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52 ジュストの一番大事なもの②

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「それで、何が気に入らなくてこんなことを続けている?」
「ステファンには関係ない。どうせこっそり聞いてこいとか言われてるんでしょ」
「面倒くさいな。さっさと不満をぶちまけて仲良くしろよ」

いきなりステファンがブチ切れた。

「ふえ…おにいちゃま…こわい」
「ああ、ごめん、カレンに怒ったわけじゃないから、ごめんな」

急に大きな声を出されてカレンが驚いて涙ぐむのを、ステファンが慌てて慰めた。

「お前が引き籠もろうと俺には痛くも痒くもないが、ジュストの方はそうじゃない。明らかに業務に支障が出ている」
「え!」

カレンを抱き上げて、よしよししながらステファンが言った。

「俺たちはまだ学園を卒業したてのヒヨッコだ。その能力を周りも注目している。特にジュストはモヒナート家の養子で俺たちと違って、周りからの目も厳しい。今のところは俺もフォローしているが、大きなミスでもしたら、たちまち使えない人間だと烙印を押される」
「ジュスト…危ないの?」
「もともと表情が硬いから表面上は何でもない様子だが、細かいミスは続いている。あいつには珍しいミスが。今日の出勤もそのせいだ」
「そんな…」

まさかジュストが? 

「大方、オハイエ嬢とダンスパーティーに行くことをジュストがギャレットに黙っていたとか、そんなとこだろ」

図星だったので黙り込んだが、やっぱりと、ステファンはそれを肯定だと納得した。

「本当は俺が彼女とパートナーになる筈だったんだが、彼女が一度でいいからと、頼み込んできたんだ。ジュストはパートナーを決めていなかったから」
「え、オハイエ嬢が?」

ステファンと出る筈だったのに、彼女の要望だった?

「別にあれだ、好きとかそんなのないとは言っていたが、必死で頼まれたから、俺は他の人と参加したんだ。ジュストも何か考えがあるみたいで、その頼みを聞き入れてくれた。令嬢からそこまでアプローチされたら、断われないだろう。しかも、卒業後も同じ職場で働くのに、変にわだかまりはつくれない」

ジュストも恋愛感情はないようなことを言っていた。でも、男女間の恋愛じゃないなら何だろう。

「そこはいずれジュストが話すだろう。お前は信じてあげろ。ジュストは今でもギャレットが一番なんだから」
「ほんと? ほんとにそう思う?」
「そうじゃないから、兄弟喧嘩くらいであいつが仕事に穴をあけるようなことをしたんだ。あいつのメンタルはいつもギャレットとの親密さで左右されるんだから。お前の励ましがないと、とたんに萎んでしまう。お前はジュストを活かし続ける光で水で栄養だから」

俺がこんなことを言っていたのは内緒だ。

そう言ってカレンを連れてステファンは帰った。

自分がまだジュストの一番だというステファンの話は、心の底に溜まっていた澱を一掃した。
本当に?
レーヌはもうジュストの一番ではないの?
優秀なジュストがうっかりミスするくらい、自分のことを気にしている?
そう思うと、自分は何て愚かで自分勝手で、思いやりのない人間だったのかと猛省する。

大事なのはジュストの気持ちで、自分はジュストが笑顔でいてくれるならそれでいいのに。
なんて子供みたいな態度だったんだろう。

人に言われて気付くようではまだまだだ。

「帰ったら、『おかえり』って言ってあげよう」
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