【完結】TL小説の悪役令息は死にたくないので不憫系当て馬の義兄を今日もヨイショします

七夜かなた

文字の大きさ
上 下
57 / 91

57 互いの成長②

しおりを挟む
ジュストの予想どおり、次の週末ステファンとレーヌがモヒナート家にやってきた。

「ステファン、おめでとう」
「小さい頃から知っているあなたが婚約なんて、感慨深い」
「ありがとうございます、ラファイエ様、ナディア様」
「ありがとうございます」

モヒナート家の応接室ではなく居間に通したのは、それだけステファンがモヒナート家と近しい間柄だからだ。
二人は着いたときからピタリと身を寄せ合って、お互いを大切に思っているのがわかる。

「ねえ、ステファンのどこが良かったの?」
「ギャレット、いきなりその質問か」
「それは大事な質問ね。どうなの?」

ギャレットのいきなりの質問に、ステファンが顔を顰める。ナディアもその質問の答えには興味津々に乗り出した。

「家でも同じことを母に聞かれました。俺にではなく、彼女に聞くのはなぜですか」
「ステファンの意見はどうでもいいからだろ」
「言えてる」
「おいジュスト、お前も一緒になって俺を辱めるのか」
「あら、恥ずかしいことなの?」
「そ、そうじゃないけど…彼女は奥ゆかしいんです。そんな風に聞かれたら何も言えない」
「彼は、他人からの言葉ではなく、私自身を見ていつも接してくれます。どんなときも明るくて、私は彼のそんな明るさに何度も救われました」

小説の中でレーヌの心情として書かれていたから、ギャレットはもちろん予測できた答えだった。

「意外とまとも」
「どんな答えを期待していたのかな、ギャレット」
「もっと情熱的なのを期待してた」
「あなたの義理のお母様には何度かお会いしたことがあります。あちらは大丈夫でしたの?」

ステファンとの婚約は普通なら大歓迎な筈だが、相手はレーヌが幸せになることを望んでいない節がある。
手放しで喜んだとは思えない。

ちらりとレーヌがステファンを見る。それに対してステファンが大きく頷いた。

「義母は、私がアベリー侯爵家には相応しくないと反対しましたが、父の恩師であるカトリー卿が口添えしてくれて、父は賛成するしかなかったようです。母方の親族にもステファン様が根回ししてくれて、反対すれば父の事業にも影響が出るでしょう」
「つまり、脅し」
「ギャレット」

脅して伯爵に首を縦に振らせたと、言おうとしてジュストに口を塞がれた。

「構いません。悲しいことですが、それが真実です。そうでもしないと、父は彼との結婚を許してくれませでした」
「その・・他のご家族は?」

遠慮がちにナディアが訊ねると、無言で彼女は首を振った。

「そう、残念ね」
「仕方がありません。でも、私の家族は母と兄がいます。もうこの世にいませんが・・それに、ステファンと彼の家族がこれから私の家族ですから」
「おにい・・さん?」

レーヌに兄がいた? そんな設定あったかな。少なくとも小説の中には出てこなかった。
これもバグ?

「お母上が亡くなられたことは存じ上げておりますが、他にもご兄弟がいらっしゃるの?」
「双子の兄なのです。母と一緒に暴徒に襲われ生死はわかっておりません。母のように遺体はみつかりませんでしたから。でも状況から考えて父はもう亡くなっていると思っています」

もう亡くなっていて話の流れに関係ないから登場しなかったのか。

「ステファンの家族になるなら、我が家もあなたの家族よ。ねえ、あなた」
「そうだな。アベリー家とはずっと家族ぐるみでつきあいを続けている。ジュストと職場も同じだし、何かと縁がある。これからもよろしく」
「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」

ここへ来たときは緊張していたレーヌの表情が少し緩んだが、ふと、悲しそうな表情を浮かべギャレットとジュストを見た。

「同じ義兄弟でも、こちらのご子息様達はとても仲が良くて、うらやましいです。父は義母と連れ子のことばかり気にして、血の繋がりって何でしょう」
「ギャレットも五歳までは何かとジュストに反発していましたよ。でも、ある日怪我をして目覚めてから急に人が変わったようになって、それからはこちらが呆れるくらいべったりになったの。今でもそうよ」
「お兄さんのこと、好き?」

レーヌがナディアの話を聞いてギャレットに尋ねた。

「はい」

力強いギャレットの返事に、レーヌが今度こそ心から微笑んだ。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

厘/りん
BL
 ナルン王国の下町に暮らす ルカ。 この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。 ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。 国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。 ☆英雄騎士 現在28歳    ルカ 現在18歳 ☆第11回BL小説大賞 21位   皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。    

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

処理中です...