【完結】TL小説の悪役令息は死にたくないので不憫系当て馬の義兄を今日もヨイショします

七夜かなた

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29 知らなかった世間の常識①

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休憩を挟んで本戦が始まった。
組み合わせに一人足りないらしく、最初に敗者復活が行われた後、先に登場したのはステファンだった。

「きゃ~」

ステファンが現れるとひときわ大きな歓声が上がった。
ステファンがそちらに愛想よく手を降ると、更に声が大きくなる。

「何やってるんだか」

TL小説の男主人公としては些か軽薄に思うが、それが彼の外向きの顔だとわかっている。
本当は彼も努力家で真面目なのだ。

心配するまでもなく、あっけなくステファンは一回戦を勝ち抜いた。

その後別の対戦があって、ジュストが登場した。

「きゃ~」
「兄上、ガンバレー」

ステファン同様の歓声があがり、負けじと声を張り上げた。

反対側には目もくれずジュストは此方に手を降る。

「大丈夫かしら、あの子。こちらばかり気にして、少しはステファンのように彼女たちにも愛想よくすればいいのに」
「ステファンと兄上の持ち味は違うんです。ステファンと同じにしても意味がありません」

陽キャのステファンと陰キャ改めクールビューティーがジュストの持ち味だ。勝手なことを言っていると我ながら思う。
闇落ちは困るが、ステファンと同じように愛想を振りまくジュストは見たくない。

「別々の魅力があるからこそ、二人がいて価値があるんです」
「そういうものかしら、ジュストはそんなこと考えて行動しているようには思えないけど」
「自覚していないところがいいんです」
「始め!」

審判の声が響き渡り、ジュストの試合が始まった。
対戦相手はジュストより体格がかなり大きかった。まるでクマのようだ。
相手が「ウオオオー」という雄叫びと共にこれまた体格に見合った大剣を振りかざした。
それをジュストはひらりと軽くいなして払い除け、男の懐に入り込んで手首の辺りへと剣を振るった。
ガキンッと鉄と鉄とがぶつかり合う音がして、対戦相手の手から剣が飛んだ。

勝負はあっという間についた。

「勝者、ジュスト=モヒナート」

大剣が地面にガチャンという音を立てて落ちると同時に、審判が声を張り上げた。

「やったぁ~」

試合時間はさっきのステファンより短いくらいだった。
互いに向き合って礼をすると、またもや黄色い声がした。

ジュストは出てきた時と同じように、黄色い声を上げる集団を無視して、こちらに向かって手を振り退場していった。

「圧勝ですね」

嬉しくて母親と共に喜び合う。

「暫く出番はないですか?」
「そうね。お手洗い?」
「はい」
「一人で行ける?」
「大丈夫です。闘技場の入り口ですよね」

お手洗いくらい一人で行けます、と母親に強がってギャレットは入り口付近に先程見かけたお手洗いへと向かった。
日本人が書いた小説なので衛生環境は暗黙のうちに日本の施設と変わらない設定だ。
簡易水洗トイレのような設備なので、使いやすい。
勢いこんでお手洗いに向かうと、王太子殿下にばったり出くわしてしまった。
というか、王太子殿下もトイレするんだ。と昔のアイドルはトイレに行かない伝説のようなことを思った。

「やあ、また会ったね」
「お、王太子殿下にはご機嫌…」
「お手洗いの前でそれはやめてくれ」

挨拶しようとしたが、場所が男子トイレの前なのでと止められた。

「君の兄上は無事本線の一回戦に勝ったみたいだね。おめでとう」
「はい、ありがとうございます」
「まるで自分のことのように喜ぶのだな」
「それは当たり前です。僕の兄上ですから」
「私には妹しかいないので、男兄弟というものは皆、そうなのだろうか」

その言葉には少し羨ましそうな気持ちがあるように思った。

「他の兄弟のことはわかりません。でも、僕は兄を大事に思っていますし、尊敬もしています」
「ふうん、でも、本当の兄弟ではないよね。血の繋がりがなくてもそういうもの?」

ジュストが養子であることは、言いふらすことでもないけど、秘密でも何でもない筈だ。だから殿下がそれを知っていても特段特別でも何でもない。

「血の繋がりがあっても、仲がいいとは限りません。世間からどう言われようと、僕…私は兄を愛しています」

まるで告白のようで、ちょっと恥ずかしい台詞を口にしてしまったと思ったが、言ってしまったものは仕方がない。

「なるほど、相思相愛だな。モヒナートも以前そう申していた」

殿下もそう思ったのか、そう切り返された。

「あ、もちろん、その兄としてで」
「わかっている。しかし、そなた達が兄弟愛だと言うならそのことは気にする必要はないが、我が国では同性同士が婚姻することは法律で禁止はされていない。別に咎めはしないぞ」
「べ、別に結婚とかそういう目で見ているわけでは…でも、そ、そうなのですか?」

そこまで国法について勉強していないので、殿下の話には驚いた。
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