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83 舞い降りた天使①
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ジュストがギャレットのことを持ち出され、ショックで口がきけなくなったと思い込んだベルンは、それを見て気を良くして立ち去った。
実際は別のことで悔やんでいて、そのことで頭がいっぱいになっただけで、ベルンが思うほどに絶望はしていなかった。
(まったく浅はかなやつだ。あれで主導権を握っているつもりか。デヴォンにいいように利用されていることにも気づかない)
とは言え、ベルン辺境伯の爵位と領地を引き継ぐのは今のところ彼だ。
確か、彼には弟がいた。体は弱いが頭はキレると評判の弟。
このままマグナスに爵位を引き継がせれば、確実にベルン辺境伯の領地はデヴォンたちのいいようにされ、イベルカイザもただではすまないだろう。
しかし、自分にはどうすることもできない。
気を失っていたため、ここがどこかもわからない。王太子様やステファンが探しに来てくれるのを、ただ待つしかできないことが歯痒い。
マグナスはそれから頻繁に訪れた。
やってきてはジュストを殴ったり蹴ったり、暴言を吐く。
(こんなに頻繁に来るということは、やつの邸に近いか、もしかしたらここはやつの邸内のどこかということか?)
マグナスとデヴォンは、ジュストにもはや何もすることができないと踏んでいるが、彼は望みを捨てていなかった。
身につけた武術は、彼に鋼の精神と長く拷問に耐え抜く技術と体力をもたらした。
彼らが殴る場所に気合を込めて受け身を取れば、その威力はかなり軽減される。
王太子殿下が他国の武闘家から伝授された技法だ。
それでもあからさまに痛がる振りをしなければ、彼らは不審に思うだろう。
側近として、万が一敵に捕らえられ拷問されても、簡単に口を割らないように訓練は受けていた。
加えてジュストには何が何でも挫けないという強い思いがある。
空腹も過ぎれば何とか凌げる。
それよりも気がかりなのは子どもたちのこと。
ジュストが彼らの拷問を一手に引き受けているとは言え、逆に放置されて食べ物も満足に与えられていない。
助けが来る前に何とか持ち堪えてくれれば。
ジュストは祈り続けた。
ウトウトとしている彼の耳に、大勢の足音と怒鳴り声が聞こえた。
「大丈夫だ」
怯える子どもたちを安心させるために声をかけながら、ジュストは身構えた。
「こっちだ!」
聞き覚えのある声が聞こえ、目の前にステファンが現れた。
「ジュスト!」
「ステ…ファン」
力なく彼の名を呼ぶ。張っていた気持ちが緩むのがわかった。
今ほど彼の顔がかっこいいと思ったことはない。
「待っていろ、今助けてやる」
「俺より、あの子達を先に」
向かいの牢屋にいる子達のことを告げる。
「大丈夫だ。俺の仲間だ」
彼らが怯えないように優しく、ステファンたちが味方であることを告げると、これまで息を潜めていた彼らから泣き声があがった。
彼らはジュストよりずっと長い間、この暗闇で過ごし心細さに耐えていたのだ。
「ジュスト、大丈夫か…と聞くのは愚問だな」
破れて衣服の体をなさなくなったボロ布と、傷だらけの体を見て、ステファンが苦笑した。
「ようやく…というか、遅かったな」
限界が来ていたのか、ほっとした途端に視界が霞んできて、気が遠くなりかける。
「すまない。ちょっと後発部隊が遅れて」
「お前にしては…手際が…わる…い」
「おいジュスト、しっかりしろ、まだ気を失うな、今すぐお前の元気が出る薬が来るから」
ステファンが鎖を外し、力を失った体がぐらりと揺れた。
倒れかかった体を支えて、着ていた上着を肩に羽織らせる。
「くす…り?」
もう気を失ってもいいのか。
そう思った時、声が聞こえた。
「ジュスト!」
ステファンの肩に額を預けていたジュストは、最後の力を振り絞りゆっくりと顔を上げた。
「ジュスト」
霞むジュストの目に、暗い地下室に灯のように灯る眩しい金髪か飛び込んできた。
紫の瞳から大粒の涙溢しながら、駆け寄ってくるのは。
「天使?」
自分は死ぬのだろうか。
ジュストはそう思いながら、意識を手放した。
実際は別のことで悔やんでいて、そのことで頭がいっぱいになっただけで、ベルンが思うほどに絶望はしていなかった。
(まったく浅はかなやつだ。あれで主導権を握っているつもりか。デヴォンにいいように利用されていることにも気づかない)
とは言え、ベルン辺境伯の爵位と領地を引き継ぐのは今のところ彼だ。
確か、彼には弟がいた。体は弱いが頭はキレると評判の弟。
このままマグナスに爵位を引き継がせれば、確実にベルン辺境伯の領地はデヴォンたちのいいようにされ、イベルカイザもただではすまないだろう。
しかし、自分にはどうすることもできない。
気を失っていたため、ここがどこかもわからない。王太子様やステファンが探しに来てくれるのを、ただ待つしかできないことが歯痒い。
マグナスはそれから頻繁に訪れた。
やってきてはジュストを殴ったり蹴ったり、暴言を吐く。
(こんなに頻繁に来るということは、やつの邸に近いか、もしかしたらここはやつの邸内のどこかということか?)
