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257 買い物依存症?
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馬車はハレス邸の門のところで止まった。
ハレス卿も不在と言うことで、師匠とは馬車を降りたところで別れた。
「ただいま帰りました」
玄関に入って帰宅を告げると、アンジェリーナ様が玄関にいた。
「もう用事は済んだの」
「はい。アンジェリーナ様はどこかにお出かけですか?」
「ええ、グリーム子爵家に……何でも変わった趣向でお茶会をするそうなの」
「グリーム子爵……初めてお聞きするお名前ですね」
アンジェリーナ様についていくつかのお茶会に行ったが、その名前を聞くのは初めてだった。
「そうね。あまり親交はないけど、リーファス伯爵夫人のお誘いなの。あの方は私より顔が広いから」
リーファス夫人……。アンジェリーナ様は地方の貴族出身なのであまり王都に住んでいる貴族の方に明るくないと聞いている。リーファス夫人はその点生まれも育ちも王都なので、お知り合いも貴族だけに留まらず多いと言っていた。
二、三度アンジェリーナ様の護衛でついていったことがある。
「そういうことでしたなら、お供いたしましょうか。すぐに支度をしてまいりますが」
「あらいいのよ。あなたが帰ってこないかも知れないと思っていたので、そのつもりで用意をしていたから……それにあなたも帰ったばかりでまた出掛けるのは大変でしょう」
意外にもアンジェリーナ様は私の同行を拒んだ。いつもは喜んで私を護衛に引っ張って行かれるので、不思議に思った。
「実を言うと、今回は特別に無理を言って招待していただいたの。だから、あなたを連れていくことも話していないし……今度またお願いするわ」
「さようですか……それなら仕方ありませんね。でも本当に大丈夫ですか?」
アンジェリーナ様にも事情があるのだろう。無理についていっても悪いと思い引き下がった。
「ですが、護衛は大丈夫ですか?」
「ちゃんと男性の護衛は連れていくから大丈夫よ」
「わかりました。お気をつけていってらっしゃいませ」
そこへ馬車の用意ができたと使用人が告げに来て、アンジェリーナ様は出掛けていった。
最近ハレス子爵の帰りが遅いこともあり、心配していたアンジェリーナ様だったが、今日はとても楽しそうに出掛けられたので少しほっとした。
「あの、ローリィさん」
部屋に戻ろうとした私に執事のジベルさんが声をかけてきた。何やら深刻そうには見える。
「どうかされましたか?」
「少し見ていただきたいものが……」
ジベルさんについていくとそこはアンジェリーナ様の私室だった。
「ここ、アンジェリーナ様の部屋ですよね。かってに入っては……」
「不用意には入ってはいけませんが、掃除のためにメイドは入りますので、出入りは咎められません」
戸惑う私を無視して強気な言い方で扉を開けた。
入り口で体を反転させて私に中を見てくれと合図するので、渋々覗き込んだ。
そこまはまだ居間なので応接セットや書き物机などの調度品が置かれている。
「特に……何だか壺や銅像とか……アンジェリーナ様の趣味ですか?」
よくよく見れば動物の牙やら兎の剥製もある。
「ここひと月近くの間に奥さまがあちこちから取り寄せられていつの間にかこのように……ご夫婦の寝室にも怪しげなものが入った箱などもあって、若いメイドは不気味がっております」
「確かに趣味がいいかと言われればいいとは言えませんが……」
「問題は趣味だけの話ではないのです。こちらへ来て下さい」
次にジベルさんは自分の執務室へ私を案内した。
引き出しを開けて文箱を取り出し私の目の前に置くと蓋を開けた。
「これは?」
「先程の品々の請求書です」
それは到底安いとは言えない値段のものばかりだった。
「えっと……私に鑑定眼はありませんが、そんなにお高いものだったんですね。というか、これ総額おいくら?」
しかも立て続けに買い漁っている。
「もちろん、あの品々の質を考えればこの金額の十分の一にも及びません」
「え、ならアンジェリーナ様はどうして……」
「それを奥さまに訊いていただきたいのです。私が申し上げると角が立ちますし、旦那様もこのところお帰りが遅くて、お疲れのようですし……」
「以前にもこんな風なことがあったのですか? その……買い物に走るような」
