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36 悪魔の瞳①
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隣国シェルテーレにおいて、一部の地域で赤い瞳を忌み嫌う風習がある。
それはかつて彼の国の国王が同じ色の瞳を有しており、国民に圧政を強いたとも、赤い瞳の者が残虐に人々の命を奪ったからだとも言われる。
極めつけはその赤い瞳を悪魔の証だと教化する者が現れた。
運悪く、その時シェルテーレは相次ぐ自然災害とそれに伴う飢饉で人々は苦しみに喘いでいた。
この辛さや苦しみを誰かのせいにし、憎しみをぶつける相手を求めていた人々は、その教えに飛びついた。
しかし極端に振り切った思想は、時の流れとともに淘汰され、今ではその教えを信仰する者は殆どいない。
が、未だに根強くその教えを継いでいる人々がいる。
それがジュストを捕らえていた教会のある村だった。
「悪魔…ですか?」
ベルンの言葉に仲間が問いかける。
「そうだ。我が領地が接する隣国シェルテーレの外れの村では、赤い瞳を持つ者は悪魔だという言い伝えが残っている。その瞳、『闇の天使』だなんだと呼ばれているが、真逆のあく」
「違う!」
ギャレットはベルンが再び「悪魔」という言葉を言い終える前に、その言葉を遮るように叫んだ。
「ギャレット?」
ジュストが背中で庇い、ベルンから遠ざけていたが、ギャレットはそこから飛び出してベルンに向かって走り出した。
「違う、兄上は悪魔なんかじゃない! 嘘を付くな、謝れ!」
そしてベルンに対して拳を振りかざし、ボカボカと殴りだした。
「な、なんだこのチビは」
咄嗟のことで対応が遅れたベルンは、三発ほど殴られたところでギャレットの手首を掴んだ。
「謝れ、謝ればかやろう!」
「この野郎! イタッ」
「ギャレット!」
手首を掴まれたまま、上に持ち上げられ、バタバタさせたギャレットの足が、ベルンの向こう脛にヒットした。
「弟を離せ!」
ジュストが駆け寄り、ギャレットの腰を抱え込み、ベルンの腕を振り払おうとする。
「はなして、兄上、謝れバカ! 兄上は悪魔じゃない」
「こいつ、先に殴りかかってきたのはそっちだろ!」
ギャレットの腰を掴んでベルンから引き離そうとジュストが引っ張るが、ベルンがギャレットの手首を掴んで離さないため、二人の間でギャレットの体は横に伸びる。
「兄上は悪魔じゃない、悪魔はお前だ、ばかやろう」
「こいつ、誰に向かってそんな口をきく!」
「うわ~ん、兄上え~、痛い」
ぎゅーっとベルンに手首をきつく掴まれたギャレットは、その痛さに泣き出した。
「ベルン、その手を離せ、痛がっているじゃないか」
「うるさい、オレに命令するな!」
「だ、誰か止めないと」
誰かがそう言った。
「やめてください、痛がっているではありませんか」
ベルンとジュストの間に入って来たレーヌが、ベルンの手をギャレットから離そうと手を出してきた。
「イタッ、なんだお前、女のくせに、俺に逆らうのか!」
レーヌに爪を立てられギャレットを掴んでいた手を離した。ギャレットはそのままジュストに抱え込まれる。ベルンは、空いたその手で彼女を叩こうとした。
「何を騒いでいる!」
騒ぎを聞きつけた学園の教師たちが駆けつけてきた。
「ベルン、モヒナート、この騒ぎはどういうことだ。それにオハイエ、君も貴族令嬢なのに一緒になって騒いで」
現れた教師たちが騒ぎの中心にいるジュストたちに向かって怒鳴り散らす。
「その子供は?」
「俺の弟です」
ジュストに抱えられているギャレットに気づいた教師が尋ねる。
「モヒナート、表彰式がある。陛下や王太子殿下もお待ちだ。とりあえずそちらへ行きなさい。君たちも野次馬などはしたないことですぞ」
鼻の下と顎にひげを生やしモノクル眼鏡の男性教師に言われ、全員がバツの悪そうな顔をする。
「ギャレット、ジュスト」
「ジュスト、大丈夫か」
ナディアやステファンも騒ぎを聞いてやってきた。
「母上、ステファン、すまないがギャレットを頼む。俺は表彰式に行かないと」
「任せろ」
「行ってらっしゃい。あなたは大丈夫?」
「ええ、じゃあなギャレット」
