転生して要人警護やってます

七夜かなた

文字の大きさ
上 下
262 / 266

260 魂に刷り込まれたもの

しおりを挟む
その日もミシェル・ハレスは遅くまで執務室で仕事をしていた、
今回の式部の大幅な人事異動は、他の部署にも多大な影響があった。
 
誰かが異動すれば、新たなポストを作るか誰かを動かさなければならない。

人が大きく動き、警備計画が変更され、警備体制を整えるのに思った以上に時間がかかった。

新年の宴の踊り子選抜の騒動に、式部の上層部が一部の舞屋などに肩入れしたりしていたことが今回の新年の宴の舞手選びで判明した。
ローリィ・ハインツ。またの名をローゼリア・アイスヴァイン。
今は自分の妻の護衛として自分の屋敷に滞在しているストロベリーブロンドの背の高い彼女が関わった選考で明るみに出たわけだが、彼女が関わるとなぜか物事が大事になるのは気のせいだろうか。

彼女個人のことは嫌いではない。妻のアンジェリーナほどではないが、好ましく思っている。
彼女の腕前を見てキルヒライル殿下の護衛に推薦したことは後悔はしていない。
そのお陰で殿下も難を逃れることができた。
しかし、キルヒライル殿下が、そんな彼女に女性として興味を持っている事実には正直納得は出来ても戸惑いが隠せない。

人としてはいい人間だとはわかるが、自分が殿下と同じように彼女を女性として見られるかと言えば無理だ。

彼女の中に異性としての魅力を見出した殿下の眼力には驚いた。
女性の趣味が違うと言えばそれまでだが、よりによって複雑な事情を抱えた女性を好きになったものだと思わないではない。

放っておいても彼女は目立つ。
ストロベリーブロンドの髪にアメジストの瞳。少し吊り目で気が強そうに見えるが、すでに亡くなったという両親もそれなりに容姿は良かったのではなかろうか。
女性にしては背が高いが、彼女より背が高い男ならそこそこいるし、少ないが身長差に拘らない男性もいるだろう。
しかも見た目だけでなく彼女の放つ空気が、彼女をさらに目立たせている。
異性より同性に好かれる。しかも倒錯的なまでに女性たちを惹き付ける。
見ていてこちらが呆れるほどに…

彼は自らの人生を切り開こうと努力している彼女の姿勢に感心するとともに、どこか気負い過ぎて痛々しく思っていた。

『人の役に立つ人になりなさい』

そう親から言われて育つ子は多い。人と人は支え合って生きている。それぞれがひとつの歯車となり、うまく噛み合っているからこそ世界は廻っている。
農夫や漁師などがいなければ食糧を確保できないし、料理人がいなければそれらを食すこともできない。機織りやお針子がいなければ着る物を確保するのが難しい。その点で言えば皆何かしら『役に立っている』
そして彼女は、『誰かを護らなければ』という使命感が人より強い。
家族を護る。大切な人を護る。誰でも思うところだが、それが職業となると、騎士でもない人間がそう思うことはあまりない。
キルヒライル殿下の護衛の話を持ちかけた時も、報酬よりはその信念で引き受けたところが大きいと彼は見ている。

何があって彼女はそう思うようになったのか。
武術を習い始めたのはまだ幼い頃だと聞く。
それはまるで魂に刷り込まれているかのようだと思った。

陛下がバート・レイノルズの存在を彼女に明かしたのは、キルヒライル様のすべてを彼女に託したことに他ならないと、彼は思っている。

今は平民として生きているが、もともとは貴族の出だし、少し体裁を整えればキルヒライル様とも釣り合いが取れる。

常に兄王のためにその身を捧げてきた殿下と、誰かを護りたいと思っている彼女は、その性質という意味ではよく似ている。

ただ守ってあげるだけの女性にこれまで興味を示されなかった殿下には、彼女のような存在が新鮮に見えたのは間違いない。

あとは今抱えている問題が少しでも早く解決してくれることを願うばかりだ。

アンジェリーナにはここ最近寂しい思いをさせている。せめて子どもがいれば状況は違っていただろうが、こればかりは焦っても無理なことはわかっている。

ようやく半分になった書類の山の残りを片付けながら、彼は心の中で妻に謝った。

もう少しで色々なことが落ち着くだろう。
そうすれば、少し休暇を取って妻とゆっくり過ごすのもいい。
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

姉妹の中で私だけが平凡で、親から好かれていませんでした

四季
恋愛
四姉妹の上から二番目として生まれたアルノレアは、平凡で、親から好かれていなくて……。

【完結】私は側妃ですか? だったら婚約破棄します

hikari
恋愛
レガローグ王国の王太子、アンドリューに突如として「側妃にする」と言われたキャサリン。一緒にいたのはアトキンス男爵令嬢のイザベラだった。 キャサリンは婚約破棄を告げ、護衛のエドワードと侍女のエスターと共に実家へと帰る。そして、魔法使いに弟子入りする。 その後、モナール帝国がレガローグに侵攻する話が上がる。実はエドワードはモナール帝国のスパイだった。後に、エドワードはモナール帝国の第一皇子ヴァレンティンを紹介する。 ※ざまあの回には★がついています。

処理中です...