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80 自分の気持ち②
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ギャレットへの想いを自覚する前から、いずれモヒナート家を継ぐのはギャレットだと思っていた。
自分は子供がいないからモヒナート家に引き取られたのだ。だからギャレットが生まれた時点で、継ぐべきはギャレットだと、口に出しては言わなくても、彼らは思っているだろう。
自分を気遣って二人が言わないなら、自分から切り出そう。
ギャレットが成人し、学園を卒業したらそう言おう。
レーヌ=オハイエが出会った時から自分に関心を寄せていたのは、そういうことだったのかと、合点がいった。
卒業パーティーでステファンから自分にパートナーを変えたのも、そのことを告げようとしたからだった。
「確信があるのか?」
「その髪、その瞳、そして何よりあなたは私の…私達の亡くなった祖父の若い頃に生き写しなんです」
「俺は小さい頃の記憶がない。だが、時折夢に見知らぬ女性や見知らぬ女の子が出てくる」
「それはきっと母と私ね」
そして彼女は母と双子の兄であるオーランドに何があったのか話してくれた。
「モヒナート侯爵にも、ステファンから話がいっている筈です。あなたが捕まっていた場所を探して見つかった帳簿から、あなたが彼らに売られた時期もわかっています。それから推察して、あなたは間違いなく、私の兄だと確信しています」
「どうして、すぐに探してくれなった。俺は…もっと早くに捜索してくれていたら…」
「そのことは、ごめんなさい。父は母の遺体を見て、てっきりあなたも亡くなったものと思ったらしいの。父は母と息子を失って絶望して、正常な判断がつけられなかった」
幼かったレーヌに何かできたわけでもなく、八つ当たりだとわかっていた。
「父の様子がおかしいの」
「オハイエ伯爵の?」
自分の父でもある筈だが、彼を「父」とは思えなかった。
レーヌは寂しそうに微笑んだ。
オーランドと言う彼の双子の兄の人生より、遥かに長い時をジュスト=モヒナートとして過ごしてきたのだ。急には気持ちを切り替えられない。
「ご存知のように、我が家は後妻のエナンナとミーシャに牛耳られています。父も少し前から伏せっていて、私もずっと会えないままです。このままではオハイエ家は潰れてしまいます。もしあなたが望むなら、名乗りを上げてオハイエ伯爵家を継いでください」
「待ってくれ!」
今自分が何者か知らされたばかりで、すぐにそう言われても彼は何の心構えも出来ていない。
「そんな急に言われても…」
「ごめんなさい。そうね。でも、あなたは間違いなくオーランド、私の兄、あなたはオハイエ家の正当な後継ぎなの。それはわかって」
ぽっかりと虚のようだった自分の過去に、オーランド=オハイエのいう名前が付いたことで、欠けていたピースが嵌り、パズルが完成した。
「たとえ俺が君の兄だったとしても、俺は何年もジュスト=モヒナートとして生きてきた。その人生を捨てて、俺がなぜオハイエ家を救わないといけない」
「でも、あなたは間違いなく、私の兄よ。そのことは認めて」
必死でそういう彼女の顔を、目を細めてじっと見つめる。
夢の中で何度も見てきた、ぼんやりとした女性の面影が、次第に濃くなり彼女の顔と重なる。
「私、髪色や瞳は祖母に、顔は亡くなった母の若い頃に似ているって言われるわ」
そう言って彼女は涙ぐむ。
血の繋がりというものが、どれほど強いものかわからない。
かつて同じ時期に母の胎内に共にいた相手。
共に育ってきたギャレットとは違う、もう一人の兄妹。
ギャレットに対する想いとは違うが、出会った時から彼女のことは気になっていた。
それが血縁、兄妹の持つ絆だったのだろうか。
「後継ぎの件は、少し待ってほしい。父…モヒナート侯爵たちとも話してみる」
「ええ、もちろん、あなたをここまで立派に育ててくれた方たちですもの。義理は通さないと。弟さんも、いきなりお兄様が別人になるんですもの、心の準備がいるわ」
「ギャレット…」
彼はこの件をどう受け取るだろうか。
自分がオーランド=オハイエになったら、彼とは義兄弟ではなくなる。
自分は変わらないのに、立場が変わる。何者でもなかった自分にオーランド=オハイエという名前がついて、ギャレットとは義兄弟でなくなった自分をどう思うだろうか。
