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62 もうすぐ卒業③
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「反吐が出る」
心の中の声がポロリと口に出た。
「珍しいな、そこまでお前が言うなんて」
「誰とどう付き合うかまで制限するつもりはないから、君が彼女を気に入ったなら、僕に遠慮せず交流を深めてくれ」
ギャレットが彼女を嫌っているだけで、他の人たちの付き合いまで口出すつもりはない。
「いや、別にそこまで付き合いたいかと言われれば、そんなことはない。ギャレットが嫌なら俺も彼女とは関わらないようにしよう。そこまで嫌うなんて、何かあるんだろう」
「彼女は天使の皮を被った悪魔だ」
そう言い、ふと小説の中では自分がそう呼ばれていたなと、思い出した。
「まあ、おそらく他の令嬢たちより少しギャレットと面識があることを自慢して、優位に立ちたかったんだろうけど、宛てが外れたみたいだな」
同情の声がマルセルから漏れたが、ギャレットもそうだろうとは思っていた。
「しかし、Eクラスか。それなら特進に入ってくることは皆無だな。安心した」
これからの彼女の頑張り次第で成績は上げられるだろうが、それは難しいとは思う。
忍耐と努力、レーヌから聞いたミーシャの気性には、その言葉は見当たらなかった。
「遅かったわね」
先に席に着いていたクリスとラエルが、二人の分の食事も置いてくれてあった。
学食はメインだけを選べるのだが、もう三年一緒にいるので、その辺りの好みは熟知してくれている。
「ありがとう。ごめん、ちょっと呼び止められて」
「ここからも見えていたわ」
「いつものことだけど、ギャレットのそんな顔、初めて見たな。いつももっと淡々とした感じなのに」
「あの中心にいた子、レーヌ=オハイエ…今はアベリー様の妹さんでしょ?」
「後妻こ連れ子だからレーヌ様とも伯爵とも血の繋がりはないけどね」
「先妻のシェリル様とは私の母も学園で机を並べていたから、まだ交流があったのだけど、今の夫人とは母もあまりご一緒することはないみたい」
「理由でも?」
「単に合わないということだけど、自慢話と他人の…特に長女のレーヌ様のことを悪し様に言うのが、耐えられなかったというのが本当のところよ」
「そんな母親を見て育ったなら、あの子も似た感じかな」
「それだけで決めつけるのは良くないけど…」
「何か知っているのね」
「まあ、そこは他人の家のことだから、僕が吹聴して回るわけにはいかないけど…」
頭脳明晰の三人はギャレットの言葉の裏をきちんと理解してくれている。
「ギャレットの言うとおり、私達から声をかけなければ関わることもないでしょうから、私達もあなたの意思を尊重するわ」
「互いの家の付き合いもあるだろうこら、強制はしないよ」
「大丈夫、オハイエ家と我が家は特に利害関係もないから」
「ラエルに同じ」
クリスが手を上げ、ラエルに賛同する。
「俺もだ。両親も自分たちの付き合いとは別に、自分でも優良な繋がりを作れと言って、意見を尊重してくれている。俺たちは俺たちでちゃんと判断するよ。学園を卒業する年でそれくらい判断できないようでは、後なんて継げないからね」
クリスも同意する。
クリスは既に両親とは別に自分のルートで商会を立ち上げている。
しかもそれは上手くいっている。
地球で言うところのベンチャービジネスだが、商才はかなりある方だ。
少し前は貴族が領地運営や、国の機関での勤務以外で金儲けで商売をすることは、卑しいことと思われいたが、円滑な領地運営をする上でも、領地の特色を活かしたりするのと何ら変わりないということで、若い世代からは受け入れられつつある。
「どちらにしろ、最終学年の俺たちは、そんな余裕もないしな」
「そうそう、卒論とか…」
「う、それを言うな…少なくとも食事の間だけは忘れさせてくれ」
「同じく」
この学園も日本の大学同様に卒論などがある。それを出さなければ卒業出来ない。
このとき、ギャレットはミーシャ=オハイエについて、こちらから近づかなければいいと、高をくくっていた。
