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伯爵の葬儀はひっそりとしめやかに行われた。
ジュストは正式にはまだ伯爵の息子と認められていないため、身重のレーヌに代わりに娘婿であるステファンが葬儀を取り仕切った。
参列者はアベリー家とモヒナート家の者のみ。
シトシトと霧雨が降る中、葬儀が終わると皆それぞれの家に無言で帰宅した。
彼が亡くなったことにより、エナンナとミーシャには新たに殺人罪という罪状が加わった。
それにより、二人には死刑の判決が下された。
日本では死刑判決はなかなか下りないが、ここでは数は少ないものの、死刑執行は珍しくはない。
昔は公開処刑だったようだが、今は非公開になっていて、立ち会いは出来ないということだが、王太子殿下のはからいで、希望すれば立ち会わせてもらえるということになった。
処刑には身重のレーヌは立ち会わず、ジュストとステファンが立ち会った。
処刑は朝早くから行われた。まだ朝も明けきらないうちに出掛けていくジュストをギャレットは見送った。
そして昼前にはジュストが帰ってきた。
「おかえりなさい、ジュスト」
「ただいま」
重苦しい顔をしたジュストが、ギャレットの顔を見て硬い表情を崩した。
「どうだった?」
「どうもこうもミーシャは最後まで『強制力』とか『筋書き』とか、意味不明なことを叫んでいた。死を前にして錯乱していたのだろう」
「そうなんだ」
それを聞いて、ギャレットは複雑な気持ちだった。その意味を知るのはギャレットだけだろう。
そして考える。
自分が死にたくないからと、ジュストに媚びた結果、愛されるまでになった自分と、ミーシャよ違いはなんだろうか。
(ミーシャはどこまでも筋書きに固執した。変わり始めた流れを無理矢理戻そうとしたのが行けなかったのかも知れない)
新しい話が動いているのに、そこに圧力をかけて無理矢理戻そうとした反動なのだろうか。
だとしたら、その話の流れを変えたのは、自分なのだろうかと、ギャレットは考えた。
(いいや違う)
作者がミーシャだっとしても、ここはそれぞれ自分の意思を持って動く生きた世界なのだ。
他人の気持ちを簡単に操れないように、全てを自分の意のままにできるはずがない。
「ギャレット」
黙り込んだギャレットに、ジュストが話しかけた。
「なに、ジュスト」
物思いから戻り、ギャレットが返事をする。
その表情から、彼が何を言おうとしているのか、何となく察した。
「俺は…オハイエ伯爵家を継ごうと思う」
ギャレットが思ったとおりの言葉をジュストは告げた。
「彼女たちのせいでオハイエ伯爵家の領民は大変な目にあっている。荒れた土地に対して領主は何の手立ても講じずに、高い税だけを払わされていた。それを見てみぬフリはできない」
「うん。ジュストが決めたのなら、僕は反対しない」
「モヒナート家はギャレットが継ぐ。それがいいとずっと思っていた」
「僕に出来ると思う?」
「ギャレットなら大丈夫だ。義父上だってまだまだ現役だから、義父上がついていればうまくいく」
ギャレットはそうだろうが、ジュストはきっとこれから苦労するだろう。
「ステファンも協力してくれる。王太子様の側近は、辞めざるを得ないだろうと思っていたが、暫く休職で構わないと言ってくださっている」
「ジュストは優秀だから、王太子様も特別に思ってくれているんだね」
「王太子殿下も、ベルン辺境伯のこととシャイユカルド教のことで当分は息つく暇もないそうだ。そんな時に何の助けも出来ず、申し訳ないと思っている」
国王陛下がベルン辺境伯とシャイユカルド教との後始末を、王太子殿下に命じた。
ことは隣国との外交問題にも関わることだからだ。
そこへオハイエ伯爵家の死んだと思われていた息子が実は生きていて、それがジュストだとわかった。
世間はその事実にざわついている。
「俺はジュスト・モヒナートの名前を捨てて、オーランド・オハイエになる」
「どんな名前でも僕の大事な人に変わりはない」
ジュストのほしい言葉が何なのか、ギャレットにはわかっていた。
「僕の気持ちは変わらない。いつだって辛いときは僕のところへ来て。僕が癒やしてあげる」
ジュストの手を取り、自分の頬に当て彼の顔を見つめる。
「ありがとうギャレット」
ジュストの赤い瞳に、柔らかい光が灯る。
「愛しているよ」
「僕も」
愛していると言う前に、ジュストが顔を傾け、ギャレットの唇を奪う。
好きな人と思い合い、交わす口づけに、ギャレットは恍惚とする。
もし一宮沙織としての記憶が戻らなかったら、自分はレーヌを傷つけ、ジュストに殺されていたかも知れない。
ギャレットが変わったのは、そのせいで、こんな展開になったのも。
「ギャレットがいてよかった。生まれてきてくれてありがとう。俺は幸せだ」
唇を離したジュストがそう言って微笑む。
ジュストも本筋のままならレーヌに報われぬ想いを抱き、不憫なまま死んで終わっていた。
こんなふうに幸せそうに笑うジュストが見られたのだから、これで良かったのだとギャレットは思うことにした。
「僕もジュストが大好き」
ジュストの腕に抱かれ、今度はギャレットからキスを返した。
