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65 新たな展開③
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(どうして彼女が「悪役令息」という言葉を? 聞き間違い? それとも彼女も転生者?)
モヒナート家に向かう馬車の中で、ギャレットは先ほど耳にした言葉について考えていた。
実際、自分もTL小説「放蕩貴族は月の乙女を愛して止まない」の世界に転生したのだから、他にもいても不思議ではない。
だが、まだそうとは言い切れない。
でも・・
頭の中で「そうかも」「そうじゃないかも」と思考が行ったり来たりしている内に、馬車はモヒナート家に着いた。
「お帰り、ギャレット」
馬車が止まるやいなや、扉が開いてジュストが声をかけた。
「ジュスト、兄上、ただいま」
腕を広げて待ち受けるジュストに、馬車から飛び降りて抱きついた。
ミーシャのせいでモヤモヤした気持ちも、ジュストの顔を見ると幾分晴れやかになった。
兄以上の思いを寄せていたが、世間的にはまだギャレットとジュストは兄弟。
この関係が別の何かに発展する日が来るのだろうか。
それでも、この温かいジュストの腕に包まれると、ギャレットは幸せな気持ちになった。
「ジュスト様、わたくしの仕事を奪わないでください」
自分より先にジュストが馬車の扉を開けたので、ロバーツがギャレットの荷物を降ろして玄関に置きながら、仕事を捕られたと文句を言う。
「ごめんごめん、ロバーツ。それよりちょっと遅かったな」
ギャレットを地面に降ろし、ジュストはいつものようにくしゃっと髪の毛をいじった。
「途中で蹄鉄が外れたんだって。直すのに鍛冶屋に寄っていた遅くなったって」
「すみません、点検不足でした」
「そうか。さあ、中に入ろう、父上達も待っているよ」
「はい。ロバーツ、ありがとう」
ロバーツに手を振ってジュストと並んで屋敷に入った。
「ギャレット、ちょうど今日の午後に仕立屋が来ることになっています。少し早いですが社交界デビューの舞踏会に着ていく礼服を作りましょう」
帰宅の挨拶を済ませると、ナディアが言った。
「俺の服がちょうどできあがって来るんだ」
「ジュストの?」
「そう。今度シェルテーレに王太子様のお供で外交に行くから、父上の勧めでいくつか新調することになったんだ」
旅行に行く時は新しい服を買いたくなるものだ。そういう真理なのか。
「シェルテーレ・・」
隣の国だけど、良い噂はあまり聞かない。少し前もどこかで水害が起って村がひとつ消えたと聞いた。
そして、彼の国には赤い目を悪魔の目だと考える因習が今でも残り、それを信じるカルトな集団がいる。
ジュストはそこの教会の地下に閉じ込められ、長い間虐待されていた。
それをギャレットは小説で読んだだけだが、ジュストは実際に経験しているのだ。
「今回はその災害復興に我が国から支援物資を届けるんだ。王太子様が国の代表として目録を持ってシェルテーレの国王陛下に謁見する」
「ステファンも?」
「ステファンは最初は同行する予定だったが、色々あって今回は留守番だ」
てっきりステファンも同行すると思ったが、同行はジュストと他の二名が付いていくそうだ。
「レーヌがね、どうやら身ごもったらしいんだ」
「え、そうなの」
まだわかったばかりだから、油断はできないらしい。そんな状態なので王太子様もステファンを居残り組にしたそうだ。
「じゃあ、今度僕会いに行っていいかな」
「ステファンも喜ぶよ」
それから仕立屋がやってきた。
今回は復興支援の物資を届ける目的なので、煌びやかな装飾は省き、できるだけシンプルなものにしたそうだ。
その分生地は丈夫で質の良い物を使っている。色も濃いグレーや紺、チャコールグレーなど地味目のもので揃えた。
「ちょっと地味すぎだったかしら」
「そう思われますか?」
仕上がった上着を羽織ったジュストを見てナディアが言った。ジュストは鏡に映る自分を見て考え込む。
「さ、さようでございますか」
気に入ってもらえなかったことに仕立屋が青くなる。
「そんなことないよ。服がシンプルな分、ジュストの顔立ちが際立って凜々しい。格好いいよ」
イケメンは何を着てもイケメン。派手な装飾などなくても、その顔ですべて完結する。
「それに大人びて見えて、いかにも国を代表して使節としてやってきた王太子様の側近って感じだ」
