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72 明らかになる真実①
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「一ヶ月か…間に合うといいが」
そう父が呟いた。
「侯爵の意向はわかりました。オハイエ家にも、ご令嬢にもひとことの謝罪もないと言う事なら、こちらもそれ相応の考えがあります。どのような結果になったとしても異論はございませんね」
「公平な判断をしていただけるのではあれば、もちろん異論はありません」
最後に父と学園長が互いにそう言って別れた。
授業のため、誰も寮におらず、自宅謹慎の沙汰を受け、慌てて寮を退出したので、ギャレットは誰にも挨拶する暇がなかった。
「父上の立場が悪くなることはありませんか?」
無条件に自分の潔白を信じてくれるのは嬉しいが、世間では親ばかの評価を下されるのではないか。
こういったケースの場合、男の方であるギャレットの方が悪いと評価されることが多い。しかも相手は伯爵家でこちらは侯爵家。身分の違いを盾にしていると思われても仕方がない。
「お前の無罪が証明されれば問題ない」
頼もしい言葉にギャレットは安心した。
「それで、僕はこれからどうすれば?」
自分の身に降り掛かってきた火の粉について、時が経てば解決するというものでもない。
今のところギャレットに不利な証言しか出ていない。
ギャレットの人ととなりやミーシャを避けていたことを知る者はいても、魔が差したと解釈されてしまえば、反論できない。
「それは着いてから話そう」
なぜかはぐらかされた。次に気になっているあのことを聞いた。
「ジュストのことは何か情報は?」
「それも着いてから話そう」
そちらもすぐに教えてもらえなかった。
何か悪い情報でもあるのかと、不安になった。
ふと、外を見ると馬車の行き先がモヒナート家とは違う方向に向かっていることに気づいた。
「父上、どこに行くのですか?」
窓から見える街並みは、これまで何度も通ったことのある場所だとわかる。
「アベリー家ですか?」
「そうだ」
なぜ、と口を開こうとして、父に何か考えがあるのだろうと、ギャレットは口を噤んだ。
アベリー家に到着すると、「皆様お待ちです」と、出迎えたアベリー家の執事が言って、二人を居間へと案内した。
「遅くなりました」
父が先に入り、続いてギャレットが部屋に足を踏み入れると、そこにはアベリー侯爵夫妻とレーヌ、ギャレットの母ナディア、そして王太子殿下が待っていた。
「で、殿下には…」
「ああ、そのような挨拶はいい。私は自室に籠もってここにはいないことになっている」
「え?」
驚いて腰を折りかけた状態で、顔だけを上げて皆を見回すと、皆が殿下の言葉を肯定するように頷いた。
「とりあえず座りなさい」
そう言われて父と共にソファの空いている場所に腰掛けた。
「災難だったな」
殿下がギャレットに向けて声をかけた。
「それより、ジュストのことは? 何かわかったのですか?」
王太子殿下がここにいるということは、ジュストのことで何かわかったのだろうか。
「まあ、落ち着きなさい。とは言え気持ちはわかる。まずは君のことだが、ここにいる誰も、ギャレットのことを疑ってはいない。いや、むしろこうなることは、粗方予想は出来ていた」
「え?」
またもや殿下の言葉に驚き、皆の顔を見る。今度も皆の顔には先程と同じ表情が浮かんでいた。
「ごめんなさい、ミーシャが企んでいることは、オハイエ家にいる侍女たちから聞いていたの」
「オハイエ家の?」
「ええ、私がステファンと結婚した頃からオハイエ家で働く者たちを何人か買収して、あちらの様子について情報を流してもらっていたの」
「つまり、スパイ?」
「スパイ?」
「あ、いえ…密偵を?」
スパイと言う言葉はこの世界では聞くことはない。慌てて言い換える。
「エナンナとミーシャが、ギャレットとの婚約話を流していたこともわかっていたの」
「やっぱりあの二人が?」
「でも敢えてこちらは気がついていない振りをして、泳がせていたの」
「どうして僕との婚約話なんて流すんですか? 他にも候補はたくさんいたのに」
「それは、なぜかモヒナート家はいずれ滅びる。だからギャレットと結婚すれば、モヒナート家の財産はすべて自分の手に入るとミーシャが母親に言っていたそうなの」
小説の筋書きではギャレットとジュストが相継いで亡くなり、後継ぎのいなくなったモヒナート家のその後は何とも憐れなものだった。
ミーシャはそこに目をつけたのだろう。
しかし、それは小説の展開を知っているからこそで、なぜミーシャがそういう考えに至ったのか、皆にはわからなくて当然だ。
「我が家が滅びるなど、何を根拠に」
腹立たしく思う気持ちを隠そうともせず、父が言った。
「それが、彼女たちがしようとしていることを報告してくれた侍女の言うことが今一つわからなくて…『強制力』とか、『筋書きを元に戻す』とかミーシャは言っていたようなの」
ジュストとギャレットの性格も大きく異なり、すでにジュストの闇落ちも無くなった。
でもミーシャはまだ諦めていなかった。
既に自分の書いたものとは違う展開に進んでいる話を、何とかして戻そうとしていたのだろう。
早くから覚醒して己の破滅エンドを打ち消したギャレットに対し、ようやく一年前に覚醒した原作者ミーシャ。
