転生して要人警護やってます

七夜かなた

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256 子どもの中の大人

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先に殿下を見送り、その後で同じ馬車で師匠と共にハレス邸まで送ってもらうことになった。

「おれとお前が出会って、何年になる?」

窓のない馬車の中で、ランプの灯りに照らされて師匠が呟いた。

「五歳の時でしたから…もうすぐ十五年になります」

「そうか……そんなになるか……初めて会った日のことを覚えているか?」

またもや質問されて頷いた。

「おれの五歳の頃なんて、毎日野山を駆け回って、腹が減ったら飯を食い……親の手伝いを時々して……本能のままに生きていたな」

師匠の小さい頃なんて考えたこともなかった。
誰にでも赤ちゃんの頃もあったのだから、当たり前だけど。

「だから、正直貴族のお嬢ちゃんなんてどんなのか知らなかったから、武術指南と言われてもぴんとこなかった。なのに、実際あってみると五歳の割に言うことはちゃんと筋が通っていたし、周りの大人が知らないことを知っていたり、まるで子どもの体に大人がいるみたいに思った」
「師匠……」

どきりとした。
師匠は私の子どもらしからぬ行動をそんな風に思っていたとは知らなかった。

「確かにロード様とクレア様の子どもだし、それはルイスもよく知っている。クレア様が妊娠してローリィを生んだことは間違いない。ませているとか大人びているとかではなく、本当に大人が小さくなったとでもいうか……ローゼリアの小さな体に、誰か見知らぬ大人が入り込んだみたいな。そんな感じがした。出会ってすぐ、お二人に問いかけたことがある」
「二人は……なんて?」

「変化があったのは、その胸にある傷を負うことになった事件からだったと。突然剣術を習いたいと言い出したり、周りの大人も知らないことを知っていたり……でも、お二人は元の……怪我を負う前のローゼリアの面影も確かにあると。多少風変わりでも、愛しい娘だと仰った」

突然の我が儘を、二人は戸惑いながらも最後には受け入れてくれた。
来宮 巴の記憶が甦ったとしても、その身は間違いなく二人から与えられたもの。記憶が甦る前のローゼリアとしての日々も、確かに自分の中に存在していた。

「おれはお二人の考えを尊重することにした。五歳の貴族のお嬢ちゃんでなく、目の前のローゼリア・アイスヴァインという一人の人間として向き合えば、多少変わっていても何も驚くことはないと。ウィリアムたちと比べるのでもなく、何があっても、これがローゼリアなのだと受け止めることにした」

「師匠……」

突然変わってしまった娘に対して、戸惑いながらも愛情を持って接してくれた両親が、たまらなく恋しくなった。

そして、同じように他者と比べるのでもなく、私という存在に向き合い、対峙してくれた師匠。

「ローリィ」

師匠の目が、大きな野獣にであった時のように鋭く光った。

「亡くなったロード様たちやおれにも、明かしていない何かがあるんじゃないか?」

「え……」

「あの五歳の時に……傷を負っただけでなく、何かが……ローゼリアの身の内に何かが起こって……」

核心を突いた言葉に、心臓が高鳴った。

師匠は何かを勘づいている。
来宮 巴……前世の記憶が甦ったとはさすがに想像していなくても、五歳のあの事件が原因で、ローゼリアに何かの変化があったことは確信している。

「………えっと……」

どんなに奇妙で奇想天外な話でも、師匠ならそれが嘘だとは思わないだろう。
頭がおかしくなったとも思ったりしないと思う。

「そう思い詰めるな。原因が知りたいわけじゃない。言っただろう? それもこれも含めて、ローゼリア・アイスヴァインだと受け入れると」

師匠の面差しが優しく…猛獣のような顔つきは変わらないが…私にはその変化がわかった。
私が教えられた剣技をうまく習得できた時の、よくやったという表情。
小柄な獲物から始まって、大物を仕留めることが出来た時に見せてくれた、自分の弟子は凄いなーという誇らしげな表情。
エミリさんの手料理を美味しいと言ってお代わりをせがんだ時の表情。

どんな時もそのいかつい顔の中で私に見せてくれた師匠の愛情を、今も肌で感じた。

「師匠……」
「ん? なんだ?」
「抱きついても……いいですか?」
「え?」

師匠が何か言う前に、私はばっと動いて目に前に座る師匠の体に飛び付いた。

「ロ、ローリィ……」

戸惑いながらも師匠は私の体を受け止めてくれた。
大きな体は私が飛び付いたくらいではびくともしない。

「な、なんだ!」
「師匠……私を弟子として受け入れてくれてありがとう。ルイスに脅されてだったとしても……」
「脅されて……おれが脅しに屈するわけがないだろ」

エミリさんとの仲を取り持ってもらった恩でアイスヴァイン家の執事のルイスからの頼みが断れなかったことを言うと、師匠は反論したが、友人思いの師匠がルイスの顔を立てて、話だけでも聞こうとしてくれたことは知っている。

「師匠……私を信じてくれて……ありがとう」
「師匠なら弟子のことを信用するのは当たり前だ」

ぽんぽんと、抱きつく私の背中を優しく叩く。

「師匠………」

「ん?」

「オヤジ臭いね」

「うるさい」

そうこうしているうちに、馬車はハレス邸の前に着いた。
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