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82 過去からの因縁②
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なぜマグナスの口からオハイエの名前が出てくるのか。
「なぜ、オハイエ…ミーシャか?」
彼女がギャレットのニ学年下で、学園に通っていることは聞いている。
ギャレットが彼女に不貞を?
あり得ない。
「そんな名前だったか…会ったのは一度きりだからな」
わざとなのかそれとも本気なのかベルンは恍ける。
「旦那も気の毒にあんな女と結婚したのが運の尽きだ。女って怖いよな。こっちが女性不信になる」
「どういう意味だ、ギャレットをどうするつもりだ?」
「どうもしやしない。お前のあのクソ生意気な弟君がちゃんと貴族の令息としての責任を果たせばいいだけのこと」
「責任? ギャレットが何の責任を取るんだ」
「おいおい、お前自分の状況わかっているのか? そんな命令口調でいいと思ってるのか? 知りたければ、『どういう意味でしょうか、お教えください、マクベス様』って言えよ」
下卑た笑いでマグナスが高圧的に言う。ジュストは唇を噛み締め、彼をぎっと睨んだ後に、口を開いた。
「…さい」
「は? 聞こえないなぁ。跪いて俺の靴を舐めて言え」
マグナスはジュストの頭を床に押さえ込んだ。
「ギャレットのことを教えて…ください。マ、マグナス…さま」
顔を床に押さえ込まれ、ジュストの口には砂利が入り込んだ。
「お前の弟はミーシャ=オハイエを襲った。その責任を取って彼女と結婚するんだ」
「ギャレットが、ミーシャ=オハイエを? あり得ない」
「あり得ないじゃなく、そうなってるんだ」
「そんなことをして、ギャレットと結婚する意味はなんだ?」
「『なんですか』だろ? さあな、俺は別にお前の弟が誰と結婚しようが興味はない。俺の目的はお前を痛めつけること。お前自身を痛めつけるのに、弟を窮地に追い込めば、効果的だからな」
自分への拷問なら何とか堪えられると思っていたジュストも、ギャレットの名前を出されたらたちまち弱気になる。
しかし、結婚すると言っても、現に今は当主がいるし、そんな手の込んだことする必要があるのか。
「なんでも、ミーシャ=オハイエが言うには、モヒナート家はそのうち没落するそうだ」
「没落? モヒナート家が?」
あり得ない。養父のラファイエは心身ともに健康で、まだまだ引退する年齢ではない。知っている限りモヒナート侯爵家の家計は健全で負債もなく、火の車でもない。
今の状況で自分はどうなるかわからないが、ギャレットがいれば後継ぎ問題に何ら支障はない。
「なぜ、モヒナート家が没落なんて…」
「知るか、母親も母親だが、娘もかなり頭がいかれてるとしか言いようがない。わけのわからないことをブツブツ言って、不気味だったよ。『バグ』とか、『強制力』とか、ああ、お前の弟は『悪役令息』でお前のことは『不憫な当て馬』だそうだ。なんでそう言い切れるのかわからないが、不憫は当たってるか」
ケラケラと笑うマグナスの笑い声が地下室に響き渡った。
ジュストも又聞きのその話だけでは、ミーシャ=オハイエが何を思ってどうしようとしているのかわからない。
ただ、ギャレットが昔寝言で、「殺さないでジュスト」とか「バグ」などと言っていたことを思い出した。
あれも意味がわからなかった。
自分が誰を殺すというのか。まさかギャレットを?
あり得ないが、ギャレットは何かに怯えていた。
ジュストが考え得る限り、ギャレットが何か窮地に陥っていたということもない。
家族仲は上手くいっていたし、ギャレットが将来を憂う要因など何一つない。
しかし、ギャレットは、時折夢にうなされていた。
自分ならわかる。こうやって閉じ込められ縛られ、虐待を受けた過去があるのは自分だから。
ギャレットはそんな経験などない。それどころか、両親に愛され、周りに愛され、自分に愛されている。
なのに、彼は怯えていた。
それが何なのか、ギャレットに訊いたことはない。
なぜなら朝目覚めたギャレットは、それをおくびにもださなかったから。ジュストはいつか、ギャレットが何に悩んでいるのか打ち明けてくれるのを、ただ待っていた。
今ジュストはそれを後悔していた。
知っておけば、ミーシャの言動について何か対処出来たかも知れないし、もしこのまま二度とギャレットに会えなかったら、彼が何に怯え悩んでいたのかわからないままだ。
ジュストはそれを酷く後悔した。
「なぜ、オハイエ…ミーシャか?」
彼女がギャレットのニ学年下で、学園に通っていることは聞いている。
ギャレットが彼女に不貞を?