ギャレットの言葉に仕立屋もほっと胸を撫で下ろしたのがわかった。
モヒナート家に向かう馬車の中で、ギャレットは先ほど耳にした言葉について考えていた。
実際、自分もTL小説「放蕩貴族は月の乙女を愛して止まない」の世界に転生したのだから、他にもいても不思議ではない。
だが、まだそうとは言い切れない。
でも・・
頭の中で「そうかも」「そうじゃないかも」と思考が行ったり来たりしている内に、馬車はモヒナート家に着いた。
「お帰り、ギャレット」
馬車が止まるやいなや、扉が開いてジュストが声をかけた。
「ジュスト、兄上、ただいま」
腕を広げて待ち受けるジュストに、馬車から飛び降りて抱きついた。
ミーシャのせいでモヤモヤした気持ちも、ジュストの顔を見ると幾分晴れやかになった。
兄以上の思いを寄せていたが、世間的にはまだギャレットとジュストは兄弟。
この関係が別の何かに発展する日が来るのだろうか。
それでも、この温かいジュストの腕に包まれると、ギャレットは幸せな気持ちになった。
「ジュスト様、わたくしの仕事を奪わないでください」
自分より先にジュストが馬車の扉を開けたので、ロバーツがギャレットの荷物を降ろして玄関に置きながら、仕事を捕られたと文句を言う。
「ごめんごめん、ロバーツ。それよりちょっと遅かったな」
ギャレットを地面に降ろし、ジュストはいつものようにくしゃっと髪の毛をいじった。
「途中で蹄鉄が外れたんだって。直すのに鍛冶屋に寄っていた遅くなったって」
「すみません、点検不足でした」
「そうか。さあ、中に入ろう、父上達も待っているよ」
「はい。ロバーツ、ありがとう」
ロバーツに手を振ってジュストと並んで屋敷に入った。
「ギャレット、ちょうど今日の午後に仕立屋が来ることになっています。少し早いですが社交界デビューの舞踏会に着ていく礼服を作りましょう」
帰宅の挨拶を済ませると、ナディアが言った。
「俺の服がちょうどできあがって来るんだ」
「ジュストの?」
「そう。今度シェルテーレに王太子様のお供で外交に行くから、父上の勧めでいくつか新調することになったんだ」
旅行に行く時は新しい服を買いたくなるものだ。そういう真理なのか。
「シェルテーレ・・」
隣の国だけど、良い噂はあまり聞かない。少し前もどこかで水害が起って村がひとつ消えたと聞いた。
そして、彼の国には赤い目を悪魔の目だと考える因習が今でも残り、それを信じるカルトな集団がいる。
ジュストはそこの教会の地下に閉じ込められ、長い間虐待されていた。
それをギャレットは小説で読んだだけだが、ジュストは実際に経験しているのだ。
「今回はその災害復興に我が国から支援物資を届けるんだ。王太子様が国の代表として目録を持ってシェルテーレの国王陛下に謁見する」
「ステファンも?」
「ステファンは最初は同行する予定だったが、色々あって今回は留守番だ」
てっきりステファンも同行すると思ったが、同行はジュストと他の二名が付いていくそうだ。
「レーヌがね、どうやら身ごもったらしいんだ」
「え、そうなの」
まだわかったばかりだから、油断はできないらしい。そんな状態なので王太子様もステファンを居残り組にしたそうだ。
「じゃあ、今度僕会いに行っていいかな」
「ステファンも喜ぶよ」
それから仕立屋がやってきた。
今回は復興支援の物資を届ける目的なので、煌びやかな装飾は省き、できるだけシンプルなものにしたそうだ。
その分生地は丈夫で質の良い物を使っている。色も濃いグレーや紺、チャコールグレーなど地味目のもので揃えた。
「ちょっと地味すぎだったかしら」
「そう思われますか?」
仕上がった上着を羽織ったジュストを見てナディアが言った。ジュストは鏡に映る自分を見て考え込む。
「さ、さようでございますか」
気に入ってもらえなかったことに仕立屋が青くなる。
「そんなことないよ。服がシンプルな分、ジュストの顔立ちが際立って凜々しい。格好いいよ」
イケメンは何を着てもイケメン。派手な装飾などなくても、その顔ですべて完結する。
「それに大人びて見えて、いかにも国を代表して使節としてやってきた王太子様の側近って感じだ」
ギャレットの言葉に仕立屋もほっと胸を撫で下ろしたのがわかった。
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