【完結】TL小説の悪役令息は死にたくないので不憫系当て馬の義兄を今日もヨイショします

七夜かなた

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1  赤い目の少年①

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目覚ましに叩き起こされず目が覚めるってなんて幸せだろう。
爽やかなに目が覚めるなんて、いつぶりだろうか。
毎日終電間近まで残業手当もなしに働き、1 LDKのアパートに帰り着くと、シャワーもそこそこにバタンと倒れるように眠る。
食事を作る気力もなく、それでも体が資本なのだからと、週末にまとめて作ったおかずをチンして食べる。それすらも面倒な時は、非常食に買っておいたカロリーバーを齧る。
そしてセットした携帯の目覚ましが鳴って、叩き起こされる。
そんな日々が続いていた。

なので、その日の目覚めは特別に感じた。

ゆっくりと意識が浮上し、目を開ける。

「ふぁ~良く寝たぁ」

起き上がって伸びをしてそう言った。

「ん?」

何やら違和感を感じる。寝冷えでもして喉がやられたのか。
記憶にある自分の声と違うことに気づいた。
しかもシーツもいつも寝ているお値段以上〇〇リで買ったシーツパットの肌触りじゃない。

「え、えっと…あああ」

発声練習のように声を出していると、バタンと扉を開ける音がした。

「ギャレット! 気がついたのか」
「はい?」

いきなり扉が開いて驚いて目を開ける。
よく見ればその扉は両開きの立派なもので、片開きの自分の部屋の扉ではなかった。

「え?」

更に扉を開けて入ってきた人物を見て驚く。
黒髪に赤い瞳をし、白いシャツと、足にぴったりとした黒いパンツに革のブーツといった出立ちの十代前半くらいの少年。

「だ、だれ?」

それにギャレット?

振り向いて後ろを見るが、そこには豪奢なカーテンのかかった天井から床まである大きな窓がある。

「ギャレット」

少年は私の肩を掴んで自分の方に向き直させる。

「ギャレットって?」

そう問いかけると、少年の赤い瞳が大きく見開かれた。

赤い瞳なんて、カラコンでも入れているんだろうか。

「おお、ギャレット…そんな、父上たちが領地に行っている今、こんなことに…」

少年は突然涙を流し打ちひしがれている。

「あの、すみません、どちら様ですか?」

そう尋ねると今度は手を口に当てて、まさにオーマイゴッドという顔をした。

「そんな…僕のことも忘れてしまったのかい?」

「忘れたって…私はあなたのことなんて…あ、イタッ」

その時激しい頭痛がして頭を抱えた。

「ギャレット!」
「あ、頭…痛い…」

頭を抱えのたうち回る。

「大変だ! ギャレット、待ってて、今すぐお医者様を呼んでくるから」

少年は慌てて部屋を飛び出して行った。
彼がバダバタと走っていく足音を聞きながら、頭の中に浮かび上がってくる映像がフラッシュバックしていた。

デスクトップのバソコン、疲れ切って電車でウトウトしている自分。鍵を開けてぶらぶらと靴を脱いでベッドへと倒れ込む。

そして、ボーッとしながら歩いている自分の方へ迫ってくる二つの大きな光。

次の瞬間、激しい痛みと共に視界が真っ暗になった。

「ハッ!ハァハァハァハァ」

一瞬呼吸が止まったような気がして、肺に空気を取り込もうと激しく呼吸する。

胸を押さえ、激しい鼓動に胸を抑えていると、またもやバタバタと足音が聞こえてきた。

「ギャレット」
「坊ちゃま」
「先生、早く見てください」

体がまったく動かせず、ちらりと視線だけを動かすと、先程の少年とメイドのような服装をした年配の女性とスーツを着た男性が走ってきた。

ほんの一瞬でびっしょりと汗が滝のように吹き出している私を、三人は心配そうに覗き込む。

少年の赤い瞳が、まるで救急車の回転灯みたいだと思いながら、次の瞬間暗闇に落ちていった。
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