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28 剣術大会④
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王太子がいなくなると、何となくその場の空気が緩んだ。いくら無礼講と言われてもやっぱり緊張する。
「ねえ、なんで僕、王太子殿下に誘われたのかな?」
考えたがわからない。ジュストがおまけでメインがギャレットみたいな誘われ方だったのが気になる。
「ジュストがギャレットの話をよく殿下の前でしていたからじゃないか?」
「え?」
「それでギャレットに興味が湧いたのかも」
「ス、ステファン」
慌ててジュストがステファンの口を塞いだ。
「兄上?」
「ち、違う、俺はただ家族について殿下に話しただけで、別に普通だ」
焦った様子でジュストが言い訳する。顔はいつもと変わらないが、耳が少し赤くなっている。
「ジュストの弟自慢は特進では有名だから。俺は昔からだからもう慣れたけど、どんな弟だろうって結構興味津々でいらしたんだろう」
「そ、そんなこと…ステファン、黙れ」
口を塞ぐジュストの手から顔をずらして、尚もステファンが話を続ける。それをまたジュストが口を塞ごうと追いかける。
二人のじゃれあい?を見て、なんだかむっとしてその間に割って入った。
「兄上、皆にどんな話をしているんですか?」
まさか変なことを話していないだろうか。ジュストの腕を取って上目遣いに尋ねる。
ジュストがステファンから此方に視線を移し、柔らかく微笑んだ。
小説の挿絵ではジュストは暗い表情ばかりだった。最後に載ったのはギャレットを殺し、発狂しているジュストを、ステファンとレーヌが恐怖を浮かべて見つめている場面だった。
今のジュストは少ない表情の中で、時折はにかんだり優しい眼差しを見せてくれる。
元々の造形の美しさもあって、わずか十五歳ながらぞくりとする色気が垣間見え、胸がざわつく。
きっとこれはギャレットのというより、まだ微かに残るアラサー女子のアイドルを見た時に感じるトキメキなのだろう。
「変なことは何も言っていない。ギャレットが天使のようだとか、九歳にしては利発だとかその程度だ」
「て、天使って」
「ジュストったら、ギャレットは確かに可愛いけど、そんな真顔で言ったら変に思われるわ」
ナディアが口を挟む。可愛いとか天使みたいとか、面映ゆくても家族は贔屓目で見るから許されるが、それを他人に言ったら単なる痛い人だ。
「え、でもいつもステファンには話していますし」
「ジュスト、それは俺だからだ。いつも俺が言っているのに信用していなかったな。俺だってカレンのことを色々自慢したりするが、それはジュストに限ってだ」
「そうだったか?」
「どんだけ他人の会話に無関心なんだ。それでは社交に長けているとは言わないぞ」
「他人の噂話に有益性は感じられない」
「それじゃあ、だめだといつも言っているだろう」
「ステファンの言うことも間違っていないわ。率先してその輪に交じる必要はありませんけど、貴族社会の噂話はくだらないと思うだろけど、聞き逃しているとうっかり足元を掬われることもあるのよ。気をつけないといけないわ」
「これからは心します」
ナディアの言葉をジュストは真摯に受け止めた。
「おい、俺が言っても耳を貸さなかったのに、酷いな」
「ステファンの話は時々大げさだからな。母上が仰るなら、その通りだ」
「ねえ、それより、僕のことあんまり言わないでよ。兄上は大げさ過ぎるよ。きっと殿下もこいつ大したことないな、って思うよ」
弟自慢をしてくれるのはいいが、過大評価されても困る。
「ギャレットだって、俺のこと凄いっていつも褒めてくれるじゃないか、それだって俺は別に…」
「それは本当のことだからです。ちっとも大げさじゃない」
「はいはい、お前たち兄弟が互いにブラコンなのはわかった。ジュスト、休憩も終わる。そろそろ行こう」
ステファンがギャレットとジュストの肩をポンと叩いて、お互い様だという視線を向ける。
「そうか、母上、ギャレット、また後で」
「頑張ってね、兄上!」
最後にもう一度ギャレットはジュストに抱きついた。
「ありがとう、頑張るよ」
ジュストがギャレットの金髪を優しく撫でる。
周りからキャ~という黄色い声が聞こえ、そちらを振り向くと、女子たちがいつの間にか遠巻きにこちらを見ていた。
「と、尊い~」
「眼福ですわ」
「私、もう限界~」
なぜかバッタバッタと数人の女子たちが倒れていく。
「どうしたんでしょう? 立ち眩み?」
「さあ」
ギャレットとジュストが同時に小首を傾げる。