ジュストは地面にギャレットを下ろして、目尻に浮かんだ涙をそっと拭った。
「ありがとう、俺のために怒ってくれて」
それはかつて彼の国の国王が同じ色の瞳を有しており、国民に圧政を強いたとも、赤い瞳の者が残虐に人々の命を奪ったからだとも言われる。
極めつけはその赤い瞳を悪魔の証だと教化する者が現れた。
運悪く、その時シェルテーレは相次ぐ自然災害とそれに伴う飢饉で人々は苦しみに喘いでいた。
この辛さや苦しみを誰かのせいにし、憎しみをぶつける相手を求めていた人々は、その教えに飛びついた。
しかし極端に振り切った思想は、時の流れとともに淘汰され、今ではその教えを信仰する者は殆どいない。
が、未だに根強くその教えを継いでいる人々がいる。
それがジュストを捕らえていた教会のある村だった。
「悪魔…ですか?」
ベルンの言葉に仲間が問いかける。
「そうだ。我が領地が接する隣国シェルテーレの外れの村では、赤い瞳を持つ者は悪魔だという言い伝えが残っている。その瞳、『闇の天使』だなんだと呼ばれているが、真逆のあく」
「違う!」
ギャレットはベルンが再び「悪魔」という言葉を言い終える前に、その言葉を遮るように叫んだ。
「ギャレット?」
ジュストが背中で庇い、ベルンから遠ざけていたが、ギャレットはそこから飛び出してベルンに向かって走り出した。
「違う、兄上は悪魔なんかじゃない! 嘘を付くな、謝れ!」
そしてベルンに対して拳を振りかざし、ボカボカと殴りだした。
「な、なんだこのチビは」
咄嗟のことで対応が遅れたベルンは、三発ほど殴られたところでギャレットの手首を掴んだ。
「謝れ、謝ればかやろう!」
「この野郎! イタッ」
「ギャレット!」
手首を掴まれたまま、上に持ち上げられ、バタバタさせたギャレットの足が、ベルンの向こう脛にヒットした。
「弟を離せ!」
ジュストが駆け寄り、ギャレットの腰を抱え込み、ベルンの腕を振り払おうとする。
「はなして、兄上、謝れバカ! 兄上は悪魔じゃない」
「こいつ、先に殴りかかってきたのはそっちだろ!」
ギャレットの腰を掴んでベルンから引き離そうとジュストが引っ張るが、ベルンがギャレットの手首を掴んで離さないため、二人の間でギャレットの体は横に伸びる。
「兄上は悪魔じゃない、悪魔はお前だ、ばかやろう」
「こいつ、誰に向かってそんな口をきく!」
「うわ~ん、兄上え~、痛い」
ぎゅーっとベルンに手首をきつく掴まれたギャレットは、その痛さに泣き出した。
「ベルン、その手を離せ、痛がっているじゃないか」
「うるさい、オレに命令するな!」
「だ、誰か止めないと」
誰かがそう言った。
「やめてください、痛がっているではありませんか」
ベルンとジュストの間に入って来たレーヌが、ベルンの手をギャレットから離そうと手を出してきた。
「イタッ、なんだお前、女のくせに、俺に逆らうのか!」
レーヌに爪を立てられギャレットを掴んでいた手を離した。ギャレットはそのままジュストに抱え込まれる。ベルンは、空いたその手で彼女を叩こうとした。
「何を騒いでいる!」
騒ぎを聞きつけた学園の教師たちが駆けつけてきた。
「ベルン、モヒナート、この騒ぎはどういうことだ。それにオハイエ、君も貴族令嬢なのに一緒になって騒いで」
現れた教師たちが騒ぎの中心にいるジュストたちに向かって怒鳴り散らす。
「その子供は?」
「俺の弟です」
ジュストに抱えられているギャレットに気づいた教師が尋ねる。
「モヒナート、表彰式がある。陛下や王太子殿下もお待ちだ。とりあえずそちらへ行きなさい。君たちも野次馬などはしたないことですぞ」
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「ギャレット、ジュスト」
「ジュスト、大丈夫か」
ナディアやステファンも騒ぎを聞いてやってきた。
「母上、ステファン、すまないがギャレットを頼む。俺は表彰式に行かないと」
「任せろ」
「行ってらっしゃい。あなたは大丈夫?」
「ええ、じゃあなギャレット」
ジュストは地面にギャレットを下ろして、目尻に浮かんだ涙をそっと拭った。
「ありがとう、俺のために怒ってくれて」
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