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27 剣術大会③

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その後、二回戦、三回戦とジュストは順調に勝ち進んだ。ちなみにステファンも。
ジュストとステファンは対決することなく、午前の部は終わった。
一旦剣術大会は小休止となり、出場者たちは各々の家族の元へと散らばった。

「母上、ギャレット」

ジュストが二人の元へと走ってきた。

後ろからステファンもついてきている。

「兄上、おめでとうございます」

走ってくるジュストにギャレットは抱きついて、勝利を祝った。
そんなギャレットをジュストは受け止めた。

「ありがとう、ギャレットの応援してくれる声は聞こえていたよ」
「あんなにたくさんの声援から、よくわかったね」
「ギャレットのことならすぐにわかる」

柔らかい金色の巻毛を撫でて、ジュストは愛おしそうに微笑んだ。

「おい、ギャレット、俺は?」
「ステファンもおめでとう」

ジュストへのおめでとうより幾分トーンを落として言う。

「何だそれは…まあジュストと張り合うつもりはないけどな」
「ジュスト、ステファンおめでとう。とても立派だわ」

ナディアが二人を褒め称える。

「ありがとうございます、母上」
「ナディア様、ありがとうございます」
「ねえ、兄上後何回勝ったら優勝なんですか?」
「優勝できるかどうかはわからないよ。何しろこれからは上級生も混じって対戦するんだ」
「俺もいるしな」
「それに、昨年優勝した王太子殿下もこの後参戦される。今までのは予選みたいなものた」
「つまり、もっと強い人が出てくるってことですか?」
「そういうことだ」
「でも、兄上なら大丈夫ですよ。多分ステファンも」

当て馬だったとしても、実力は男主人公であるステファンに負けない。それがジュストの設定なのだ。

「どうしてそう思う?」
「兄上だからです」
「なんだそれは、説明になってないぞ」

ステファンがギャレットの答えに文句を言う。

「僕は兄上を信じています。誰よりも才能があって努力も怠らない。兄上は最強なんです」
「何とも強い味方だな」

不意に後ろから声が聞こえ、慌てて振り向いた。

「で、殿下」

先にそっちを向いていたジュストとステファンが頭を下げる。

「ああ、畏まらなくていい」

ナディアとともにギャレットがそちらを向くと、目の前には、さらりとした輝かしい銀髪と新緑の瞳をした背の高い男性が立っていた。
モブとしても登場しなかったのに、無駄にイケメンだ。

「ひとこと二人に祝いを言いに来た。特進の二人が剣術でもその才能を発揮してくれて嬉しく思うぞ。父上も褒めていた」
「陛下が…光栄に存じます」
「身に余ることでございます」
「午後からの本戦ではよろしく頼む。私が王太子だからと忖度は不要だぞ」
「もちろんでございます」

それから王太子は、ジュストとステファンからナディアとギャレットに視線を移す。

「モヒナート侯爵夫人、お久しぶりです」
「エルナンド殿下にはご機嫌麗しく」
「畏まらなくてよいと申したであろう? 私はまだ一介の学生だ。普通に接していい。君がジュストの弟かい?」

ナディアからギャレットへと声をかける。

「は、はひぃ」

緊張で舌を噛んで変な返事になった。

「はは、ジュストがいつもかわいいと言っていたが、本当に愛らしい天使のようだな」

噛んだことを恥ずかしがり赤くなったのを見て、王太子は楽しそうに笑った。

「今度城に遊びに来い。美味しい菓子を用意させる」
「え!」

まさかの展開にギャレット本人も王太子以外の者たちも驚く。

「あの、殿下、下の息子はまだ九歳で王宮に上がれるような作法も身につけておりません」

ナディアが畏れ多いとやんわり辞退しようとした。

「構わない。そんなことは気にするな」
「し、しかし」
「君はどうだ? 王宮に来たくはないか? 珍しいお菓子がたくさんあるぞ」
「えっと…」

本当に九歳ならお菓子と聞いて喜んで「うん」と言うだろうが、王宮など作法やら何やら厳しそうではっきり言って、無駄な緊張を強いられそうで、ありがた迷惑だった。
しかしそれを言えるわけもなく、チラリとジュストを見た。

「殿下、その際には私も同行して宜しいでしょうか」
「ジュストが? 構わない」
「私も宜しいでしょうか」

なぜかステファンもそこに加わる。

「母上、俺と一緒ならいいですか?」
「ええ、それなら…」
「なら決まりだな。では、そろそろ私も大会に出る準備をしてくる」
「宜しくお願いします」

四人で頭を下げて殿下を見送った。
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