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9 男主人公登場③
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「まあ、あなた達どうしたの!」
二人の母親は戻ってきた子どもたちを見て驚きの声を上げた。
皆一様にして草と泥にまみれ、あちこち傷だらけだ。
そしてわんわん泣きじゃくるわたしと、そんなわたしの手を握りぐっと泣くのを堪えているジュスト。
その隣に同じく泣いたのを隠そうと、ゴシゴシ服の袖で涙を拭うステファン
結局あの後、三人で喧嘩になった。
「わあ~ん、ごめんなさい、ごめん。お兄様ぁ」
アラサー女子がこんなことごときで泣くとは不覚だ。しかし痛いものは痛い。こればかりは体の痛みに五歳児の気持ちが引きずられている。
でも一番ボロボロだったのはジュストだ。
ステファンからギャレットを庇い、ギャレットのステファンに対する攻撃も受け止め、殆どサンドバッグ状態になった。
「一体何があったの?」
「こいつが悪い」
母に問われ、ステファンがビシリとわたしを指差す。
「こいつが、こいつが先に手を出してきたんだ」
二人の母親は顔を見合わせ、わたしの方を見る。
「本当なの?」
彼女らはジュストに確認するが、彼は否定も肯定もしなかった。
それがある程度ステファンの言うことが真実なのたろうと悟ったようだ。
「大人しくなったと思ったのに…」
母のそんな呟きが聞こえる。
「そうだとしても、まだ五歳の子と喧嘩するなんて、恥ずかしいことですよ」
「だ、だって…こ、こいつが」
母親に窘められてステファンは情けなさそうに言い返す。
それを横目にわたしはフッと笑った。
こういう時は年上の方が怒られるのがセオリーだ。
「お、お前、今笑ったな」
運悪くそれをステファンに見られた。
「やめろ!」
殴りかかろうとしたステファンとの間にジュストが割って入る。
しかし勢い余ってその拳はジュストの顔面に命中した。
「グッ」
唇が切れ、そこから血が飛び散った。
「そ、そんな!」
赤い血を見てステファンは我に還ったようだ。
ジュストはどさりと尻もちをつき、後ろに手をつく。
「あ、お兄様~」
「ギャレット、大丈夫だ」
切れた所からタラリと血が流れる。頬も少し赤く腫れている。
それでも兄らしく彼は微笑んで見せた。
「そ、その…俺は」
「よくもお兄様に」
積年の恨みとばかりに、一方的にわたしがステファンを殴ろうとし、ステファンがそれに応戦した。それを止めようとするジュストで、すったもんだした。
「お止めなさい、あなたたち」
「ステファン、自分より小さい子を相手に何をやっているのです」
「はやく、この子達を止めて」
慌てて使用人たちが駆けつけて、わたしとステファンを引き離した。
はあはあと肩で息をしながら、ステファンを睨みつける。
「とにかく、手当をしましょう」
二人の母親は侍女に命じ手当をさせた。
三人は手の届かないよう引き離され、それぞれ手当を受けた。
やはり傷の数はジュストが断トツだった。
擦り傷に加えて打ち身もある。
「お父様が帰ってきたら、みっちり叱ってもらいますからね」
消毒液が染みるのを顔を顰めて我慢していると、母親が物凄い形相で言った。
「ジュストもです。私は弟の面倒をちゃんとみるようにいいましたよね。なのに、この有様。失望しました」
「はい…ごめんなさい」
ジュストの前に立ち、母が腰に手を当てて威圧的にそう言う。
ようやくギャレットから「わたし」に感情と意識の主導権が回ってきていたわたしは、叱られて項垂れるジュストを見て、彼の闇落ちへのフラグが見えた気がして焦った。
「は、母上、ごめんなさい。お兄ちゃんを怒らないで」
「あ、ギャレット様、まだ手当が」
手当の途中で立ってジュストの前に行き、母親を仰ぎ見て、両手を組んた。
「ごめんなさい、僕が悪いの。お兄ちゃんは止めようとしただけ。だからお兄ちゃんを怒らないで。お仕置きならちゃんと受けるから」
「ギャレット…」
「ギャレット、いいよ。僕だって、止められなかったんだ」
喧嘩を始めたのは自分だからと言うと、止められなかったことに自分も悪いと、ジュストが言った。
「あなたたち、庇い合うのは素晴らしいことだけど、そこまで自分が悪いことをしたと思っているなら、喧嘩を始める前に気づいてほしかったわ」
母親の言い分ももっともだ。
「ナディア、こちらこそ、お見舞いに来たのに余計に怪我をさせてしまって、ごめんなさい。ステファン、あなたも年上なのだから、何を言われたとしても、暴力で解決しようとしたのはいけないわ」
