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81 過去からの因縁①
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天井から滴り落ちる水滴がピチョンピチョンと、落ちる音がする。
どれほどの時間が過ぎただろうか。
あれから何度もあの男がやってきた。
酷いときは酒に酔って、まるで酒の肴にするかのように、鞭で自分を打っては酒瓶をあおり、しなる鞭が肌を裂くのを見てほくそ笑んだ。
自分が痛めつけられている内は、他の子どもたちは標的になることはない。
だから自分が耐えれば、耐え続けなければ。
しかし、自分も限りある生を持つ身だ。
この状態でいつまで耐えられるか、気力より先に体が限界に近づきつつある。
「デヴォン、本当にまだ生きているのか? よもや俺が来る前に殺してはいまいな」
「弱ってきてはおりますが、まだまだ息はあります」
荒々しい足音と共に、大きな声がした。
子どもたちがビクリと反応する。
「は、良いざまだな」
現れたのはマグナス・ベルンとジュストをずっと痛めつけてきた男、デヴォンだった。
ベルンは腕を胸の前で組んで威圧するように牢の前に立った。
「ベルン…お前、やっぱり、繋がっていたのか」
乱れた前髪の間からギラリと睨みつけ、乾いてひび割れた唇から憎々しげに呟いた。
「はっ、痛めつけられて命乞いでもするのかと思ったら、まだそんな元気があるのか」
それが気に入らなかったらしく、ベルンは大きな足でジュストの足を蹴飛ばした。
「ぐっ」
痛みに顔を歪めたが、悲鳴は堪えた。
「面白くないな。もっとあいつらみたいに泣きわめいて『やめてくれ』と言えよ」
「誰が・・お前なんかに」
「お前は、まだ自分の状況とわかっていないらしいな」
今度は拳で思い切り頬を殴りつけてきた。
口の中が切れてペッと血を吐き出した。
「相変わらず気持ち悪い目だ。血の色。お前はこんな目の色に生まれたことを不幸だと思え」
さらに二発、ベルンはジュストの両頬を殴った。
「マグナス様、そんなに力一杯殴ると潰れてしまいます」
「ふん、お前のように長くネチネチ痛めつけるのは性に合わないな」
マグナスはもっと殴りたそうだったが、デヴォンがそれを止めた。
「まあいい、お前は自分が痛めつけられるより、他のやつが痛めつけられる方が効くからな」
人を殴れば自分の手も傷つく、少しすりむいた自分の手を見ながらマグナスがにやりと笑った。
それを聞いてジュストがチラリと向かいにうずくまる子ども達を見た。
「あいつらか。まあ、あいつらでも良いが、もっと別のやつがいるだろ」
ジュストの目がかっと見開く。彼が言おうとしている「やつ」というのが誰なのかわかった。
「まさか、お前」
「お前・・そんな無礼な口を利いて良いと誰が言った? マグナス様だ、悪魔ヤロウ」
唇を歪ませて彼はジュストに凄んだ。
「そう、お前の弟、ギャレットだ。今頃お前の弟は、大変なことになっているぞ」
「なんだと、ギャレットに何をしたんだ」
ジュストの目が驚愕に見開かれ、声が震えた。
「はは、その顔が見たかったんだ。呪われた存在のくせに高尚ぶって殿下の側近などと偉そうに」
「言え、ギャレットに何をした」
「ふん、そんな言い方ができる立場か、別にお前のように死ぬような目にあっているわけじゃない。まあ、ちょっとあるご令嬢に不貞なことをしたと騒がれているだけだ」
「なに? ギャレットが、そんなことをするわけがない」
女性の同意なしにギャレットが手を出すことなどあり得ない。
「別に本当にそうしたかどうかは関係ない。『そんな風に誤解されている』というところだ。何しろ被害者がいるんだからな」
「マグナス様、もうそれくらいで良いでしょう。それより、お父上の方はもう大丈夫なのでしょうね」
デヴォンがしゃべりすぎだと彼を止めた。
「ああ、父は何も気づいていない。殿下が我が家へ来る際に襲われて動揺していたが、殿下の本当の目的が我が家を監査に来ることだったとは夢にも思っていない」
「しかし、油断はできません。我々がイベルカイザからシェルテーレへの積み荷を横取りして売りさばいていたことをお父上が知ったら」
「わかっている。あのオハイエとかいう女の寄越した薬で、そろそろ父も俺に家督を譲るために弱って頂かないとな」
