日を迎えられたことを嬉しく思う。今日を迎えられたのも、使命をもって戦ってくれた勇猛な民たちの尊い犠牲があったからこそである。まずは、先の戦争において命を落とした者たちに、黙祷を捧げる」
「黙祷」

 宰相が声を張り上げ、皆がその場で頭を下げた。
 ジゼルも顔の前で両手を組み、目を閉じて静かに冥福を祈った。
 
「黙祷終了」

 再び宰相の声が響き、一同が目を開けた。

「ありがとう。また、今日は我が息子ジュリアンの誕生祝いにお越しいただき感謝する。ジュリアン」
「はい」

 父に促されてジュリアンが前に進み出る。
 堂々としたその立ち居振る舞いに、ジゼルは誇らしげな気持ちになる。

 それは父達も同じようで、ジゼルと目があった母が軽く頷いた。

「王太子のジュリアンである。先程父上からも申し上げましたが、此度の戦争が予想より遥かに早く終結できたのも、勇猛果敢な騎士たちの働きぶりがあったからです。彼らも、そしてこの場に会された皆様を始め、この国のために尽力いただいている多くの民に感謝申し上げる。今日、私は十四才になります。まだまだ未熟者ではございますが、良き君主となるべく精進いたします」

 そう言って、ジュリアンは片手を上に突き出した。朗々と力強く話す王太子の言葉に、盛大な拍手が送られた。

「それから、皆も既に承知していると思うが、王女ジゼルがこの度婚家から戻ってきた。それについては色々意見や考えがあるとは思うが、どうか温かい目で見守ってほしい」

 国王の言葉に、パラパラとまばらであるが拍手が聞こえた。
 先にそう言われてしまえば、誰もが従うしかない。

 国王が名前を口にしたことで、多くの衆目の目が伏し目がちに佇む王女ジゼルに集まる。

 巷では気の毒な王女と憐れみの声も聞こえる。同じ境遇の女性たちからの支持もあるとも聞く。しかし出戻りと嘲笑する声も少なくはない。

 しかしその場にいる誰もが、ジゼルの儚げな美しさに心を奪われた。
 独身の男たちの中には、ぜひお近づきになりたいと思う者が少なくなかった。

「今日は戦勝と王子の生誕祝いに細やかな宴を催させていただいた。皆、心ゆくまで楽しんでくれ」

 国王が宰相に顔を向けると、宰相がパンと手を打ち鳴らした。

 すると脇からワインの入ったグラスをトレイに持った給仕の者達が、次々と入ってきた。

「どうぞ陛下、王妃様、殿下たちも」

 侍女長が既に毒見を済ませたグラスをジゼルたちに配る。

「皆、行き渡ったかな」

 国王の問いかけに、皆が各自持っているグラスを掲げる。

「では、皆の幸福と健康に」

 そう国王が言えば

「コルネリス陛下の御世の益々の栄光と発展に」

 宰相がそう続く。

「乾杯」
「乾杯」

 口々に皆が声を上げ、グラスを口に運ぼうとしたその時だった。

「お待ち下さい!」
「そのような姿で会場に入られては困ります」
「どのような格好でもいいだろう」
「だめです」
「お待ち下さい、お前たち、止めろ!」

 扉の向こうから叫び声と共に、バタバタと慌ただしい大勢の足音が聞こえてきた。

「ま、まさか…」

 微かに震える声が父から聞こえ、ジゼルは父を振り向いた。

「お父…様?」

 ジゼルが父に問いかけた瞬間、バーンと大きな音がして広間の扉が開け放たれた。
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