【完結】TL小説の悪役令息は死にたくないので不憫系当て馬の義兄を今日もヨイショします

七夜かなた

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13 物語の始まりに向かって③

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これまで身の回りにいる女性といえば、母親や家で働いている使用人たちと、女性とはまだ言えないカレンだけ。家庭教師も男ばかりで、年の近い令嬢たちとの交流はない。
でも学園は共学なのだから当然令嬢方との出会いもあるわけだ。
そしてレーヌとの出会いも待ち構えている。

そう思って話題を振ったのだけど、なぜか地雷を踏んだみたいで、ジュストの機嫌が悪くなった。

「ギャレットは、その年齢で女性に関心があるのか?」

まさかのこっちに話が振られた。なんだか知らないが早熟のエロ餓鬼だと思われたのかも。

「え、ちが、別にそんな…」

前世女の記憶が薄れてきていたとは言え、まだまだ女の心はうっすらと残っている。キレイなお姉さんは憧れだけど、恋愛対象にはならない。

「兄上こそ、女の人とか、興味ないですか? かわいいと思ったりとか…」
「カレンは可愛いが、それはぬいぐるみというか愛玩動物に近いな。でも今のところ俺の一番可愛くて大事な人はギャレットで、次に父上たちが大事だ」
「そ、そう…」

そう言って熱い視線を向けられる。
カレンが可愛いのはわかる。僕もそう思う。
でもギャレットが一番だという考えは、今は狭い社会生活の中で、少ない選択肢しかなく、そこで付けた順位なのだとわかる。
これまでジュストを立てて来た成果が現れたのはいいことだが、それもこれからどうなるかわからない。

まあ、そこまで思ってもらえたなら、死亡フラグは完全に折れたと思っていいのだろう。

心の中で密かに「よっしゃ~っ」とガッツポーズを取り、ニヤけそうになるのを必死で抑えた。

「ギャレットは違うのか?」

ケモノ耳があったら絶対垂れ下がっているだろう。こちらの反応を期待と不安が混じった目で窺っている。
数年かけてお兄ちゃん、兄上サイコーと持ち上げてきたが、まだ足りなかったらしい。

「も、もちろん、兄上が一番好きです。父上や母上より、ギャレットの一番は兄上です」

親指を立ててそう告げると、ジュストの顔から緊張が抜けたのがわかる。

「でも、これからたくさんの人と関わっていくのですから、兄上の一番も変わってくるのでは?」
「お前は、時々大人みたいなことを言う」

指摘されてドキリとする。

「あ、兄上に近づこうと頑張っているだけです。そう見えるなら、手本になる兄上のお陰です」
「……そうか?」

鋭い視線を向けられて、ドキドキとする。

「もちろん、ステファン以外の友人だって出来るでしょ?」
「どうかな…」
「いずれモヒナート家を継ぐなら、そういった繋がりは必要…」
「俺はモヒナート家を継ぐつもりはない」
「え!でも…」

決意を込めた言葉に何も言えなくなる。

「俺がこの家に引き取られたのはギャレットが生まれる前だ。ギャレットがモヒナート家の正式な跡取りなんだから、ギャレットが継ぐべきだ」
「そ、それは…でも、父上たちは…」
「学園を卒業するまでは言わないつもりでいるが、俺はそう思っている」
「そんな、だって、じゃあ、兄上はどうするのですか?」

物語はギャレットを殺してジュストも死ぬ。その後のモヒナート家がどうなったかまでは書かれていなかった。
ただ息子二人を亡くし、打ちひしがれたモヒナート侯爵夫妻の描写があるのみ。
死亡フラグを回収して、生き延びることばかり考えていたから、その後のことは考えていなかった。

でも、死なないなら当然その後の人生もある。
ジュストは唯一人愛する女性を見つけ、それを義弟に穢されそうになり、怒りに任せて殺す。そして自分も死ぬ。という筋書きを知らないのだから、当然と言えば当然と言える。

「それは学園にいる間に考えようと思う。モヒナート家の養子になったが、俺は出自の知れない孤児だ。ここまで育ててくれて、貴族の通う学園にも通わせてもらえることになり、勉強も剣術も習わせてもらっている。恩返しはするつもりだけど、モヒナート家を継ぐことは別の話だ」
「兄上…」

物語でも彼の素性は書かれていない。不憫系当て馬にそこまでの設定を用意するより、主人公二人の幸せが大事だったのはわかる。だからジュストの生い立ちについてはフォローできない。

「でも、ギャレットのことが一番好きで大切なことは変わらない。どこに行っても何になったとしても、ギャレットは俺の一番大事な存在だ」
「兄上…」

嘘偽りない言葉だが、なぜか心が締め付けられる思いがした。

モヒナート侯爵家をどちらが継ぐのか。ギャレットが正当な跡継ぎなのは間違いない。でも能力から考えればジュストが相応しいのがわかる。
前世の大学まで行った知識と社畜時代に培った社会人としてのノウハウと根性はある。
でもギャレットの頭はバカとまではいかなくても、ジュストに到底及ばないことは勉強していて気づいていた。

「ま、レーヌと出会ったらジュストの考えも変わるか」
「え、何か言った?」

ボソリと呟いた言葉はジュストには聞こえなかった。
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