【完結】TL小説の悪役令息は死にたくないので不憫系当て馬の義兄を今日もヨイショします

七夜かなた

文字の大きさ
上 下
36 / 91

36 悪魔の瞳①

しおりを挟む
隣国シェルテーレにおいて、一部の地域で赤い瞳を忌み嫌う風習がある。
それはかつて彼の国の国王が同じ色の瞳を有しており、国民に圧政を強いたとも、赤い瞳の者が残虐に人々の命を奪ったからだとも言われる。
極めつけはその赤い瞳を悪魔の証だと教化する者が現れた。
運悪く、その時シェルテーレは相次ぐ自然災害とそれに伴う飢饉で人々は苦しみに喘いでいた。
この辛さや苦しみを誰かのせいにし、憎しみをぶつける相手を求めていた人々は、その教えに飛びついた。
しかし極端に振り切った思想は、時の流れとともに淘汰され、今ではその教えを信仰する者は殆どいない。
が、未だに根強くその教えを継いでいる人々がいる。

それがジュストを捕らえていた教会のある村だった。

「悪魔…ですか?」

ベルンの言葉に仲間が問いかける。

「そうだ。我が領地が接する隣国シェルテーレの外れの村では、赤い瞳を持つ者は悪魔だという言い伝えが残っている。その瞳、『闇の天使』だなんだと呼ばれているが、真逆のあく」
「違う!」

ギャレットはベルンが再び「悪魔」という言葉を言い終える前に、その言葉を遮るように叫んだ。

「ギャレット?」

ジュストが背中で庇い、ベルンから遠ざけていたが、ギャレットはそこから飛び出してベルンに向かって走り出した。

「違う、兄上は悪魔なんかじゃない! 嘘を付くな、謝れ!」

そしてベルンに対して拳を振りかざし、ボカボカと殴りだした。

「な、なんだこのチビは」

咄嗟のことで対応が遅れたベルンは、三発ほど殴られたところでギャレットの手首を掴んだ。

「謝れ、謝ればかやろう!」
「この野郎! イタッ」
「ギャレット!」

手首を掴まれたまま、上に持ち上げられ、バタバタさせたギャレットの足が、ベルンの向こう脛にヒットした。

「弟を離せ!」

ジュストが駆け寄り、ギャレットの腰を抱え込み、ベルンの腕を振り払おうとする。

「はなして、兄上、謝れバカ! 兄上は悪魔じゃない」
「こいつ、先に殴りかかってきたのはそっちだろ!」

ギャレットの腰を掴んでベルンから引き離そうとジュストが引っ張るが、ベルンがギャレットの手首を掴んで離さないため、二人の間でギャレットの体は横に伸びる。

「兄上は悪魔じゃない、悪魔はお前だ、ばかやろう」
「こいつ、誰に向かってそんな口をきく!」
「うわ~ん、兄上え~、痛い」

ぎゅーっとベルンに手首をきつく掴まれたギャレットは、その痛さに泣き出した。

「ベルン、その手を離せ、痛がっているじゃないか」
「うるさい、オレに命令するな!」

「だ、誰か止めないと」

誰かがそう言った。

「やめてください、痛がっているではありませんか」

ベルンとジュストの間に入って来たレーヌが、ベルンの手をギャレットから離そうと手を出してきた。

「イタッ、なんだお前、女のくせに、俺に逆らうのか!」


レーヌに爪を立てられギャレットを掴んでいた手を離した。ギャレットはそのままジュストに抱え込まれる。ベルンは、空いたその手で彼女を叩こうとした。

「何を騒いでいる!」

騒ぎを聞きつけた学園の教師たちが駆けつけてきた。

「ベルン、モヒナート、この騒ぎはどういうことだ。それにオハイエ、君も貴族令嬢なのに一緒になって騒いで」

現れた教師たちが騒ぎの中心にいるジュストたちに向かって怒鳴り散らす。

「その子供は?」
「俺の弟です」

ジュストに抱えられているギャレットに気づいた教師が尋ねる。

「モヒナート、表彰式がある。陛下や王太子殿下もお待ちだ。とりあえずそちらへ行きなさい。君たちも野次馬などはしたないことですぞ」

鼻の下と顎にひげを生やしモノクル眼鏡の男性教師に言われ、全員がバツの悪そうな顔をする。

「ギャレット、ジュスト」
「ジュスト、大丈夫か」

ナディアやステファンも騒ぎを聞いてやってきた。

「母上、ステファン、すまないがギャレットを頼む。俺は表彰式に行かないと」
「任せろ」
「行ってらっしゃい。あなたは大丈夫?」
「ええ、じゃあなギャレット」

ジュストは地面にギャレットを下ろして、目尻に浮かんだ涙をそっと拭った。

「ありがとう、俺のために怒ってくれて」



しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

厘/りん
BL
 ナルン王国の下町に暮らす ルカ。 この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。 ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。 国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。 ☆英雄騎士 現在28歳    ルカ 現在18歳 ☆第11回BL小説大賞 21位   皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。    

処理中です...