あり得ない。
「そんな名前だったか…会ったのは一度きりだからな」
わざとなのかそれとも本気なのかベルンは恍ける。
「旦那も気の毒にあんな女と結婚したのが運の尽きだ。女って怖いよな。こっちが女性不信になる」
「どういう意味だ、ギャレットをどうするつもりだ?」
「どうもしやしない。お前のあのクソ生意気な弟君がちゃんと貴族の令息としての責任を果たせばいいだけのこと」
「責任? ギャレットが何の責任を取るんだ」
「おいおい、お前自分の状況わかっているのか? そんな命令口調でいいと思ってるのか? 知りたければ、『どういう意味でしょうか、お教えください、マクベス様』って言えよ」
下卑た笑いでマグナスが高圧的に言う。ジュストは唇を噛み締め、彼をぎっと睨んだ後に、口を開いた。
「…さい」
「は? 聞こえないなぁ。跪いて俺の靴を舐めて言え」
マグナスはジュストの頭を床に押さえ込んだ。
「ギャレットのことを教えて…ください。マ、マグナス…さま」
顔を床に押さえ込まれ、ジュストの口には砂利が入り込んだ。
「お前の弟はミーシャ=オハイエを襲った。その責任を取って彼女と結婚するんだ」
「ギャレットが、ミーシャ=オハイエを? あり得ない」
「あり得ないじゃなく、そうなってるんだ」
「そんなことをして、ギャレットと結婚する意味はなんだ?」
「『なんですか』だろ? さあな、俺は別にお前の弟が誰と結婚しようが興味はない。俺の目的はお前を痛めつけること。お前自身を痛めつけるのに、弟を窮地に追い込めば、効果的だからな」
自分への拷問なら何とか堪えられると思っていたジュストも、ギャレットの名前を出されたらたちまち弱気になる。
しかし、結婚すると言っても、現に今は当主がいるし、そんな手の込んだことする必要があるのか。
「なんでも、ミーシャ=オハイエが言うには、モヒナート家はそのうち没落するそうだ」
「没落? モヒナート家が?」
あり得ない。養父のラファイエは心身ともに健康で、まだまだ引退する年齢ではない。知っている限りモヒナート侯爵家の家計は健全で負債もなく、火の車でもない。
今の状況で自分はどうなるかわからないが、ギャレットがいれば後継ぎ問題に何ら支障はない。
「なぜ、モヒナート家が没落なんて…」
「知るか、母親も母親だが、娘もかなり頭がいかれてるとしか言いようがない。わけのわからないことをブツブツ言って、不気味だったよ。『バグ』とか、『強制力』とか、ああ、お前の弟は『悪役令息』でお前のことは『不憫な当て馬』だそうだ。なんでそう言い切れるのかわからないが、不憫は当たってるか」
ケラケラと笑うマグナスの笑い声が地下室に響き渡った。
ジュストも又聞きのその話だけでは、ミーシャ=オハイエが何を思ってどうしようとしているのかわからない。
ただ、ギャレットが昔寝言で、「殺さないでジュスト」とか「バグ」などと言っていたことを思い出した。
あれも意味がわからなかった。
自分が誰を殺すというのか。まさかギャレットを?
あり得ないが、ギャレットは何かに怯えていた。
ジュストが考え得る限り、ギャレットが何か窮地に陥っていたということもない。
家族仲は上手くいっていたし、ギャレットが将来を憂う要因など何一つない。
しかし、ギャレットは、時折夢にうなされていた。
自分ならわかる。こうやって閉じ込められ縛られ、虐待を受けた過去があるのは自分だから。
ギャレットはそんな経験などない。それどころか、両親に愛され、周りに愛され、自分に愛されている。
なのに、彼は怯えていた。
それが何なのか、ギャレットに訊いたことはない。
なぜなら朝目覚めたギャレットは、それをおくびにもださなかったから。ジュストはいつか、ギャレットが何に悩んでいるのか打ち明けてくれるのを、ただ待っていた。
今ジュストはそれを後悔していた。
知っておけば、ミーシャの言動について何か対処出来たかも知れないし、もしこのまま二度とギャレットに会えなかったら、彼が何に怯え悩んでいたのかわからないままだ。
ジュストはそれを酷く後悔した。
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