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71 父の背中
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学園側の対応は早かった。
ギャレットはすぐに寮に戻され、外出禁止の監禁。ミーシャも精神的ショックが大きいからと、友人たちの監視付きで寮の部屋で静養している。
事情を知る者には固く口止めし、互いの親が呼び出された。
ジュストのことがあって、大変な時にこのような事態になり、冤罪の罠に嵌まってしまった自分の迂闊さが恥ずかしい。
「申し訳ございませんでした」
寮監の部屋で待っていた父親に開口一番謝った。
厳しい表情の学園長に対し、父は呆れた顔をしている。
「ですが、誓って僕は何もしていません」
「それはわかっている。しかし、未然に防げなかったのは失態だったな」
「はい。ですから、申し訳ございませんでした」
「侯爵様、ご子息を庇いたいお気持ちはわかりますが、目撃者もいて、ご子息の罪状は明らかです」
学園長がギャレットの無実を疑っていないことに、横から言葉を挟んだ。
「罪状? 私の息子を罪人扱いですか?」
「女生徒に破廉恥な振る舞いをしたのです。国の法律でも裁かれるべき事案です」
「それが本当ならな。しかし息子は認めておりません。その令嬢の勘違いかもしれませんよ」
「素直に自分がやりましたと、認める者ばかりではありません。それに、勘違いでドレスが破れるものでしょうか」
「それこそ、本人が自分でやったと、息子は主張しているそうですが、一方だけを信じて、もう一方は信じないのですか? 学園はいつからそのように不平等になったのです?」
「なっ…失礼ですぞ、侯爵様、いくら侯爵様と言えど、そのような侮辱、聞き捨てなりません」
「私はただ、加害者と言われているギャレットの言い分も聞き入れていただくべきだと申しているのです」
「いくら爵位が上でも、何でも許されると思われては困ります。我が学園は建国以降八百年の歴史があり、王立ながら自由な校風で知られておりますが、やっていいことと悪いことがございます。ご子息は品位を欠いた行動を取られたとしか言いようがありません」
「自由な校風…人に濡れ衣を着せた者が被害者の顔をしているのも、その一環ですか」
「な! 侯爵様、いくらなんでもお言葉が過ぎます」
「そうですか? 息子を犯罪者呼ばわりされて、それが冤罪だとわかっていて黙っていられる親がおりますか?」
顔は穏やかだが、父が完全に怒っているのがギャレットにはわかった。
「モヒナート家の家風がどのようなものかわかりませんが、少しご子息を甘やかしすぎではありませんか?」
「教育には熱心とは言えませんが、幸い上の息子もこの子も、親が言わなくても努力する子たちなので、喜んでいます。その分、私達親は何もすることがなく、少々手応えがありませんが、嘘をつく子たちではありません」
父はギャレットを見てにこりと微笑む。
「なるほど、そのような出方をされるのであれな、致した方ありません。我々としてもことを重く見て、ご子息に反省の色なしとして、一ヶ月の停学を言い渡すしかありません」
「停学…」
確か、最初は一週間の謹慎だった。
罰が重くなってしまった。
「一ヶ月後、もう一度面談させていただき、悔い改められるなら、復帰も可能でしょうが、万が一反省の色なしと判断した場合は、不名誉ながら退学処分も覚悟していただきたい」
火に油を注ぐ父の態度に腹を据えかねた学園長は、伝家の宝刀である退学処分を持ち出した。
「わかりました。では、息子をこのまま連れ帰ってもよろしいでしょうか。ギャレット、待っているから支度をしてきなさい」
用は済んだと父は立ち上がった。
「はい、父上」
「お待ち下さい、相手の令嬢に対して謝罪は?」
「謝罪? 息子に濡れ衣を着せた相手に何を言えと言うのですか。逆にこちらが謝ってほしいくらいです」
「なぜそこまで言い切れるのですか!」
「私は息子を信じています。第一、相手の令嬢はミーシャ=オハイエとお聞きしています。息子が彼女を襲うなど、太陽が西から昇るのと同じくらい有りえません」
「父上…」
ギャレットは父のことを尊敬している。小説の中では実の息子を可愛がり、養子に迎えたジュストを蔑ろにした親ばかな印象だった。
しかし実際は、監禁されていたジュストを引き取り、家族にしようとした温かい人なのだ。
好き勝手させてくれているようで、押さえるところは押さえ、父として真摯に向き合い家長として皆を支えてくれている。
とても頼りがいがあるし、理不尽なことは一切しない。
父のようになりたい。