ジュストを不憫系当て馬にし、ギャレットを悪役令息に仕立て上げた、もう名前も覚えていない作者にひと泡吹かせられたことに、満足したギャレットだった。
そう父が呟いた。
「侯爵の意向はわかりました。オハイエ家にも、ご令嬢にもひとことの謝罪もないと言う事なら、こちらもそれ相応の考えがあります。どのような結果になったとしても異論はございませんね」
「公平な判断をしていただけるのではあれば、もちろん異論はありません」
最後に父と学園長が互いにそう言って別れた。
授業のため、誰も寮におらず、自宅謹慎の沙汰を受け、慌てて寮を退出したので、ギャレットは誰にも挨拶する暇がなかった。
「父上の立場が悪くなることはありませんか?」
無条件に自分の潔白を信じてくれるのは嬉しいが、世間では親ばかの評価を下されるのではないか。
こういったケースの場合、男の方であるギャレットの方が悪いと評価されることが多い。しかも相手は伯爵家でこちらは侯爵家。身分の違いを盾にしていると思われても仕方がない。
「お前の無罪が証明されれば問題ない」
頼もしい言葉にギャレットは安心した。
「それで、僕はこれからどうすれば?」
自分の身に降り掛かってきた火の粉について、時が経てば解決するというものでもない。
今のところギャレットに不利な証言しか出ていない。
ギャレットの人ととなりやミーシャを避けていたことを知る者はいても、魔が差したと解釈されてしまえば、反論できない。
「それは着いてから話そう」
なぜかはぐらかされた。次に気になっているあのことを聞いた。
「ジュストのことは何か情報は?」
「それも着いてから話そう」
そちらもすぐに教えてもらえなかった。
何か悪い情報でもあるのかと、不安になった。
ふと、外を見ると馬車の行き先がモヒナート家とは違う方向に向かっていることに気づいた。
「父上、どこに行くのですか?」
窓から見える街並みは、これまで何度も通ったことのある場所だとわかる。
「アベリー家ですか?」
「そうだ」
なぜ、と口を開こうとして、父に何か考えがあるのだろうと、ギャレットは口を噤んだ。
アベリー家に到着すると、「皆様お待ちです」と、出迎えたアベリー家の執事が言って、二人を居間へと案内した。
「遅くなりました」
父が先に入り、続いてギャレットが部屋に足を踏み入れると、そこにはアベリー侯爵夫妻とレーヌ、ギャレットの母ナディア、そして王太子殿下が待っていた。
「で、殿下には…」
「ああ、そのような挨拶はいい。私は自室に籠もってここにはいないことになっている」
「え?」
驚いて腰を折りかけた状態で、顔だけを上げて皆を見回すと、皆が殿下の言葉を肯定するように頷いた。
「とりあえず座りなさい」
そう言われて父と共にソファの空いている場所に腰掛けた。
「災難だったな」
殿下がギャレットに向けて声をかけた。
「それより、ジュストのことは? 何かわかったのですか?」
王太子殿下がここにいるということは、ジュストのことで何かわかったのだろうか。
「まあ、落ち着きなさい。とは言え気持ちはわかる。まずは君のことだが、ここにいる誰も、ギャレットのことを疑ってはいない。いや、むしろこうなることは、粗方予想は出来ていた」
「え?」
またもや殿下の言葉に驚き、皆の顔を見る。今度も皆の顔には先程と同じ表情が浮かんでいた。
「ごめんなさい、ミーシャが企んでいることは、オハイエ家にいる侍女たちから聞いていたの」
「オハイエ家の?」
「ええ、私がステファンと結婚した頃からオハイエ家で働く者たちを何人か買収して、あちらの様子について情報を流してもらっていたの」
「つまり、スパイ?」
「スパイ?」
「あ、いえ…密偵を?」
スパイと言う言葉はこの世界では聞くことはない。慌てて言い換える。
「エナンナとミーシャが、ギャレットとの婚約話を流していたこともわかっていたの」
「やっぱりあの二人が?」
「でも敢えてこちらは気がついていない振りをして、泳がせていたの」
「どうして僕との婚約話なんて流すんですか? 他にも候補はたくさんいたのに」
「それは、なぜかモヒナート家はいずれ滅びる。だからギャレットと結婚すれば、モヒナート家の財産はすべて自分の手に入るとミーシャが母親に言っていたそうなの」
小説の筋書きではギャレットとジュストが相継いで亡くなり、後継ぎのいなくなったモヒナート家のその後は何とも憐れなものだった。
ミーシャはそこに目をつけたのだろう。
しかし、それは小説の展開を知っているからこそで、なぜミーシャがそういう考えに至ったのか、皆にはわからなくて当然だ。
「我が家が滅びるなど、何を根拠に」
腹立たしく思う気持ちを隠そうともせず、父が言った。
「それが、彼女たちがしようとしていることを報告してくれた侍女の言うことが今一つわからなくて…『強制力』とか、『筋書きを元に戻す』とかミーシャは言っていたようなの」
ジュストとギャレットの性格も大きく異なり、すでにジュストの闇落ちも無くなった。
でもミーシャはまだ諦めていなかった。
既に自分の書いたものとは違う展開に進んでいる話を、何とかして戻そうとしていたのだろう。
早くから覚醒して己の破滅エンドを打ち消したギャレットに対し、ようやく一年前に覚醒した原作者ミーシャ。
ジュストを不憫系当て馬にし、ギャレットを悪役令息に仕立て上げた、もう名前も覚えていない作者にひと泡吹かせられたことに、満足したギャレットだった。
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