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264 街角で

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不意に背後から現れた若い女性。

若いと言っても十代ではない。その落ち着いた雰囲気は二十代半ばだろうか。

貴族とも違う、舞屋の人たちが着ていた普段着と同じような派手な装飾のない漆黒のワンピースを着て、美しい赤毛を片側でひとつに束ねて前に垂らしている。
ピンと背筋を伸ばした佇まいは、どこかの店の従業員が客を出迎えるような感じだ。

彼女は十歩ほど離れた所から歩いてきて距離詰め、三歩手前で足を止めた。

「ハレス様ですね」
「ええ…あなたは…昨日会った」

その女性がアンジェリーナ様の知り合いだとわかり少し警戒を解いたが、背後に彼女が立った時に背中に感じたぞわりとした感覚は何だったのだろう。

殺気とも違うが、好意的な感じでもない。彼女から漂ってくるのは警戒の色。

「こんなところまでお呼びだてしてもうしわけごさいません」
「構わないわ。それより昨日と感じが違うからわからなかったわ」
「あれは仕事の際の衣装です。街を歩く時にあの衣装では目立ってしまいますので」
「それもそうね。独特な衣装ですもの」

私の後ろから一歩前に出てアンジェリーナ様と女性は和やかに話す。二人が言う衣装とはどんなものだろうと考えていると、女性が私のことを訊ねた。

「こちらは?」

アンジェリーナ様と話をしながら彼女の視線はアンジェリーナ様と私に交互に注がれていたのは気づいていた。

「あ、彼女は…私のメイドでローリィというの」

アンジェリーナ様は護衛とは言わなかった。

「ローリィと言います」

相手の身分はわからないが、アンジェリーナ様には丁寧に対応している。気配は油断ならない感じだが、初対面なのもあるのかも知れない。

「一人でとは言われなかったので連れてきたのだけど、いけなかったかしら」
「いいえ、貴族の奥様が誰も連れずに出歩かれることがないことは存じております。背が高くていらっしゃるので少し不躾に見つめてしまいました。お許しください」
「お気になさらず…慣れておりますから」

彼女の視線は私が物珍しかったからだったからなのか。丁寧に謝られて気にしていないと答えた。

「私はルイージと申します」

アンジェリーナ様から聞いているのだろうと思ったのか私には話す必要がないと思ったのか、彼女は名前だけを告げ何者であるかは私に説明しなかった。

「こちらへ」

先に彼女が路地に向かって歩き出した。
アンジェリーナ様は警戒もせずにその後ろをついて行った。
昼間だし特別治安も悪い地域ではなさそうなので、一度周囲を見回してから何かあればすぐにアンジェリーナ様を庇える距離を保ちながら進んだ。

「アンジェリーナ様、あのルイージという方はどういった方なのですか?」

彼女に聞こえないようにそっと耳打ちした。

「そうね、話してしなかったわね。彼女は昨日グリーム子爵のお茶会で会った人なの」
「それはお二人の話から推測できましたが、彼女に呼び出されてここまで来られたのですか?」

見た目から判断するのは軽率だが、彼女はどう見ても貴族ではない。そんな彼女が貴族の奥方を街中まで出てくるように誘ったということなのか。

「私が彼女にもう少し話を聞きたいから会えないかとお願いしたの」

アンジェリーナ様から誘いをかけたことに驚いたが、続けて聞いた彼女の正体にさらに驚いた。

「彼女は占い師なの」
「え!」
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感想 104

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みんなの感想(104件)

luka0807
2023.02.20 luka0807

大分更新あいているようですが、更新お待ちしております。

解除
pokonobu
2022.11.05 pokonobu

あう~💦💦💦イッキ読みしてしまったら、未完だった🤧…。続き気になる~~~~😖💦💦💦作者様、どうかよろしくお願いします🙇🙇

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リコミミ
2021.07.08 リコミミ

いっつも更新を心待ちにしています!お忙しいと思いますが、先が気になるので、是非早めの更新をお願いします(*´꒳`*)

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