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60 もうすぐ卒業①
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ギャレットは最終学年になった。
成績もトップとは言えないが、特進クラスを維持することができた。
「何とかお互い特進で終えることができそうだな」
そう声を掛けてきたのは、ギャレットと同学年で同じ特進クラスのクリス=ポーネクル伯爵令息。
父親が宰相を勤めていて、成績では常に上位にいる。
ギャレットにも学園で友人と呼べる仲間が何人かいて、彼もその一人だ。
「ラエル、君も特進か」
クリスがギャレットと並んで座っていると、前の席に座ろうとした女生徒に声をかけた。
「ええ、一年間よろしくね」
黒髪と緑の瞳のラエル=エセス伯爵令嬢はクリスのイトコで、王太子殿下の婚約者最有力候補と噂されている。
凛とした立ち姿や態度には媚びた様子もなく、ギャレットやクリスたちにも他の人達と同じように接してくれるので、ギャレットとしても気楽に話せる女子の一人だった。
ギャレットとクリス、そしてもう一人マルセル=ドスゴー子爵令息の三人は、それぞれタイプが違うが仲がよく、学園内の女生徒たちからアイドルのように騒がれている。
知的なクリスと、武勇に優れたマルセル。そしてギャレットは才能はクリスとマルセルを足して割った感じだが、その容姿は三人の中で群を抜いていて、実質のリーダーのようになっている。
クリスたちとラエルの四人が生徒会メンバーで、四人そろうと圧巻の雰囲気が漂っている。
「そろそろお昼だ。学食に行こうか」
授業が終わり昼休憩となり、四人で食堂へと移動する。
「そういえばギャレット、変な噂を聞いたんだけど」
「変な噂?」
マルセルが食堂へ向かう廊下を歩いている時に話しかけた。
「そう、君、近々婚約するの?」
「え、何それ」
まさか自分の婚約話が噂になっていると思わず、驚く。
「やっぱり、単なる噂か」
「それ、私も聞きましたわ」
ラエルも知っているらしい。
「どういうこと? 父上たちからは何も聞いていないんだけど…」
当事者が自分の婚約について他の人から話を聞かされるとは、どうなっているんだろう。
「あの、ギャレット様、ごきげんよう」
食堂に入るとすぐにギャレットは声をかけられた。
振り向いてそこに立っている人物を見たギャレットの目が細められた。
「ほら、ミーシャ様」
「あ、あの…ギャレット様、私…」
もじもじと頬を赤らめ上目遣いにギャレットに話しかけたのは、明らかに一年生だとわかる女生徒四人だった。
その中心にいるのは、柔らかい栗色の巻毛にラピスラズリのような瞳をして、小柄だが出るところは出ている女生徒。
ミーシャ=オハイエ。
レーヌの義理の妹。彼女の父親の後妻の連れ子。
ギャレットは彼女とステファンの結婚式で見かけたきりだった。
恥ずかしそうにして弱々しい雰囲気を醸し出しているが、その本性は母親と一緒になって感情にまかせて義理の姉を虐める最低の人間だと、ギャレットは知っている。
「ギャレット、どうした。おや、一年生かな、初々しいね」
立ち止まったギャレットの所へ戻ってきたマルセルが、ミーシャ達を見て言った。
「可愛らしいお嬢さんたち、こいつに何か用?」
フェミニストのマルセルが、彼女たちにそう言うと、皆があら、と頬を染めた。
「あの、これ…」
ミーシャが小さな箱をギャレットに差し出す。
「何、これ?」
ギャレットは素っ気なく尋ねた。
はっきり言ってギャレットは彼女を視界にも入れたくなかったが、それはギャレットの問題であって、公衆の場で個人的な感情で騒ぐつもりはなかった。
彼女がギャレットより二つ下で、今年学園に入学してくることはわかっていたことだったが、出来れば卒業までは会わないでおきたかった。
控えめに言っても利口ではないらしいことはレーヌから聞いていたので、特進には来ることはないと思っていた。
「クッキーです。私が焼きました。生徒会の皆様でお茶請けにお召し上がりください」
クッキー? ほんとに彼女が焼いたかどうかもわからないが、なぜギャレットに渡そうとするのだろう。