共に過ごしてきた日々の中で重ねてきた信頼と絆が、それで損なわれるとは思わないが、これまでのようにただひたむきに慕ってくれなくなったら、自分はその時、どうなるのだろう。
自分は子供がいないからモヒナート家に引き取られたのだ。だからギャレットが生まれた時点で、継ぐべきはギャレットだと、口に出しては言わなくても、彼らは思っているだろう。
自分を気遣って二人が言わないなら、自分から切り出そう。
ギャレットが成人し、学園を卒業したらそう言おう。
レーヌ=オハイエが出会った時から自分に関心を寄せていたのは、そういうことだったのかと、合点がいった。
卒業パーティーでステファンから自分にパートナーを変えたのも、そのことを告げようとしたからだった。
「確信があるのか?」
「その髪、その瞳、そして何よりあなたは私の…私達の亡くなった祖父の若い頃に生き写しなんです」
「俺は小さい頃の記憶がない。だが、時折夢に見知らぬ女性や見知らぬ女の子が出てくる」
「それはきっと母と私ね」
そして彼女は母と双子の兄であるオーランドに何があったのか話してくれた。
「モヒナート侯爵にも、ステファンから話がいっている筈です。あなたが捕まっていた場所を探して見つかった帳簿から、あなたが彼らに売られた時期もわかっています。それから推察して、あなたは間違いなく、私の兄だと確信しています」
「どうして、すぐに探してくれなった。俺は…もっと早くに捜索してくれていたら…」
「そのことは、ごめんなさい。父は母の遺体を見て、てっきりあなたも亡くなったものと思ったらしいの。父は母と息子を失って絶望して、正常な判断がつけられなかった」
幼かったレーヌに何かできたわけでもなく、八つ当たりだとわかっていた。
「父の様子がおかしいの」
「オハイエ伯爵の?」
自分の父でもある筈だが、彼を「父」とは思えなかった。
レーヌは寂しそうに微笑んだ。
オーランドと言う彼の双子の兄の人生より、遥かに長い時をジュスト=モヒナートとして過ごしてきたのだ。急には気持ちを切り替えられない。
「ご存知のように、我が家は後妻のエナンナとミーシャに牛耳られています。父も少し前から伏せっていて、私もずっと会えないままです。このままではオハイエ家は潰れてしまいます。もしあなたが望むなら、名乗りを上げてオハイエ伯爵家を継いでください」
「待ってくれ!」
今自分が何者か知らされたばかりで、すぐにそう言われても彼は何の心構えも出来ていない。
「そんな急に言われても…」
「ごめんなさい。そうね。でも、あなたは間違いなくオーランド、私の兄、あなたはオハイエ家の正当な後継ぎなの。それはわかって」
ぽっかりと虚のようだった自分の過去に、オーランド=オハイエのいう名前が付いたことで、欠けていたピースが嵌り、パズルが完成した。
「たとえ俺が君の兄だったとしても、俺は何年もジュスト=モヒナートとして生きてきた。その人生を捨てて、俺がなぜオハイエ家を救わないといけない」
「でも、あなたは間違いなく、私の兄よ。そのことは認めて」
必死でそういう彼女の顔を、目を細めてじっと見つめる。
夢の中で何度も見てきた、ぼんやりとした女性の面影が、次第に濃くなり彼女の顔と重なる。
「私、髪色や瞳は祖母に、顔は亡くなった母の若い頃に似ているって言われるわ」
そう言って彼女は涙ぐむ。
血の繋がりというものが、どれほど強いものかわからない。
かつて同じ時期に母の胎内に共にいた相手。
共に育ってきたギャレットとは違う、もう一人の兄妹。
ギャレットに対する想いとは違うが、出会った時から彼女のことは気になっていた。
それが血縁、兄妹の持つ絆だったのだろうか。
「後継ぎの件は、少し待ってほしい。父…モヒナート侯爵たちとも話してみる」
「ええ、もちろん、あなたをここまで立派に育ててくれた方たちですもの。義理は通さないと。弟さんも、いきなりお兄様が別人になるんですもの、心の準備がいるわ」
「ギャレット…」
彼はこの件をどう受け取るだろうか。
自分がオーランド=オハイエになったら、彼とは義兄弟ではなくなる。
自分は変わらないのに、立場が変わる。何者でもなかった自分にオーランド=オハイエという名前がついて、ギャレットとは義兄弟でなくなった自分をどう思うだろうか。
共に過ごしてきた日々の中で重ねてきた信頼と絆が、それで損なわれるとは思わないが、これまでのようにただひたむきに慕ってくれなくなったら、自分はその時、どうなるのだろう。
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