マグナスとデヴォンは、ジュストにもはや何もすることができないと踏んでいるが、彼は望みを捨てていなかった。
身につけた武術は、彼に鋼の精神と長く拷問に耐え抜く技術と体力をもたらした。
彼らが殴る場所に気合を込めて受け身を取れば、その威力はかなり軽減される。
王太子殿下が他国の武闘家から伝授された技法だ。
それでもあからさまに痛がる振りをしなければ、彼らは不審に思うだろう。
側近として、万が一敵に捕らえられ拷問されても、簡単に口を割らないように訓練は受けていた。
加えてジュストには何が何でも挫けないという強い思いがある。
空腹も過ぎれば何とか凌げる。
それよりも気がかりなのは子どもたちのこと。
ジュストが彼らの拷問を一手に引き受けているとは言え、逆に放置されて食べ物も満足に与えられていない。
助けが来る前に何とか持ち堪えてくれれば。
ジュストは祈り続けた。
ウトウトとしている彼の耳に、大勢の足音と怒鳴り声が聞こえた。
「大丈夫だ」
怯える子どもたちを安心させるために声をかけながら、ジュストは身構えた。
「こっちだ!」
聞き覚えのある声が聞こえ、目の前にステファンが現れた。
「ジュスト!」
「ステ…ファン」
力なく彼の名を呼ぶ。張っていた気持ちが緩むのがわかった。
今ほど彼の顔がかっこいいと思ったことはない。
「待っていろ、今助けてやる」
「俺より、あの子達を先に」
向かいの牢屋にいる子達のことを告げる。
「大丈夫だ。俺の仲間だ」
彼らが怯えないように優しく、ステファンたちが味方であることを告げると、これまで息を潜めていた彼らから泣き声があがった。
彼らはジュストよりずっと長い間、この暗闇で過ごし心細さに耐えていたのだ。
「ジュスト、大丈夫か…と聞くのは愚問だな」
破れて衣服の体をなさなくなったボロ布と、傷だらけの体を見て、ステファンが苦笑した。
「ようやく…というか、遅かったな」
限界が来ていたのか、ほっとした途端に視界が霞んできて、気が遠くなりかける。
「すまない。ちょっと後発部隊が遅れて」
「お前にしては…手際が…わる…い」
「おいジュスト、しっかりしろ、まだ気を失うな、今すぐお前の元気が出る薬が来るから」
ステファンが鎖を外し、力を失った体がぐらりと揺れた。
倒れかかった体を支えて、着ていた上着を肩に羽織らせる。
「くす…り?」
もう気を失ってもいいのか。
そう思った時、声が聞こえた。
「ジュスト!」
ステファンの肩に額を預けていたジュストは、最後の力を振り絞りゆっくりと顔を上げた。
「ジュスト」
霞むジュストの目に、暗い地下室に灯のように灯る眩しい金髪か飛び込んできた。
紫の瞳から大粒の涙溢しながら、駆け寄ってくるのは。
「天使?」
自分は死ぬのだろうか。
ジュストはそう思いながら、意識を手放した。
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