「オハイエ?」
ジュストはマグナスの漏らした名前に反応した。
どれほどの時間が過ぎただろうか。
あれから何度もあの男がやってきた。
酷いときは酒に酔って、まるで酒の肴にするかのように、鞭で自分を打っては酒瓶をあおり、しなる鞭が肌を裂くのを見てほくそ笑んだ。
自分が痛めつけられている内は、他の子どもたちは標的になることはない。
だから自分が耐えれば、耐え続けなければ。
しかし、自分も限りある生を持つ身だ。
この状態でいつまで耐えられるか、気力より先に体が限界に近づきつつある。
「デヴォン、本当にまだ生きているのか? よもや俺が来る前に殺してはいまいな」
「弱ってきてはおりますが、まだまだ息はあります」
荒々しい足音と共に、大きな声がした。
子どもたちがビクリと反応する。
「は、良いざまだな」
現れたのはマグナス・ベルンとジュストをずっと痛めつけてきた男、デヴォンだった。
ベルンは腕を胸の前で組んで威圧するように牢の前に立った。
「ベルン…お前、やっぱり、繋がっていたのか」
乱れた前髪の間からギラリと睨みつけ、乾いてひび割れた唇から憎々しげに呟いた。
「はっ、痛めつけられて命乞いでもするのかと思ったら、まだそんな元気があるのか」
それが気に入らなかったらしく、ベルンは大きな足でジュストの足を蹴飛ばした。
「ぐっ」
痛みに顔を歪めたが、悲鳴は堪えた。
「面白くないな。もっとあいつらみたいに泣きわめいて『やめてくれ』と言えよ」
「誰が・・お前なんかに」
「お前は、まだ自分の状況とわかっていないらしいな」
今度は拳で思い切り頬を殴りつけてきた。
口の中が切れてペッと血を吐き出した。
「相変わらず気持ち悪い目だ。血の色。お前はこんな目の色に生まれたことを不幸だと思え」
さらに二発、ベルンはジュストの両頬を殴った。
「マグナス様、そんなに力一杯殴ると潰れてしまいます」
「ふん、お前のように長くネチネチ痛めつけるのは性に合わないな」
マグナスはもっと殴りたそうだったが、デヴォンがそれを止めた。
「まあいい、お前は自分が痛めつけられるより、他のやつが痛めつけられる方が効くからな」
人を殴れば自分の手も傷つく、少しすりむいた自分の手を見ながらマグナスがにやりと笑った。
それを聞いてジュストがチラリと向かいにうずくまる子ども達を見た。
「あいつらか。まあ、あいつらでも良いが、もっと別のやつがいるだろ」
ジュストの目がかっと見開く。彼が言おうとしている「やつ」というのが誰なのかわかった。
「まさか、お前」
「お前・・そんな無礼な口を利いて良いと誰が言った? マグナス様だ、悪魔ヤロウ」
唇を歪ませて彼はジュストに凄んだ。
「そう、お前の弟、ギャレットだ。今頃お前の弟は、大変なことになっているぞ」
「なんだと、ギャレットに何をしたんだ」
ジュストの目が驚愕に見開かれ、声が震えた。
「はは、その顔が見たかったんだ。呪われた存在のくせに高尚ぶって殿下の側近などと偉そうに」
「言え、ギャレットに何をした」
「ふん、そんな言い方ができる立場か、別にお前のように死ぬような目にあっているわけじゃない。まあ、ちょっとあるご令嬢に不貞なことをしたと騒がれているだけだ」
「なに? ギャレットが、そんなことをするわけがない」
女性の同意なしにギャレットが手を出すことなどあり得ない。
「別に本当にそうしたかどうかは関係ない。『そんな風に誤解されている』というところだ。何しろ被害者がいるんだからな」
「マグナス様、もうそれくらいで良いでしょう。それより、お父上の方はもう大丈夫なのでしょうね」
デヴォンがしゃべりすぎだと彼を止めた。
「ああ、父は何も気づいていない。殿下が我が家へ来る際に襲われて動揺していたが、殿下の本当の目的が我が家を監査に来ることだったとは夢にも思っていない」
「しかし、油断はできません。我々がイベルカイザからシェルテーレへの積み荷を横取りして売りさばいていたことをお父上が知ったら」
「わかっている。あのオハイエとかいう女の寄越した薬で、そろそろ父も俺に家督を譲るために弱って頂かないとな」
「オハイエ?」
ジュストはマグナスの漏らした名前に反応した。
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