ギャレットは差し出された箱を、爆弾でも入っているかのように見つめた。
成績もトップとは言えないが、特進クラスを維持することができた。
「何とかお互い特進で終えることができそうだな」
そう声を掛けてきたのは、ギャレットと同学年で同じ特進クラスのクリス=ポーネクル伯爵令息。
父親が宰相を勤めていて、成績では常に上位にいる。
ギャレットにも学園で友人と呼べる仲間が何人かいて、彼もその一人だ。
「ラエル、君も特進か」
クリスがギャレットと並んで座っていると、前の席に座ろうとした女生徒に声をかけた。
「ええ、一年間よろしくね」
黒髪と緑の瞳のラエル=エセス伯爵令嬢はクリスのイトコで、王太子殿下の婚約者最有力候補と噂されている。
凛とした立ち姿や態度には媚びた様子もなく、ギャレットやクリスたちにも他の人達と同じように接してくれるので、ギャレットとしても気楽に話せる女子の一人だった。
ギャレットとクリス、そしてもう一人マルセル=ドスゴー子爵令息の三人は、それぞれタイプが違うが仲がよく、学園内の女生徒たちからアイドルのように騒がれている。
知的なクリスと、武勇に優れたマルセル。そしてギャレットは才能はクリスとマルセルを足して割った感じだが、その容姿は三人の中で群を抜いていて、実質のリーダーのようになっている。
クリスたちとラエルの四人が生徒会メンバーで、四人そろうと圧巻の雰囲気が漂っている。
「そろそろお昼だ。学食に行こうか」
授業が終わり昼休憩となり、四人で食堂へと移動する。
「そういえばギャレット、変な噂を聞いたんだけど」
「変な噂?」
マルセルが食堂へ向かう廊下を歩いている時に話しかけた。
「そう、君、近々婚約するの?」
「え、何それ」
まさか自分の婚約話が噂になっていると思わず、驚く。
「やっぱり、単なる噂か」
「それ、私も聞きましたわ」
ラエルも知っているらしい。
「どういうこと? 父上たちからは何も聞いていないんだけど…」
当事者が自分の婚約について他の人から話を聞かされるとは、どうなっているんだろう。
「あの、ギャレット様、ごきげんよう」
食堂に入るとすぐにギャレットは声をかけられた。
振り向いてそこに立っている人物を見たギャレットの目が細められた。
「ほら、ミーシャ様」
「あ、あの…ギャレット様、私…」
もじもじと頬を赤らめ上目遣いにギャレットに話しかけたのは、明らかに一年生だとわかる女生徒四人だった。
その中心にいるのは、柔らかい栗色の巻毛にラピスラズリのような瞳をして、小柄だが出るところは出ている女生徒。
ミーシャ=オハイエ。
レーヌの義理の妹。彼女の父親の後妻の連れ子。
ギャレットは彼女とステファンの結婚式で見かけたきりだった。
恥ずかしそうにして弱々しい雰囲気を醸し出しているが、その本性は母親と一緒になって感情にまかせて義理の姉を虐める最低の人間だと、ギャレットは知っている。
「ギャレット、どうした。おや、一年生かな、初々しいね」
立ち止まったギャレットの所へ戻ってきたマルセルが、ミーシャ達を見て言った。
「可愛らしいお嬢さんたち、こいつに何か用?」
フェミニストのマルセルが、彼女たちにそう言うと、皆があら、と頬を染めた。
「あの、これ…」
ミーシャが小さな箱をギャレットに差し出す。
「何、これ?」
ギャレットは素っ気なく尋ねた。
はっきり言ってギャレットは彼女を視界にも入れたくなかったが、それはギャレットの問題であって、公衆の場で個人的な感情で騒ぐつもりはなかった。
彼女がギャレットより二つ下で、今年学園に入学してくることはわかっていたことだったが、出来れば卒業までは会わないでおきたかった。
控えめに言っても利口ではないらしいことはレーヌから聞いていたので、特進には来ることはないと思っていた。
「クッキーです。私が焼きました。生徒会の皆様でお茶請けにお召し上がりください」
クッキー? ほんとに彼女が焼いたかどうかもわからないが、なぜギャレットに渡そうとするのだろう。
ギャレットは差し出された箱を、爆弾でも入っているかのように見つめた。
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