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85 それからの顛末①
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ジュストは肋骨と指の骨が何本か折れていて、酷い打ち身もあり、傷から入った細菌のせいで高熱が続いた。
両親やレーヌも駆けつけた中、三日三晩生死の境を彷徨った。
その間、ギャレットはつきっきりで看病をした。
「……だめだ。ギャレット…そっちは…」
悪夢に魘され、ジュストはうわ言でギャレットの名前を口にした。
「大丈夫だよ、僕はここにいる。無事だよ、ジュスト」
ギャレットの名を呼び無意識に伸ばした彼の手を握り、その手の甲に口づける。
すると強張っていたジュストの顔が緩み、安心したように微笑む。
「ギャレット、あなたも休みなさい。あなたまで倒れてしまうわ」
母がつきっきりのギャレットに声をかける。
「わかっています。でも、ジュストが目覚めて一番に『おはよう』って言いたいんです。ジュストもきっとそうしたいと思うから」
「ギャレット、あなたジュストのこと…」
不憫系当て馬の設定だったジュストに殺されまいとしてきたが、ギャレットとして日々を過ごすうちに、兄として慕うようになった。
しかし、彼に抱いている気持ちが単なる兄弟愛ではないとわかった。
「母上、母上は僕とジュストが…いえ、僕がジュストを兄以上に想っていると言ったら、どう思いますか」
ジュストが自分のことをどう想っているのか、まだはっきりわからない内からこんなことを聞くのはどうかと思いつつ、ギャレットは尋ねた。
いきなりのカミングアウトに、母は戸惑いを隠せない様子だった。
「そうね。私とお父様もあなたたち二人が、仲良く過ごしてきたのを側で見てきたから、あなたたち二人に義理の兄弟以上の絆が生まれたとしても、不思議には思わないわ」
ギャレットの金色の髪を優しく撫でてから、彼女はジュストの黒髪も撫でた。
「どんな形であれ、あなたたちが幸せになる道なら、見守るつもりよ」
「母上」
息子二人が想い合っていると言うなら、それを認めようという柔軟な母の言葉に、ギャレットは驚いた。
「この子が我が家に来た頃のことを思い出すの。体の傷は癒えても、心は閉ざしたままで、どこか魂のない人形みたいだったわ」
ギャレットの生まれる前のジュストについて、ナディアが語る。
「ようやく生気が戻ってきたのは、あなたの声に反応した時よ。あなたもまだ目も見えないのに、ジュストを見て笑っていたわ。そしてこわごわ伸ばしたジュストの指を、あなたがぎゅっと握った時のこの子の顔は、忘れられない」
赤ちゃんがぎゅっと握りしめるのは、条件反射みたいなものだろう。
「少なくとも、ジュストがあなたを望むなら、その希望を叶えてあげたい。それくらいこの子は過酷な経験をして、辛い思いをしてきた。昔も今もね。そのご褒美があなたとの未来なら、それくらい認めてあげないと報われないわ」
二度も辛い拷問を受けたジュスト。
彼がオーランドなら、目の前で母親の無残な死を目撃したかも知れない。
ここまでの設定をあの自称「放蕩貴族は月の乙女を愛して止まない」の作者ミーシャが考えていたのだとしたら、腹が立って一発殴るだけでは済まない。
何の恨みがあるというのだ。
「人の不幸と幸福は同じだと言うけど、ジュストの人生においての幸福は、正しくあなたと一緒にいること。それを許さないとか、そんな非道なことは私には出来ないわ」
言いながら彼女は、まだ発熱が続くジュストの額から布を取り、冷たい水で絞り直してもう一度額に乗せる。
「オーランドとして生きるのか、それともジュストとして生きるのか、どんな選択をしたとしてもあなたたちがこの先も仲良くしてくれるなら、私は何も言わないわ」
王太子の命令でステファンがオハイエ家に踏み込むと、ジュスト―オーランドとレーヌの父親であるオハイエ伯爵は、薬漬けになって廃人のようになっていた。
