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69 もう一人の転生者①
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「こんにちは、ギャレット様」
ミーシャ=オハイエは優雅にスカートを軽く摘んでお辞儀をする。
「ここで何をしていらっしゃるのですか?」
きつい言い方になるのを抑えて訊ねる。
「それは私の台詞ですわ。ギャレット様こそ、こんな場所にわざわざいらっしゃるなんて、興味がありますわ」
「あなたには関係ありません」
その時、自分が軽率なことをしたと気づいた。
未婚の男女が人気のない場所で会っていたとなったら、大変なことになる。
シエナに待っていると言われて、無理だと伝えに来ただけど言っても、誰かに見られたらお互いに困ったことになっていた。
とはいえ、今の状態もいい状態とは言えない。
シエナはまだ来ていないようだが、来るまで部屋の外で待っていようと踵を返した。
「シエナ嬢は来ません」
「え?」
「私があなたに話があると言って彼女に協力していただきました」
「なぜそんなことを」
「だって、私の名前でお呼びしても、あなたは来ていただけないでしょう?」
「当たり前だ」
礼儀知らずと言われようと、ミーシャ=オハイエとは関わりたくない。
「私、ギャレット様に嫌われるようなことをいたしましたか?」
傷ついた表情を大げさに作り、まるで心当たりがなさそうな振る舞いに、ギャレットは呆れて物が言えない
「自分の胸に手を当てて考えて見てください」
「それがまったく…あ、もしかしてお姉様のことですか?」
「わかっているなら…」
「私と母がお姉様を粗略に扱ったと、そうお姉様が仰ったのですか?」
「粗略…随分控えめな言い方ですね。別の言い方…虐待の方が相応しいのでは?」
ギャレットがそう言うと、ミーシャの肩が揺れるのが離れていてもわかった。
「すべて同情を得るための彼女の虚言、とは思わないのですか?」
「そうは思いません。実際に彼女の体には…」
「それこそ、自作自演かもしれません。彼女の証言だけで、私と母を『悪』と決めつけるのですか」
「レーヌ様が嘘をついていると? それこそ言い逃れです」
「何故です? なぜそう思われるのですか? 私と母が実際に彼女に手を出している場面を見てもいないのに」
ああ言えばこう言う。拉致があかない。
シエナが用があるというから、パートナーとして来たが、彼女が来ないならここでミーシャと不毛な問答を続ける意味も余裕もない。
「もういい…」
「それとも、『読んだ』から知っているのですか?」
「え?」
振り返って今度こそ部屋を出ようとしたギャレットの耳に、彼女の確信に満ちた言葉が飛び込んできた。
「オハイエ嬢?」
「ギャレット=モヒナート。義兄のジュスト=モヒナートを幼い頃から虐める悪役令息。そしてジュストが同じように虐待を受けていたレーヌに手を出したことで、呆気なく殺された『放蕩貴族は月の乙女を愛して止まない』のサブキャラ」
ミーシャの口からギャレットについての設定が語られる。それをギャレットは目を見開いて呆然と立ち尽くして聞いていた。
「驚いた? こっちも驚いたわ。よりによってモブもモブ。名前だけで小説の中では登場すらしなかった人物に生まれ変わったんだから。しかも、悪役令息とメインキャラのジュストが見ていて恥ずかしくなる程イチャイチャしているし、私が書いたのはTLなのに、BLかって言うのよ」
「『書いた』?」
「そう、『放蕩貴族は月の乙女を愛して止まない』は、私が書いたネット小説を加筆修正して出版したものよ。そしてあんたは我儘放題の悪役令息としてあっさり殺される筈だった。なのに、どういうことよ。私の書いた小説の筋書きを変えてくれちゃって、これって作者に対する冒涜じゃない?」
胸の前で腕を組んで、ミーシャは一気に捲し立て、不平不満をぶちまけた。