完
ジュストは正式にはまだ伯爵の息子と認められていないため、身重のレーヌに代わりに娘婿であるステファンが葬儀を取り仕切った。
参列者はアベリー家とモヒナート家の者のみ。
シトシトと霧雨が降る中、葬儀が終わると皆それぞれの家に無言で帰宅した。
彼が亡くなったことにより、エナンナとミーシャには新たに殺人罪という罪状が加わった。
それにより、二人には死刑の判決が下された。
日本では死刑判決はなかなか下りないが、ここでは数は少ないものの、死刑執行は珍しくはない。
昔は公開処刑だったようだが、今は非公開になっていて、立ち会いは出来ないということだが、王太子殿下のはからいで、希望すれば立ち会わせてもらえるということになった。
処刑には身重のレーヌは立ち会わず、ジュストとステファンが立ち会った。
処刑は朝早くから行われた。まだ朝も明けきらないうちに出掛けていくジュストをギャレットは見送った。
そして昼前にはジュストが帰ってきた。
「おかえりなさい、ジュスト」
「ただいま」
重苦しい顔をしたジュストが、ギャレットの顔を見て硬い表情を崩した。
「どうだった?」
「どうもこうもミーシャは最後まで『強制力』とか『筋書き』とか、意味不明なことを叫んでいた。死を前にして錯乱していたのだろう」
「そうなんだ」
それを聞いて、ギャレットは複雑な気持ちだった。その意味を知るのはギャレットだけだろう。
そして考える。
自分が死にたくないからと、ジュストに媚びた結果、愛されるまでになった自分と、ミーシャよ違いはなんだろうか。
(ミーシャはどこまでも筋書きに固執した。変わり始めた流れを無理矢理戻そうとしたのが行けなかったのかも知れない)
新しい話が動いているのに、そこに圧力をかけて無理矢理戻そうとした反動なのだろうか。
だとしたら、その話の流れを変えたのは、自分なのだろうかと、ギャレットは考えた。
(いいや違う)
作者がミーシャだっとしても、ここはそれぞれ自分の意思を持って動く生きた世界なのだ。
他人の気持ちを簡単に操れないように、全てを自分の意のままにできるはずがない。
「ギャレット」
黙り込んだギャレットに、ジュストが話しかけた。
「なに、ジュスト」
物思いから戻り、ギャレットが返事をする。
その表情から、彼が何を言おうとしているのか、何となく察した。
「俺は…オハイエ伯爵家を継ごうと思う」
ギャレットが思ったとおりの言葉をジュストは告げた。
「彼女たちのせいでオハイエ伯爵家の領民は大変な目にあっている。荒れた土地に対して領主は何の手立ても講じずに、高い税だけを払わされていた。それを見てみぬフリはできない」
「うん。ジュストが決めたのなら、僕は反対しない」
「モヒナート家はギャレットが継ぐ。それがいいとずっと思っていた」
「僕に出来ると思う?」
「ギャレットなら大丈夫だ。義父上だってまだまだ現役だから、義父上がついていればうまくいく」
ギャレットはそうだろうが、ジュストはきっとこれから苦労するだろう。
「ステファンも協力してくれる。王太子様の側近は、辞めざるを得ないだろうと思っていたが、暫く休職で構わないと言ってくださっている」
「ジュストは優秀だから、王太子様も特別に思ってくれているんだね」
「王太子殿下も、ベルン辺境伯のこととシャイユカルド教のことで当分は息つく暇もないそうだ。そんな時に何の助けも出来ず、申し訳ないと思っている」
国王陛下がベルン辺境伯とシャイユカルド教との後始末を、王太子殿下に命じた。
ことは隣国との外交問題にも関わることだからだ。
そこへオハイエ伯爵家の死んだと思われていた息子が実は生きていて、それがジュストだとわかった。
世間はその事実にざわついている。
「俺はジュスト・モヒナートの名前を捨てて、オーランド・オハイエになる」
「どんな名前でも僕の大事な人に変わりはない」
ジュストのほしい言葉が何なのか、ギャレットにはわかっていた。
「僕の気持ちは変わらない。いつだって辛いときは僕のところへ来て。僕が癒やしてあげる」
ジュストの手を取り、自分の頬に当て彼の顔を見つめる。
「ありがとうギャレット」
ジュストの赤い瞳に、柔らかい光が灯る。
「愛しているよ」
「僕も」
愛していると言う前に、ジュストが顔を傾け、ギャレットの唇を奪う。
好きな人と思い合い、交わす口づけに、ギャレットは恍惚とする。
もし一宮沙織としての記憶が戻らなかったら、自分はレーヌを傷つけ、ジュストに殺されていたかも知れない。
ギャレットが変わったのは、そのせいで、こんな展開になったのも。
「ギャレットがいてよかった。生まれてきてくれてありがとう。俺は幸せだ」
唇を離したジュストがそう言って微笑む。
ジュストも本筋のままならレーヌに報われぬ想いを抱き、不憫なまま死んで終わっていた。
こんなふうに幸せそうに笑うジュストが見られたのだから、これで良かったのだとギャレットは思うことにした。
「僕もジュストが大好き」
ジュストの腕に抱かれ、今度はギャレットからキスを返した。
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