無条件に自分を信じてくれている父の姿に、ギャレットは頼もしさを感じた。
ギャレットはすぐに寮に戻され、外出禁止の監禁。ミーシャも精神的ショックが大きいからと、友人たちの監視付きで寮の部屋で静養している。
事情を知る者には固く口止めし、互いの親が呼び出された。
ジュストのことがあって、大変な時にこのような事態になり、冤罪の罠に嵌まってしまった自分の迂闊さが恥ずかしい。
「申し訳ございませんでした」
寮監の部屋で待っていた父親に開口一番謝った。
厳しい表情の学園長に対し、父は呆れた顔をしている。
「ですが、誓って僕は何もしていません」
「それはわかっている。しかし、未然に防げなかったのは失態だったな」
「はい。ですから、申し訳ございませんでした」
「侯爵様、ご子息を庇いたいお気持ちはわかりますが、目撃者もいて、ご子息の罪状は明らかです」
学園長がギャレットの無実を疑っていないことに、横から言葉を挟んだ。
「罪状? 私の息子を罪人扱いですか?」
「女生徒に破廉恥な振る舞いをしたのです。国の法律でも裁かれるべき事案です」
「それが本当ならな。しかし息子は認めておりません。その令嬢の勘違いかもしれませんよ」
「素直に自分がやりましたと、認める者ばかりではありません。それに、勘違いでドレスが破れるものでしょうか」
「それこそ、本人が自分でやったと、息子は主張しているそうですが、一方だけを信じて、もう一方は信じないのですか? 学園はいつからそのように不平等になったのです?」
「なっ…失礼ですぞ、侯爵様、いくら侯爵様と言えど、そのような侮辱、聞き捨てなりません」
「私はただ、加害者と言われているギャレットの言い分も聞き入れていただくべきだと申しているのです」
「いくら爵位が上でも、何でも許されると思われては困ります。我が学園は建国以降八百年の歴史があり、王立ながら自由な校風で知られておりますが、やっていいことと悪いことがございます。ご子息は品位を欠いた行動を取られたとしか言いようがありません」
「自由な校風…人に濡れ衣を着せた者が被害者の顔をしているのも、その一環ですか」
「な! 侯爵様、いくらなんでもお言葉が過ぎます」
「そうですか? 息子を犯罪者呼ばわりされて、それが冤罪だとわかっていて黙っていられる親がおりますか?」
顔は穏やかだが、父が完全に怒っているのがギャレットにはわかった。
「モヒナート家の家風がどのようなものかわかりませんが、少しご子息を甘やかしすぎではありませんか?」
「教育には熱心とは言えませんが、幸い上の息子もこの子も、親が言わなくても努力する子たちなので、喜んでいます。その分、私達親は何もすることがなく、少々手応えがありませんが、嘘をつく子たちではありません」
父はギャレットを見てにこりと微笑む。
「なるほど、そのような出方をされるのであれな、致した方ありません。我々としてもことを重く見て、ご子息に反省の色なしとして、一ヶ月の停学を言い渡すしかありません」
「停学…」
確か、最初は一週間の謹慎だった。
罰が重くなってしまった。
「一ヶ月後、もう一度面談させていただき、悔い改められるなら、復帰も可能でしょうが、万が一反省の色なしと判断した場合は、不名誉ながら退学処分も覚悟していただきたい」
火に油を注ぐ父の態度に腹を据えかねた学園長は、伝家の宝刀である退学処分を持ち出した。
「わかりました。では、息子をこのまま連れ帰ってもよろしいでしょうか。ギャレット、待っているから支度をしてきなさい」
用は済んだと父は立ち上がった。
「はい、父上」
「お待ち下さい、相手の令嬢に対して謝罪は?」
「謝罪? 息子に濡れ衣を着せた相手に何を言えと言うのですか。逆にこちらが謝ってほしいくらいです」
「なぜそこまで言い切れるのですか!」
「私は息子を信じています。第一、相手の令嬢はミーシャ=オハイエとお聞きしています。息子が彼女を襲うなど、太陽が西から昇るのと同じくらい有りえません」
「父上…」
ギャレットは父のことを尊敬している。小説の中では実の息子を可愛がり、養子に迎えたジュストを蔑ろにした親ばかな印象だった。
しかし実際は、監禁されていたジュストを引き取り、家族にしようとした温かい人なのだ。
好き勝手させてくれているようで、押さえるところは押さえ、父として真摯に向き合い家長として皆を支えてくれている。
とても頼りがいがあるし、理不尽なことは一切しない。
父のようになりたい。
無条件に自分を信じてくれている父の姿に、ギャレットは頼もしさを感じた。
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