転生して要人警護やってます

七夜かなた

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「ルードリヒ侯爵には近づくな」

もう一度殿下は念を押した。

「普通にしていれば会うことはないと思います」

気を付けろと言われても、私から会いに行かなければ、財務長官にまでなっている侯爵に会う機会などないだろう。
でも、殿下が気を付けろと言った意味は次の言葉でわかった。

「普通にしていればな……だが、彼が密かにグスタフと通じている疑いがあるとしたら……」
「それは……」
「もちろん、まだグスタフとルードリヒが直接繋がる証拠はない。だが、シュルス近辺でナジェルたちとルードリヒが何らかの接触を図ったらしいということだ。既にナジェルとフィリップたちが仲間だということはわかっている。そして、フィリップがグスタフを匿っていたことも」

点と点を繋げば線になる。
全員が同じ線上に立っているなら、繋がっていると考えて間違いはない。

「グスタフがすでに君のことを何とも思っていないなら……もしくは彼だけが君に執着しているだけなら、向こうもあえて危険を侵してまで接触してくることはないだろう。彼らがいつ、どこでどういう風に繋がったかはわからないが、最初から君が目的のひとつだったわけではないのは確実だ」
「私が……殿下の前に現れて、グスタフの注意を引いたから?」
「君はわたしのせいで巻き込まれたということだ」

護衛として最初に首を突っ込まなければ、グスタフと関わることもなかったかもしれない。

「すまない」

殿下が謝った。

「王族に生まれた私は、良くも悪くも人の注意を引くことは仕方のないことだ。だが君は……」
「謝らないでください。キルヒライル様のせいではありません。誰も出自は選べません。でも、その後の人生は、時には自分の意思でなく決まったことがあったとしても、自分の選択でいくらでも変わってきます。キルヒライル様が謝ることなどありません。そもそも、マーティンという人物が、父を殺したことで既に私はこの一件に巻き込まれていると思っています」

殿下に関わったからでなく、彼らが父を殺した時に、見えない糸が私をここまで引っ張ったのだ。

「父が…私に自分の無念を晴らして欲しいと殿下との縁を結んだかどうかはわかりませんし、父が娘である私にそうしてくれと望んでいるかと言えば、私を危険な目に合わせることは考えないと思います」

敵討ちなど望む父ではなかったと信じる。
父のことを知る師匠も、横でそのことを同意して頷く。

「でも……私が……剣を握ったことのない人間だったなら、ここまで深く関わることもなかったかと思いますが、私が師匠から教わった全ては……今、このためにあるのだと思いたい。復讐とまではいかなくても、蚊帳の外にはいたくないのです」

「ローリィの気持ちはわかるが……」

「私の身を案じてくれているのはわかりますが、それは殿下も同じです。誰も大切な人に傷ついてほしくない。でも、時には護るだけでなく、ともに立ち向かう必要もあると思うのです。無茶なことはしません。ルードリヒ侯爵のことも油断はしません。けれど、巻き込んで悪かったとは言わないでください」

謝られてしまったら、殿下との出会いさえ不運のように感じてしまう。

「自惚れかもしれませんが、関わったのが私で幸いでした。私なら相手に傷のひとつやふたつ付けてやることができます。ただではすませません。だから、気にしないでください」

「『ロイシュタールの猛獣』と言われたおれでも、これまで体に傷ひとつ付かなかったわけではありません。誰も無敵ではないのです。こいつの言うとおり、父親が殺されたことですでに無関係ではないんです。いずれは巡り会う運命だった。復讐にとりつかれる必要はありませんが、乗り掛かった船という言葉もありますし、十分気を付けるように言いますから、こいつのことを信じてやってください」

「彼女の腕前を疑ったことはない。彼女が居てくれたことで助かったこともあるのだから……」

「もともとこいつの素質もありますが、おれの自慢の弟子ですから」

師匠がどや顔満載で胸を張った。
誉められて私も悪い気はしない。

「ドルグラン殿の弟子……殿下を疑うわけではありませんが、それほど腕が立つのですか?」

アーノルドさんが私の技量を認める殿下と師匠の言葉を聞き、興味津々で私を見つめる。

「それだけではない。珍しい特技も持っている。人の動きは一度見ただけで覚える。どんなに複雑な動きでもな」
「まさか……」
「そのまさかだ。機会があれば手合わせしてもらうといい」
「そうですね……その時はよろしくお願いします」

言葉通り殿下を疑ってはいないが、私の腕前も信用していない様子だった。

「ご期待に添えるよう頑張ります」



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