彼女の悪行を言いふらすのは簡単だが、それでは彼女と同じ部類の人間になってしまうと、理知的に対応したつもりだった。
心の中の声がポロリと口に出た。
「珍しいな、そこまでお前が言うなんて」
「誰とどう付き合うかまで制限するつもりはないから、君が彼女を気に入ったなら、僕に遠慮せず交流を深めてくれ」
ギャレットが彼女を嫌っているだけで、他の人たちの付き合いまで口出すつもりはない。
「いや、別にそこまで付き合いたいかと言われれば、そんなことはない。ギャレットが嫌なら俺も彼女とは関わらないようにしよう。そこまで嫌うなんて、何かあるんだろう」
「彼女は天使の皮を被った悪魔だ」
そう言い、ふと小説の中では自分がそう呼ばれていたなと、思い出した。
「まあ、おそらく他の令嬢たちより少しギャレットと面識があることを自慢して、優位に立ちたかったんだろうけど、宛てが外れたみたいだな」
同情の声がマルセルから漏れたが、ギャレットもそうだろうとは思っていた。
「しかし、Eクラスか。それなら特進に入ってくることは皆無だな。安心した」
これからの彼女の頑張り次第で成績は上げられるだろうが、それは難しいとは思う。
忍耐と努力、レーヌから聞いたミーシャの気性には、その言葉は見当たらなかった。
「遅かったわね」
先に席に着いていたクリスとラエルが、二人の分の食事も置いてくれてあった。
学食はメインだけを選べるのだが、もう三年一緒にいるので、その辺りの好みは熟知してくれている。
「ありがとう。ごめん、ちょっと呼び止められて」
「ここからも見えていたわ」
「いつものことだけど、ギャレットのそんな顔、初めて見たな。いつももっと淡々とした感じなのに」
「あの中心にいた子、レーヌ=オハイエ…今はアベリー様の妹さんでしょ?」
「後妻こ連れ子だからレーヌ様とも伯爵とも血の繋がりはないけどね」
「先妻のシェリル様とは私の母も学園で机を並べていたから、まだ交流があったのだけど、今の夫人とは母もあまりご一緒することはないみたい」
「理由でも?」
「単に合わないということだけど、自慢話と他人の…特に長女のレーヌ様のことを悪し様に言うのが、耐えられなかったというのが本当のところよ」
「そんな母親を見て育ったなら、あの子も似た感じかな」
「それだけで決めつけるのは良くないけど…」
「何か知っているのね」
「まあ、そこは他人の家のことだから、僕が吹聴して回るわけにはいかないけど…」
頭脳明晰の三人はギャレットの言葉の裏をきちんと理解してくれている。
「ギャレットの言うとおり、私達から声をかけなければ関わることもないでしょうから、私達もあなたの意思を尊重するわ」
「互いの家の付き合いもあるだろうこら、強制はしないよ」
「大丈夫、オハイエ家と我が家は特に利害関係もないから」
「ラエルに同じ」
クリスが手を上げ、ラエルに賛同する。
「俺もだ。両親も自分たちの付き合いとは別に、自分でも優良な繋がりを作れと言って、意見を尊重してくれている。俺たちは俺たちでちゃんと判断するよ。学園を卒業する年でそれくらい判断できないようでは、後なんて継げないからね」
クリスも同意する。
クリスは既に両親とは別に自分のルートで商会を立ち上げている。
しかもそれは上手くいっている。
地球で言うところのベンチャービジネスだが、商才はかなりある方だ。
少し前は貴族が領地運営や、国の機関での勤務以外で金儲けで商売をすることは、卑しいことと思われいたが、円滑な領地運営をする上でも、領地の特色を活かしたりするのと何ら変わりないということで、若い世代からは受け入れられつつある。
「どちらにしろ、最終学年の俺たちは、そんな余裕もないしな」
「そうそう、卒論とか…」
「う、それを言うな…少なくとも食事の間だけは忘れさせてくれ」
「同じく」
この学園も日本の大学同様に卒論などがある。それを出さなければ卒業出来ない。
このとき、ギャレットはミーシャ=オハイエについて、こちらから近づかなければいいと、高をくくっていた。
彼女の悪行を言いふらすのは簡単だが、それでは彼女と同じ部類の人間になってしまうと、理知的に対応したつもりだった。
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