【完結】TL小説の悪役令息は死にたくないので不憫系当て馬の義兄を今日もヨイショします

36 悪魔の瞳②

「それで、あの子がお兄様の代わりに怒って殴りかかったんです」

ジュストが表彰式に出席している間に、教師たちが周りの生徒たちから状況を聞き取った。

「オハイエ、とりあえず君は止めようとしただけのようだな。君は悪くないが、貴族令嬢としては慎みに欠けていたようだ」
「申し訳ございませんでした」

レーヌは非はないが、争っている二人の間に割り込んだことで注意を受けた。

「お姉さんは悪くないよ」
「ギャレット」

なぜレーヌが謝るのか、ギャレットは口を挟んだ。それをナディアが嗜める。

「あなたは、またそんな考えもなしにポンポン喋るその口を閉じなさい」
「は、母上、いた、イタタタ」

お仕置きとばかりに母親が口元をグイッと掴んで捻った。

「ら、らって、おねーしゃんは、ひゃるく」
「こ、侯爵夫人」

ナディアの行動に周りが一瞬引いたのがわかる。

「理由はどうあれ、愚息が暴力を振るったことは事実です。親として教育が行き届かず、申し訳ございませんでした」
「は、いえ、確かに先に殴ったのはご子息でしょうが、ベルン辺境伯のご子息にも非があるようですし、何分ご子息はまだ十歳にも満たないのですから」
「いえ、年端も行かない幼子ならいざ知らず、もう十分に分別のつく年齢です。自分がしたことの責任は身を持って取るべきです」

そう言って母親は「帰ったらお仕置きですから、覚悟しておきなさい。何ならここでふくらはぎを叩いてもいいのよ」
と言い放った。

「ご、ごめんやしゃい、おかーしゃま」

まだ口元を捻られたまま、ギャレットは母親に許しをこう。

「謝るのは私にではなく、ベルン辺境伯のご子息にでしょ」
「ご、ごめんなさい」

母親に引っ張られ、ギャレットはベルンに頭を下げた。

「ベルン、どうする？」

学園の警備主任であるオブライエン卿が問いかける。
ベルンとしては、ここで許さないと言えば、子供の謝罪に寛容になることもできないのかと、謗られるのはわかりきっていた。
チヤホヤされていい気になっている（とベルンが思っているだけのこと）思っている下級生に食って掛かり、その弟に攻撃されたあげくの騒動に対して、これ以上意固地になることは百害あって一利なしなのは、さすがのベルンもわかっていた。

「まあ、親として今後はこんなことのないように、ちゃんと叱るなら」
「ありがとうございます」

ベルンが言い終える前にナディアが被せるように、お礼を言った。

話はついたようだとオブライエン卿も、これで双方異論なしとするようにと告げて、その場は収まった。

「重ね重ね、うちの愚息がご迷惑をおかけしました」

人々が引いて、ナディアが再びレーヌに詫びた。

「オハイエ嬢も災難だったね。ところで、ご家族は？　来られていないの？」

ステファンが一人でいるレーヌにそう尋ねた。

「あ、別に…その…剣術大会に私が出場するわけでもないので、来なくても大丈夫だと申しました」

何やら居心地悪そうな様子で彼女はそう答えた。

「あの、ご子息…上のご子息は、よくあんな言葉を言われたりするですか？」
「あんな言葉…とは？」
「その…『悪魔の…』」

言いにくそうに言葉を紡ぎ出す。

「あ、ああ、そのこと…イベルカイザ王国内では気にすることはありませんが、隣国ではまだそう信じている方々もいるようですわね」
「そう…ですか。我が家にも時折赤い目の者が生まれます。祖父もそうでした。祖父の代では、もっと大変だったと聞いています」
「オハイエ家のご先祖に、シェルテーレの方があらっしゃるの？」
「そのように聞いております」

これも知らなかった事実。事実は小説よりも奇なりだ。