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17 語られなかった世界観①
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小説では特進クラスのことは出てこなかった。
まだまだ自分の知らなかった裏設定があるんだろうな。
小説にはなかった設定。ここが架空世界ではない現実だからこそ、語られなかった世界観があって当たり前。
「ねえ、王太子様ってどんな人?」
ならばもっと色々と知りたいと思ってしまった。
朝食の後、二人でジュストの部屋へ行って、早速聞いてみた。
まだこっちでの実年齢は九歳だから社交というものには縁が無い。
ほぼ侯爵邸で過ごし、この国の歴史や風土のことや文字、算数などを教わってはいるが、まだ最近の情勢については習っていない。
「やっぱり王子様って感じ?」
どんな感じだよと自分でも突っ込みを入れたくなるような質問だが、前世でも王子様なんて会ったことも無い。テレビ画面越しに外国の王子様を見たことはあるけど、本当にこの世界に存在するんだと思うと何だか興奮する。
「ギャレットは、王太子様に興味があるの?」
ジュストはそれに対して不機嫌そうにそう切り返してくる。
あれ、これってなんか悪いことを聞いたかな。
「だって・・兄上が王太子様と机を並べて同じ教室で勉強しているなんて、凄いなと思って」
ここは王太子への興味より、ジュストを持ち上げておこう。それに本当にそう思っているのだから嘘でもない。
「何か話した?」
「まあ、『見込みがある。期待している。ここでは王太子とか臣下とかは関係なく、互いに学生同士切磋琢磨して頑張ろう』とは言われたけど」
「わあ、凄い! 期待の新入生現るだね」
「それほどでも・・」
不機嫌さは消え失せ、少し照れたような笑みを返してくるの見て、ほっとする。
「でも、今年は特別だ。三人も特進入りしたから、俺たちの学年はかなり期待されている」
「三人?」
ステファンも特進入りしたとはさっき聞いたけど、もう一人いたんだ。
「レーヌ=オハイエという女生徒だ。女性で特進入りは珍しいから、俺たちより彼女の方が注目されていると言えるな」
「え、レーヌ=オハイエ?」
まさかここで彼女の名前が出てくると思わず、巣で驚いた。
「知っているのか?」
その反応に何かを察したらしく、ジュストも驚いている。
「い、いや・・その、女性で特進入りって、そんなに珍しいの?」
「そうだな。今のクラスには殿下や俺とステファンを含め十五人いるが、女性は彼女を含めて三人だ」
「五分の一」
「お、偉いなもうそんな計算が出来るのか」
ジュストは計算ができたことを褒める。
「へへ、ま、まあね」
小学生レベルの算数だけど、九歳の僕には高レベルな答えだったらしい。記憶は薄れても習ったことは身についている。前世の成績は中の中だったけど、ここでは出来る子の部類に入る。
でもどこにでも天才はいる。
ジュストの頭は東大レベルかマサチューセッツ工科大レベル。ステファンも王太子も同じレベルなんだろう。
「そのオハイエって人、どんな人?」
「どんな人…金髪で目の色は…ピンクだったかな。頭はいい」
興味なさげにそう答える。
「え、それだけ?」
「それだけって、まだ殆ど会話したことがないから、そう言えば、家は伯爵家だ」
「ステファンは?」
「ステファン? 彼がどうした?」
「ステファンは、そのオハイエって人のことどう言っているの?」
「知らないな。『お互い頑張ろう』って握手をしていた。俺はしなかったけど」
「どうして?」
「どうしてって、必ずしないといけないものじゃないだろ」
「そ、それは…そうだけど」
ジュストはレーヌを見て、同級生としてしか認識していない。
一目惚れでもないのか。
「向こうは何か話しかけたそうにしていたけど」
「え! 何でそれを早く言わないのさ」
これは彼女からアプローチ?
レーヌの方が先にジュストを好きになる可能性を失念していた。
「え、それで?」
「何がそんなに気になるんだ」
ちょっと食い気味に尋ねて過ぎたか。ジュストが不審に思ったようだ。
「べ、別に…兄上のことなら何でも知りたいだけだよ。今までは、ほらステファンくらいしか同じ年齢の知り合いっていなかったし、兄上がちゃんとやっていけてるのか気になって」
「父上たちみたいなこと言うな」
「そ、そうかな…」
いつの間にか、大事な我が子を見守る保護者の気分になっていたのかも。
今のところジュストはヤンデレ化も闇落ちもしていない。屈託ない笑顔やはにかむような微笑みは、嘘偽りのない彼の表情だ。
時折眩しいくらいだ。
でも、物語の強制力が発動して、いつ彼が変わるか、わからない。
そのキーパーソンであるレーヌのことをもっと知りたいと思った。
「俺のことを心配してくれて、ありがとう」
今も僕の言葉に対して嬉しそうに笑っている。
ルビーのように赤い瞳が、愛おしげに自分に向けられる。
あの瞳が、ヒロインであるレーヌへといつしか向けられるのかな。
親離れならぬ弟離れ?
