上 下
7 / 23
アニエス編

7

しおりを挟む
アニエスの母は驚いた後に、喜んでくれた。
 ディルク家にも挨拶に行ったが、ラファエルの家族はアニエスにはまったく興味がなさそうだった。ラファエルを厄介払い出来ることにどこかほっとしていた。
 ただ、彼の義母と異母兄はラファエルが自分たちより爵位が上になることは、気に入らないようだった。
 ジョルジュの婚約者に至っては、ひどくショックを受けていたようだが、そもそも彼女のせいでこんな展開になったのだ。自業自得としか言いようがない。

 そんなわけで、たった一週間の間に結婚の手筈が整い、二人は夫婦になった。そしてラファエルは、夫が部下ではアニエスがやりづらいだろうと、結婚と同時に騎士団を辞めた。
 陰では外に出て働くアニエスと、家に入ったラファエルの結婚を夫婦あべこべでどっちが妻で夫かとか、揶揄する者はいた。
 

「ん、ラファエル」

 寝台に仰向けになったアニエスの体を跨ぐようにして、ラファエルが覆いかぶさる。式での誓いのキスが初めてだったが、その時にした口づけより、さらに深い口づけで、彼が迫ってくる。
 彼の舌が唇を割って彼女の舌に絡みつく。生まれて初めての深い口づけに、アニエスは衝撃を受けた。
 
「今日のアニエスは、いつもと違いますね」

 結婚にあたり、ラファエルは彼女のことを名前で呼ぶようになっていた。
 最初は気恥ずかしかったが、夫婦になるのだからそれも当然だと思い直した。

「へ、変か?」

 アニエスには、何もかも初めてづくし。男性とこんな風に口づけするのも、寝室で二人きりになるのも、この日のためにと母が用意した薄い透き通った生地の夜着を着るのも、果たして意味があるのかわからない布地面積の少ない下着も。
 着慣れない物に身を包んで、居心地の悪さにアニエスは腕で前を隠した。

「いいえ、変ではありません。素敵です」
「そ、そうか。それは良かった」

 何が良かったのかわからないが、ラファエルが嬉しそうに笑うので、とりあえずホッとした。
 
「あ、あなたも…その…いつもより、色気が…意外と筋肉が…」

 彼も膝が隠れる位の丈の薄いガウンを羽織り、胸元の袷が少し開けて胸板が見えている。着痩せするのだろう。意外に筋肉がついていることに気づいた。まだ少し濡れた髪が首筋に張り付いていて、垂れた前髪をさっとかき上げる仕草が、また色っぽい。

「一応この前まで騎士団にいましたから」
「そ、そうだな…」
「アニエス」

 ラファエルに耳元で囁かれ、それだけでアニエスの心臓の鼓動が速くなる。

「な、に?」
「初めては痛いかも知れませんが、後できっと気持ちよくなります。力を抜いて僕にすべてを委ねてください」
「う、わ、わかった。その…ご、ご指導よろしく」

 つい普段の訓練での話し方になり、ラファエルがクスリと笑った。
 
「わかりました」

 細い肩紐がするりと外されたかと思うと、あっという間にアニエスは素っ裸にされてしまった。

「さすが鍛えているだけあって、締まっていますね」
「ひゃうっ」

 ラファエルはアニエスの引き締まったお腹に手を這わせる。驚いて思わず声が出る。

「お、女らしく…ない」

 胸も小ぶりで、身長も高く、筋肉質な自分の体が、他の女性たちに比べて貧相なことは理解している。

「それは誰と比べてですか?」
「別に、特定の人がいるわけでは…」
「ならそのように言うのは止めてください。僕にとってはあなたの裸は十二分に魅力的です。その証拠にほら、僕のここはもうこんなになっています」

 そう言って腰の紐を解いてガウンを脱ぎ捨てたラファエルは、下着を身に着けていなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

裏切りの先にあるもの

松倖 葉
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

《R18短編》優しい婚約者の素顔

あみにあ
恋愛
私の婚約者は、ずっと昔からお兄様と慕っていた彼。 優しくて、面白くて、頼りになって、甘えさせてくれるお兄様が好き。 それに文武両道、品行方正、眉目秀麗、令嬢たちのあこがれの存在。 そんなお兄様と婚約出来て、不平不満なんてあるはずない。 そうわかっているはずなのに、結婚が近づくにつれて何だか胸がモヤモヤするの。 そんな暗い気持ちの正体を教えてくれたのは―――――。 ※6000字程度で、サクサクと読める短編小説です。 ※無理矢理な描写がございます、苦手な方はご注意下さい。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

義兄様に弄ばれる私は溺愛され、その愛に堕ちる

一ノ瀬 彩音
恋愛
国王である義兄様に弄ばれる悪役令嬢の私は彼に溺れていく。 そして彼から与えられる快楽と愛情で心も身体も満たされていく……。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

処理中です...