王室の医師によると、もはや意識の回復は望めない。そしてすっかり痩せ細り衰弱していた彼は、もう長くは生きられないということだった。
しかもその余命は数ヶ月もないということだった。
両親やレーヌも駆けつけた中、三日三晩生死の境を彷徨った。
その間、ギャレットはつきっきりで看病をした。
「……だめだ。ギャレット…そっちは…」
悪夢に魘され、ジュストはうわ言でギャレットの名前を口にした。
「大丈夫だよ、僕はここにいる。無事だよ、ジュスト」
ギャレットの名を呼び無意識に伸ばした彼の手を握り、その手の甲に口づける。
すると強張っていたジュストの顔が緩み、安心したように微笑む。
「ギャレット、あなたも休みなさい。あなたまで倒れてしまうわ」
母がつきっきりのギャレットに声をかける。
「わかっています。でも、ジュストが目覚めて一番に『おはよう』って言いたいんです。ジュストもきっとそうしたいと思うから」
「ギャレット、あなたジュストのこと…」
不憫系当て馬の設定だったジュストに殺されまいとしてきたが、ギャレットとして日々を過ごすうちに、兄として慕うようになった。
しかし、彼に抱いている気持ちが単なる兄弟愛ではないとわかった。
「母上、母上は僕とジュストが…いえ、僕がジュストを兄以上に想っていると言ったら、どう思いますか」
ジュストが自分のことをどう想っているのか、まだはっきりわからない内からこんなことを聞くのはどうかと思いつつ、ギャレットは尋ねた。
いきなりのカミングアウトに、母は戸惑いを隠せない様子だった。
「そうね。私とお父様もあなたたち二人が、仲良く過ごしてきたのを側で見てきたから、あなたたち二人に義理の兄弟以上の絆が生まれたとしても、不思議には思わないわ」
ギャレットの金色の髪を優しく撫でてから、彼女はジュストの黒髪も撫でた。
「どんな形であれ、あなたたちが幸せになる道なら、見守るつもりよ」
「母上」
息子二人が想い合っていると言うなら、それを認めようという柔軟な母の言葉に、ギャレットは驚いた。
「この子が我が家に来た頃のことを思い出すの。体の傷は癒えても、心は閉ざしたままで、どこか魂のない人形みたいだったわ」
ギャレットの生まれる前のジュストについて、ナディアが語る。
「ようやく生気が戻ってきたのは、あなたの声に反応した時よ。あなたもまだ目も見えないのに、ジュストを見て笑っていたわ。そしてこわごわ伸ばしたジュストの指を、あなたがぎゅっと握った時のこの子の顔は、忘れられない」
赤ちゃんがぎゅっと握りしめるのは、条件反射みたいなものだろう。
「少なくとも、ジュストがあなたを望むなら、その希望を叶えてあげたい。それくらいこの子は過酷な経験をして、辛い思いをしてきた。昔も今もね。そのご褒美があなたとの未来なら、それくらい認めてあげないと報われないわ」
二度も辛い拷問を受けたジュスト。
彼がオーランドなら、目の前で母親の無残な死を目撃したかも知れない。
ここまでの設定をあの自称「放蕩貴族は月の乙女を愛して止まない」の作者ミーシャが考えていたのだとしたら、腹が立って一発殴るだけでは済まない。
何の恨みがあるというのだ。
「人の不幸と幸福は同じだと言うけど、ジュストの人生においての幸福は、正しくあなたと一緒にいること。それを許さないとか、そんな非道なことは私には出来ないわ」
言いながら彼女は、まだ発熱が続くジュストの額から布を取り、冷たい水で絞り直してもう一度額に乗せる。
「オーランドとして生きるのか、それともジュストとして生きるのか、どんな選択をしたとしてもあなたたちがこの先も仲良くしてくれるなら、私は何も言わないわ」
王太子の命令でステファンがオハイエ家に踏み込むと、ジュスト―オーランドとレーヌの父親であるオハイエ伯爵は、薬漬けになって廃人のようになっていた。
王室の医師によると、もはや意識の回復は望めない。そしてすっかり痩せ細り衰弱していた彼は、もう長くは生きられないということだった。
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