ジュストの一番が自分じゃなくなることにちょっと寂しくもなった。
まだまだ自分の知らなかった裏設定があるんだろうな。
小説にはなかった設定。ここが架空世界ではない現実だからこそ、語られなかった世界観があって当たり前。
「ねえ、王太子様ってどんな人?」
ならばもっと色々と知りたいと思ってしまった。
朝食の後、二人でジュストの部屋へ行って、早速聞いてみた。
まだこっちでの実年齢は九歳だから社交というものには縁が無い。
ほぼ侯爵邸で過ごし、この国の歴史や風土のことや文字、算数などを教わってはいるが、まだ最近の情勢については習っていない。
「やっぱり王子様って感じ?」
どんな感じだよと自分でも突っ込みを入れたくなるような質問だが、前世でも王子様なんて会ったことも無い。テレビ画面越しに外国の王子様を見たことはあるけど、本当にこの世界に存在するんだと思うと何だか興奮する。
「ギャレットは、王太子様に興味があるの?」
ジュストはそれに対して不機嫌そうにそう切り返してくる。
あれ、これってなんか悪いことを聞いたかな。
「だって・・兄上が王太子様と机を並べて同じ教室で勉強しているなんて、凄いなと思って」
ここは王太子への興味より、ジュストを持ち上げておこう。それに本当にそう思っているのだから嘘でもない。
「何か話した?」
「まあ、『見込みがある。期待している。ここでは王太子とか臣下とかは関係なく、互いに学生同士切磋琢磨して頑張ろう』とは言われたけど」
「わあ、凄い! 期待の新入生現るだね」
「それほどでも・・」
不機嫌さは消え失せ、少し照れたような笑みを返してくるの見て、ほっとする。
「でも、今年は特別だ。三人も特進入りしたから、俺たちの学年はかなり期待されている」
「三人?」
ステファンも特進入りしたとはさっき聞いたけど、もう一人いたんだ。
「レーヌ=オハイエという女生徒だ。女性で特進入りは珍しいから、俺たちより彼女の方が注目されていると言えるな」
「え、レーヌ=オハイエ?」
まさかここで彼女の名前が出てくると思わず、巣で驚いた。
「知っているのか?」
その反応に何かを察したらしく、ジュストも驚いている。
「い、いや・・その、女性で特進入りって、そんなに珍しいの?」
「そうだな。今のクラスには殿下や俺とステファンを含め十五人いるが、女性は彼女を含めて三人だ」
「五分の一」
「お、偉いなもうそんな計算が出来るのか」
ジュストは計算ができたことを褒める。
「へへ、ま、まあね」
小学生レベルの算数だけど、九歳の僕には高レベルな答えだったらしい。記憶は薄れても習ったことは身についている。前世の成績は中の中だったけど、ここでは出来る子の部類に入る。
でもどこにでも天才はいる。
ジュストの頭は東大レベルかマサチューセッツ工科大レベル。ステファンも王太子も同じレベルなんだろう。
「そのオハイエって人、どんな人?」
「どんな人…金髪で目の色は…ピンクだったかな。頭はいい」
興味なさげにそう答える。
「え、それだけ?」
「それだけって、まだ殆ど会話したことがないから、そう言えば、家は伯爵家だ」
「ステファンは?」
「ステファン? 彼がどうした?」
「ステファンは、そのオハイエって人のことどう言っているの?」
「知らないな。『お互い頑張ろう』って握手をしていた。俺はしなかったけど」
「どうして?」
「どうしてって、必ずしないといけないものじゃないだろ」
「そ、それは…そうだけど」
ジュストはレーヌを見て、同級生としてしか認識していない。
一目惚れでもないのか。
「向こうは何か話しかけたそうにしていたけど」
「え! 何でそれを早く言わないのさ」
これは彼女からアプローチ?
レーヌの方が先にジュストを好きになる可能性を失念していた。
「え、それで?」
「何がそんなに気になるんだ」
ちょっと食い気味に尋ねて過ぎたか。ジュストが不審に思ったようだ。
「べ、別に…兄上のことなら何でも知りたいだけだよ。今までは、ほらステファンくらいしか同じ年齢の知り合いっていなかったし、兄上がちゃんとやっていけてるのか気になって」
「父上たちみたいなこと言うな」
「そ、そうかな…」
いつの間にか、大事な我が子を見守る保護者の気分になっていたのかも。
今のところジュストはヤンデレ化も闇落ちもしていない。屈託ない笑顔やはにかむような微笑みは、嘘偽りのない彼の表情だ。
時折眩しいくらいだ。
でも、物語の強制力が発動して、いつ彼が変わるか、わからない。
そのキーパーソンであるレーヌのことをもっと知りたいと思った。
「俺のことを心配してくれて、ありがとう」
今も僕の言葉に対して嬉しそうに笑っている。
ルビーのように赤い瞳が、愛おしげに自分に向けられる。
あの瞳が、ヒロインであるレーヌへといつしか向けられるのかな。
親離れならぬ弟離れ?
ジュストの一番が自分じゃなくなることにちょっと寂しくもなった。
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