「無自覚かよ」
「ほほほ、仕方のない子達ね」
ステファンとナディアがそんな二人を微笑ましく見ていた。
「ねえ、なんで僕、王太子殿下に誘われたのかな?」
考えたがわからない。ジュストがおまけでメインがギャレットみたいな誘われ方だったのが気になる。
「ジュストがギャレットの話をよく殿下の前でしていたからじゃないか?」
「え?」
「それでギャレットに興味が湧いたのかも」
「ス、ステファン」
慌ててジュストがステファンの口を塞いだ。
「兄上?」
「ち、違う、俺はただ家族について殿下に話しただけで、別に普通だ」
焦った様子でジュストが言い訳する。顔はいつもと変わらないが、耳が少し赤くなっている。
「ジュストの弟自慢は特進では有名だから。俺は昔からだからもう慣れたけど、どんな弟だろうって結構興味津々でいらしたんだろう」
「そ、そんなこと…ステファン、黙れ」
口を塞ぐジュストの手から顔をずらして、尚もステファンが話を続ける。それをまたジュストが口を塞ごうと追いかける。
二人のじゃれあい?を見て、なんだかむっとしてその間に割って入った。
「兄上、皆にどんな話をしているんですか?」
まさか変なことを話していないだろうか。ジュストの腕を取って上目遣いに尋ねる。
ジュストがステファンから此方に視線を移し、柔らかく微笑んだ。
小説の挿絵ではジュストは暗い表情ばかりだった。最後に載ったのはギャレットを殺し、発狂しているジュストを、ステファンとレーヌが恐怖を浮かべて見つめている場面だった。
今のジュストは少ない表情の中で、時折はにかんだり優しい眼差しを見せてくれる。
元々の造形の美しさもあって、わずか十五歳ながらぞくりとする色気が垣間見え、胸がざわつく。
きっとこれはギャレットのというより、まだ微かに残るアラサー女子のアイドルを見た時に感じるトキメキなのだろう。
「変なことは何も言っていない。ギャレットが天使のようだとか、九歳にしては利発だとかその程度だ」
「て、天使って」
「ジュストったら、ギャレットは確かに可愛いけど、そんな真顔で言ったら変に思われるわ」
ナディアが口を挟む。可愛いとか天使みたいとか、面映ゆくても家族は贔屓目で見るから許されるが、それを他人に言ったら単なる痛い人だ。
「え、でもいつもステファンには話していますし」
「ジュスト、それは俺だからだ。いつも俺が言っているのに信用していなかったな。俺だってカレンのことを色々自慢したりするが、それはジュストに限ってだ」
「そうだったか?」
「どんだけ他人の会話に無関心なんだ。それでは社交に長けているとは言わないぞ」
「他人の噂話に有益性は感じられない」
「それじゃあ、だめだといつも言っているだろう」
「ステファンの言うことも間違っていないわ。率先してその輪に交じる必要はありませんけど、貴族社会の噂話はくだらないと思うだろけど、聞き逃しているとうっかり足元を掬われることもあるのよ。気をつけないといけないわ」
「これからは心します」
ナディアの言葉をジュストは真摯に受け止めた。
「おい、俺が言っても耳を貸さなかったのに、酷いな」
「ステファンの話は時々大げさだからな。母上が仰るなら、その通りだ」
「ねえ、それより、僕のことあんまり言わないでよ。兄上は大げさ過ぎるよ。きっと殿下もこいつ大したことないな、って思うよ」
弟自慢をしてくれるのはいいが、過大評価されても困る。
「ギャレットだって、俺のこと凄いっていつも褒めてくれるじゃないか、それだって俺は別に…」
「それは本当のことだからです。ちっとも大げさじゃない」
「はいはい、お前たち兄弟が互いにブラコンなのはわかった。ジュスト、休憩も終わる。そろそろ行こう」
ステファンがギャレットとジュストの肩をポンと叩いて、お互い様だという視線を向ける。
「そうか、母上、ギャレット、また後で」
「頑張ってね、兄上!」
最後にもう一度ギャレットはジュストに抱きついた。
「ありがとう、頑張るよ」
ジュストがギャレットの金髪を優しく撫でる。
周りからキャ~という黄色い声が聞こえ、そちらを振り向くと、女子たちがいつの間にか遠巻きにこちらを見ていた。
「と、尊い~」
「眼福ですわ」
「私、もう限界~」
なぜかバッタバッタと数人の女子たちが倒れていく。
「どうしたんでしょう? 立ち眩み?」
「さあ」
ギャレットとジュストが同時に小首を傾げる。
「無自覚かよ」
「ほほほ、仕方のない子達ね」
ステファンとナディアがそんな二人を微笑ましく見ていた。
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