「ギャレット=モヒナート、あんたも転生者なんでしょ? それともジュストの方かしら?」
ミーシャ=オハイエは優雅にスカートを軽く摘んでお辞儀をする。
「ここで何をしていらっしゃるのですか?」
きつい言い方になるのを抑えて訊ねる。
「それは私の台詞ですわ。ギャレット様こそ、こんな場所にわざわざいらっしゃるなんて、興味がありますわ」
「あなたには関係ありません」
その時、自分が軽率なことをしたと気づいた。
未婚の男女が人気のない場所で会っていたとなったら、大変なことになる。
シエナに待っていると言われて、無理だと伝えに来ただけど言っても、誰かに見られたらお互いに困ったことになっていた。
とはいえ、今の状態もいい状態とは言えない。
シエナはまだ来ていないようだが、来るまで部屋の外で待っていようと踵を返した。
「シエナ嬢は来ません」
「え?」
「私があなたに話があると言って彼女に協力していただきました」
「なぜそんなことを」
「だって、私の名前でお呼びしても、あなたは来ていただけないでしょう?」
「当たり前だ」
礼儀知らずと言われようと、ミーシャ=オハイエとは関わりたくない。
「私、ギャレット様に嫌われるようなことをいたしましたか?」
傷ついた表情を大げさに作り、まるで心当たりがなさそうな振る舞いに、ギャレットは呆れて物が言えない
「自分の胸に手を当てて考えて見てください」
「それがまったく…あ、もしかしてお姉様のことですか?」
「わかっているなら…」
「私と母がお姉様を粗略に扱ったと、そうお姉様が仰ったのですか?」
「粗略…随分控えめな言い方ですね。別の言い方…虐待の方が相応しいのでは?」
ギャレットがそう言うと、ミーシャの肩が揺れるのが離れていてもわかった。
「すべて同情を得るための彼女の虚言、とは思わないのですか?」
「そうは思いません。実際に彼女の体には…」
「それこそ、自作自演かもしれません。彼女の証言だけで、私と母を『悪』と決めつけるのですか」
「レーヌ様が嘘をついていると? それこそ言い逃れです」
「何故です? なぜそう思われるのですか? 私と母が実際に彼女に手を出している場面を見てもいないのに」
ああ言えばこう言う。拉致があかない。
シエナが用があるというから、パートナーとして来たが、彼女が来ないならここでミーシャと不毛な問答を続ける意味も余裕もない。
「もういい…」
「それとも、『読んだ』から知っているのですか?」
「え?」
振り返って今度こそ部屋を出ようとしたギャレットの耳に、彼女の確信に満ちた言葉が飛び込んできた。
「オハイエ嬢?」
「ギャレット=モヒナート。義兄のジュスト=モヒナートを幼い頃から虐める悪役令息。そしてジュストが同じように虐待を受けていたレーヌに手を出したことで、呆気なく殺された『放蕩貴族は月の乙女を愛して止まない』のサブキャラ」
ミーシャの口からギャレットについての設定が語られる。それをギャレットは目を見開いて呆然と立ち尽くして聞いていた。
「驚いた? こっちも驚いたわ。よりによってモブもモブ。名前だけで小説の中では登場すらしなかった人物に生まれ変わったんだから。しかも、悪役令息とメインキャラのジュストが見ていて恥ずかしくなる程イチャイチャしているし、私が書いたのはTLなのに、BLかって言うのよ」
「『書いた』?」
「そう、『放蕩貴族は月の乙女を愛して止まない』は、私が書いたネット小説を加筆修正して出版したものよ。そしてあんたは我儘放題の悪役令息としてあっさり殺される筈だった。なのに、どういうことよ。私の書いた小説の筋書きを変えてくれちゃって、これって作者に対する冒涜じゃない?」
胸の前で腕を組んで、ミーシャは一気に捲し立て、不平不満をぶちまけた。
「ギャレット=モヒナート、あんたも転生者なんでしょ? それともジュストの方かしら?」
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