またもや母親に責められ、ステファンはボロボロと泣き出してしまった。
二人の母親は戻ってきた子どもたちを見て驚きの声を上げた。
皆一様にして草と泥にまみれ、あちこち傷だらけだ。
そしてわんわん泣きじゃくるわたしと、そんなわたしの手を握りぐっと泣くのを堪えているジュスト。
その隣に同じく泣いたのを隠そうと、ゴシゴシ服の袖で涙を拭うステファン
結局あの後、三人で喧嘩になった。
「わあ~ん、ごめんなさい、ごめん。お兄様ぁ」
アラサー女子がこんなことごときで泣くとは不覚だ。しかし痛いものは痛い。こればかりは体の痛みに五歳児の気持ちが引きずられている。
でも一番ボロボロだったのはジュストだ。
ステファンからギャレットを庇い、ギャレットのステファンに対する攻撃も受け止め、殆どサンドバッグ状態になった。
「一体何があったの?」
「こいつが悪い」
母に問われ、ステファンがビシリとわたしを指差す。
「こいつが、こいつが先に手を出してきたんだ」
二人の母親は顔を見合わせ、わたしの方を見る。
「本当なの?」
彼女らはジュストに確認するが、彼は否定も肯定もしなかった。
それがある程度ステファンの言うことが真実なのたろうと悟ったようだ。
「大人しくなったと思ったのに…」
母のそんな呟きが聞こえる。
「そうだとしても、まだ五歳の子と喧嘩するなんて、恥ずかしいことですよ」
「だ、だって…こ、こいつが」
母親に窘められてステファンは情けなさそうに言い返す。
それを横目にわたしはフッと笑った。
こういう時は年上の方が怒られるのがセオリーだ。
「お、お前、今笑ったな」
運悪くそれをステファンに見られた。
「やめろ!」
殴りかかろうとしたステファンとの間にジュストが割って入る。
しかし勢い余ってその拳はジュストの顔面に命中した。
「グッ」
唇が切れ、そこから血が飛び散った。
「そ、そんな!」
赤い血を見てステファンは我に還ったようだ。
ジュストはどさりと尻もちをつき、後ろに手をつく。
「あ、お兄様~」
「ギャレット、大丈夫だ」
切れた所からタラリと血が流れる。頬も少し赤く腫れている。
それでも兄らしく彼は微笑んで見せた。
「そ、その…俺は」
「よくもお兄様に」
積年の恨みとばかりに、一方的にわたしがステファンを殴ろうとし、ステファンがそれに応戦した。それを止めようとするジュストで、すったもんだした。
「お止めなさい、あなたたち」
「ステファン、自分より小さい子を相手に何をやっているのです」
「はやく、この子達を止めて」
慌てて使用人たちが駆けつけて、わたしとステファンを引き離した。
はあはあと肩で息をしながら、ステファンを睨みつける。
「とにかく、手当をしましょう」
二人の母親は侍女に命じ手当をさせた。
三人は手の届かないよう引き離され、それぞれ手当を受けた。
やはり傷の数はジュストが断トツだった。
擦り傷に加えて打ち身もある。
「お父様が帰ってきたら、みっちり叱ってもらいますからね」
消毒液が染みるのを顔を顰めて我慢していると、母親が物凄い形相で言った。
「ジュストもです。私は弟の面倒をちゃんとみるようにいいましたよね。なのに、この有様。失望しました」
「はい…ごめんなさい」
ジュストの前に立ち、母が腰に手を当てて威圧的にそう言う。
ようやくギャレットから「わたし」に感情と意識の主導権が回ってきていたわたしは、叱られて項垂れるジュストを見て、彼の闇落ちへのフラグが見えた気がして焦った。
「は、母上、ごめんなさい。お兄ちゃんを怒らないで」
「あ、ギャレット様、まだ手当が」
手当の途中で立ってジュストの前に行き、母親を仰ぎ見て、両手を組んた。
「ごめんなさい、僕が悪いの。お兄ちゃんは止めようとしただけ。だからお兄ちゃんを怒らないで。お仕置きならちゃんと受けるから」
「ギャレット…」
「ギャレット、いいよ。僕だって、止められなかったんだ」
喧嘩を始めたのは自分だからと言うと、止められなかったことに自分も悪いと、ジュストが言った。
「あなたたち、庇い合うのは素晴らしいことだけど、そこまで自分が悪いことをしたと思っているなら、喧嘩を始める前に気づいてほしかったわ」
母親の言い分ももっともだ。
「ナディア、こちらこそ、お見舞いに来たのに余計に怪我をさせてしまって、ごめんなさい。ステファン、あなたも年上なのだから、何を言われたとしても、暴力で解決しようとしたのはいけないわ」
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