「ここに嫁いでこられてからは初めてです」
きっぱりとジベルさんは言い切った。
ハレス卿も不在と言うことで、師匠とは馬車を降りたところで別れた。
「ただいま帰りました」
玄関に入って帰宅を告げると、アンジェリーナ様が玄関にいた。
「もう用事は済んだの」
「はい。アンジェリーナ様はどこかにお出かけですか?」
「ええ、グリーム子爵家に……何でも変わった趣向でお茶会をするそうなの」
「グリーム子爵……初めてお聞きするお名前ですね」
アンジェリーナ様についていくつかのお茶会に行ったが、その名前を聞くのは初めてだった。
「そうね。あまり親交はないけど、リーファス伯爵夫人のお誘いなの。あの方は私より顔が広いから」
リーファス夫人……。アンジェリーナ様は地方の貴族出身なのであまり王都に住んでいる貴族の方に明るくないと聞いている。リーファス夫人はその点生まれも育ちも王都なので、お知り合いも貴族だけに留まらず多いと言っていた。
二、三度アンジェリーナ様の護衛でついていったことがある。
「そういうことでしたなら、お供いたしましょうか。すぐに支度をしてまいりますが」
「あらいいのよ。あなたが帰ってこないかも知れないと思っていたので、そのつもりで用意をしていたから……それにあなたも帰ったばかりでまた出掛けるのは大変でしょう」
意外にもアンジェリーナ様は私の同行を拒んだ。いつもは喜んで私を護衛に引っ張って行かれるので、不思議に思った。
「実を言うと、今回は特別に無理を言って招待していただいたの。だから、あなたを連れていくことも話していないし……今度またお願いするわ」
「さようですか……それなら仕方ありませんね。でも本当に大丈夫ですか?」
アンジェリーナ様にも事情があるのだろう。無理についていっても悪いと思い引き下がった。
「ですが、護衛は大丈夫ですか?」
「ちゃんと男性の護衛は連れていくから大丈夫よ」
「わかりました。お気をつけていってらっしゃいませ」
そこへ馬車の用意ができたと使用人が告げに来て、アンジェリーナ様は出掛けていった。
最近ハレス子爵の帰りが遅いこともあり、心配していたアンジェリーナ様だったが、今日はとても楽しそうに出掛けられたので少しほっとした。
「あの、ローリィさん」
部屋に戻ろうとした私に執事のジベルさんが声をかけてきた。何やら深刻そうには見える。
「どうかされましたか?」
「少し見ていただきたいものが……」
ジベルさんについていくとそこはアンジェリーナ様の私室だった。
「ここ、アンジェリーナ様の部屋ですよね。かってに入っては……」
「不用意には入ってはいけませんが、掃除のためにメイドは入りますので、出入りは咎められません」
戸惑う私を無視して強気な言い方で扉を開けた。
入り口で体を反転させて私に中を見てくれと合図するので、渋々覗き込んだ。
そこまはまだ居間なので応接セットや書き物机などの調度品が置かれている。
「特に……何だか壺や銅像とか……アンジェリーナ様の趣味ですか?」
よくよく見れば動物の牙やら兎の剥製もある。
「ここひと月近くの間に奥さまがあちこちから取り寄せられていつの間にかこのように……ご夫婦の寝室にも怪しげなものが入った箱などもあって、若いメイドは不気味がっております」
「確かに趣味がいいかと言われればいいとは言えませんが……」
「問題は趣味だけの話ではないのです。こちらへ来て下さい」
次にジベルさんは自分の執務室へ私を案内した。
引き出しを開けて文箱を取り出し私の目の前に置くと蓋を開けた。
「これは?」
「先程の品々の請求書です」
それは到底安いとは言えない値段のものばかりだった。
「えっと……私に鑑定眼はありませんが、そんなにお高いものだったんですね。というか、これ総額おいくら?」
しかも立て続けに買い漁っている。
「もちろん、あの品々の質を考えればこの金額の十分の一にも及びません」
「え、ならアンジェリーナ様はどうして……」
「それを奥さまに訊いていただきたいのです。私が申し上げると角が立ちますし、旦那様もこのところお帰りが遅くて、お疲れのようですし……」
「以前にもこんな風なことがあったのですか? その……買い物に走るような」
「ここに嫁いでこられてからは初めてです」
きっぱりとジベルさんは言い切った。
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