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アニエス編
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「う…ん、えっ」
アニエスは身動ぎしようとして、体が言うことをきかないことに気づいて、はっと目を覚ました。
「え、ちょっ、な、何これ」
気付けば見慣れない部屋で寝台に寝かされ、おまけに薄い絹一枚だけの姿で腕は後ろ手に縛られ、足も布で拘束されていた。少し手足に痺れもある。
「い、一体…」
何が起こったのかと記憶を思い起こす。
「確か…家でお茶を飲んでいて…」
寝る前のいつもの薬草茶を口にして、眠りについたところまでは覚えている。
しかし、ここは自分の部屋ではない。蝋燭が灯された部屋は窓に鉄格子が嵌められ、鎧戸が下ろされている。首を巡らせば、まるで牢屋のような堅牢な鉄の扉が見える。
「な…ど、どうして…」
寝ている間に、賊が押し寄せ拉致でもされたのか。
でも、金銭目的の強盗や、暗殺の類なら殺すかその場で拘束すればいいことだ。
それとも、身代金狙いの誘拐か。
しかしベルフ家は健全な運営を行っているが、貴族階級の中では中流で、大金持ちと言う程ではない。狙うなら大商人のほうが確実だ。
それにこの痺れと、ここまでされて気が付かなかったところを見ると、一服盛られたのは間違いない。
「まさか。家人に手引きした者がいる? ラファエル…皆はどうなったのかしら」
同じ邸にいたラファエルや使用人たちの安否が気になるか、この状態では確かめようもない。
ガチャ
必死で状況について考えていると、扉の鍵が外される音がした。
ー一体誰が…
そう思って身構えた。
「え、ラ、ラファエル?」
部屋に入ってきたのはラファエルだった。
「ああ、気がついたのですね」
四肢を拘束され驚いているアニエスを見ても、彼は驚きもせずニコリと微笑んだ。
この状況を少しも異常だと思っていないようだ。
「薬がまだ効いているようですね」
彼の口から聞いた言葉が信じられず、アニエスは唇を戦慄かせた。
「ラファエル、あなたが…あなたがこんなことを? どうして?」
それは彼女をこんな目に合わせたのが、彼自身だからに違いないと、確信する。
「どうして? あなたが悪いのですよ」
笑顔から一転、彼は眼光鋭く睨みつけてきた。
「私、私が何をしたと?」
「僕を捨てようとしたではないですか」
「あなたを…捨てる? そんなこと」
言いかけて彼女ははっとした。
「そうです。三日前、あなたは僕に離婚を切り出した」
「そ、それは…」
「新しい法律が施行され、女性でも条件を満たせば爵位を継げる。その条件に自分は当て嵌まる。だからもう夫婦でいる必要はないからと、あなたは言った」
アニエスは身動ぎしようとして、体が言うことをきかないことに気づいて、はっと目を覚ました。
「え、ちょっ、な、何これ」
気付けば見慣れない部屋で寝台に寝かされ、おまけに薄い絹一枚だけの姿で腕は後ろ手に縛られ、足も布で拘束されていた。少し手足に痺れもある。
「い、一体…」
何が起こったのかと記憶を思い起こす。
「確か…家でお茶を飲んでいて…」
寝る前のいつもの薬草茶を口にして、眠りについたところまでは覚えている。
しかし、ここは自分の部屋ではない。蝋燭が灯された部屋は窓に鉄格子が嵌められ、鎧戸が下ろされている。首を巡らせば、まるで牢屋のような堅牢な鉄の扉が見える。
「な…ど、どうして…」
寝ている間に、賊が押し寄せ拉致でもされたのか。
でも、金銭目的の強盗や、暗殺の類なら殺すかその場で拘束すればいいことだ。
それとも、身代金狙いの誘拐か。
しかしベルフ家は健全な運営を行っているが、貴族階級の中では中流で、大金持ちと言う程ではない。狙うなら大商人のほうが確実だ。
それにこの痺れと、ここまでされて気が付かなかったところを見ると、一服盛られたのは間違いない。
「まさか。家人に手引きした者がいる? ラファエル…皆はどうなったのかしら」
同じ邸にいたラファエルや使用人たちの安否が気になるか、この状態では確かめようもない。
ガチャ
必死で状況について考えていると、扉の鍵が外される音がした。
ー一体誰が…
そう思って身構えた。
「え、ラ、ラファエル?」
部屋に入ってきたのはラファエルだった。
「ああ、気がついたのですね」
四肢を拘束され驚いているアニエスを見ても、彼は驚きもせずニコリと微笑んだ。
この状況を少しも異常だと思っていないようだ。
「薬がまだ効いているようですね」
彼の口から聞いた言葉が信じられず、アニエスは唇を戦慄かせた。
「ラファエル、あなたが…あなたがこんなことを? どうして?」
それは彼女をこんな目に合わせたのが、彼自身だからに違いないと、確信する。
「どうして? あなたが悪いのですよ」
笑顔から一転、彼は眼光鋭く睨みつけてきた。
「私、私が何をしたと?」
「僕を捨てようとしたではないですか」
「あなたを…捨てる? そんなこと」
言いかけて彼女ははっとした。
「そうです。三日前、あなたは僕に離婚を切り出した」
「そ、それは…」
「新しい法律が施行され、女性でも条件を満たせば爵位を継げる。その条件に自分は当て嵌まる。だからもう夫婦でいる必要はないからと、あなたは言った」
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