251 / 266
249 いかにも私が……
しおりを挟む
「止まったな……」
「ええ」
二人で体に緊張を巡らせる。
着いた瞬間から周囲に威圧的な空気が押し寄せる。
剥き出しの威圧感。
警戒していることを隠す気はないようだ。
「どうぞ」
馭者が扉を開けた。
馭者台にいる時は気がつかなかったが、立ち姿にも隙がない。
グレン氏は馭者を脅しても無駄だと言っていたが、簡単に口を割らないだけでなく、腕も立つからなのだろう。
三方を二階建ての建物に囲まれた空き地に馬車は止まっていた。
どの建物からも人の気配がする。普通に住んでいる建物ではないのは、雰囲気でわかった。
「貴殿はこちらへ」
中央の建物に案内されて、そこで待っていた男性にまず師匠と一階で引き離された。
年はウィリアムさんくらいだろうか。
師匠よりは体は小さいが、それなりに立派な体格をしている。
「危害は加えません。安心してください」
互いに警戒しているが、あちらから問答無用で襲ってくる明らかな殺意は感じられない。
「もし髪の毛一本でも傷を付けたら、容赦せんぞ」
腰に帯びた剣の柄を握り、師匠は剣呑な空気を放って威嚇してくれた。
現役を退いてもなお、その覇気は衰えていない。
今でも野獣を狩ったりしながら腕を磨いているのも役立っている。
「我々も怪我はしたくありません」
両手を上げて降参の意を表明した男性を見て、師匠も覇気は納めたが柄にかけた手は動かさなかった。
男はそれを見て苦笑いする。
「信用……していただけませんか。殺意がないのはわかりますよね」
「すまんな。それはわかるが、このように手の込んだ方法で、どこかもわからない場所に連れてこられ、警戒するなと言う方が無理だ」
「モーリス・ドルグラン殿…『ロイシュタールの猛獣』とわかっていて歯向かうことはしません」
「おれを知っているのか?」
「噂だけですが……そしてそちらはあなたのお弟子さんだと聞いています」
私のことも名前だけでなく、色々知っている様子だ。
「グレン氏に名前は告げましたが、そこまでは伝えていません。どうして……」
「疑問はレイノルズに会えばわかります。ドルグラン殿はこちらで私共としばらくお待ちください。ハインツ殿は二階の一番奥の部屋へ」
師匠と互いに目線を交わし、頷き合った。
「行ってきます」
「気をつけて」
「左の扉を開けると奥に階段がある」
師匠に送り出され、一人で二階に上がった。
二階には扉が三つ。上がってすぐ、両脇に扉があって奥にもう一つ。
一階には人の気配がたくさんあったが、二階は閑散としている。
扉を叩くと中からくぐもった男性の声が聞こえて中に入った。
窓辺に置かれた机に座り、窓の方を向いて扉に背を向けていた人物が立ち上がってこちらを向いた。
「あなたが……レイノルズさん?」
窓から差し込む光を背にして立ち上がったので、眩しくて顔立ちがすぐにはわからなかった。
男性が立ち上がった場所から移動してこちらに歩いてきて、眩しさがなくなり目がなれてきた。
「いかにも、私がバート・レイノルズです。お嬢さん」
その声はどこかで聞いたことがあると思った。
座っていた机の前にまわって、そこにもたれかかるようにして立ったその人は、肩下より少し長めの茶色い髪と、同じ色の髭を頬から顎にかけて生やしている。
その瞳は濃紺。
「…………」
「どうしましたか?」
「い、いえ……」
似ていると思ったが、まさか。
「私にご用があるとか。どのような用件でしょうか?」
「用件?」
そう訊ねられて、彼の名前が書かれた紙を見て会うことだけ考えていて、用件などないことに気がついた。
「そうです。私に何かご用があって商会を訪ねられたのですよね」
顔が似ているからだろうか。声まで似ている気がする。
「用は………」
陛下からもらった籠に入っていた紙に書かれた名前。
そしてハレス卿がバート・レイノルズという名を聞いて私に言った言葉。
そして目の前に立つ人物の姿と声。
「…………まさか」
「どうしましたか?」
小首を傾げ、私の戸惑いを見てそう訊ねた目の前に立つ人物の目は、面白そうに笑っている。
「…………キルヒ………ライル……?」
最後は疑問符になった。
「ええ」
二人で体に緊張を巡らせる。
着いた瞬間から周囲に威圧的な空気が押し寄せる。
剥き出しの威圧感。
警戒していることを隠す気はないようだ。
「どうぞ」
馭者が扉を開けた。
馭者台にいる時は気がつかなかったが、立ち姿にも隙がない。
グレン氏は馭者を脅しても無駄だと言っていたが、簡単に口を割らないだけでなく、腕も立つからなのだろう。
三方を二階建ての建物に囲まれた空き地に馬車は止まっていた。
どの建物からも人の気配がする。普通に住んでいる建物ではないのは、雰囲気でわかった。
「貴殿はこちらへ」
中央の建物に案内されて、そこで待っていた男性にまず師匠と一階で引き離された。
年はウィリアムさんくらいだろうか。
師匠よりは体は小さいが、それなりに立派な体格をしている。
「危害は加えません。安心してください」
互いに警戒しているが、あちらから問答無用で襲ってくる明らかな殺意は感じられない。
「もし髪の毛一本でも傷を付けたら、容赦せんぞ」
腰に帯びた剣の柄を握り、師匠は剣呑な空気を放って威嚇してくれた。
現役を退いてもなお、その覇気は衰えていない。
今でも野獣を狩ったりしながら腕を磨いているのも役立っている。
「我々も怪我はしたくありません」
両手を上げて降参の意を表明した男性を見て、師匠も覇気は納めたが柄にかけた手は動かさなかった。
男はそれを見て苦笑いする。
「信用……していただけませんか。殺意がないのはわかりますよね」
「すまんな。それはわかるが、このように手の込んだ方法で、どこかもわからない場所に連れてこられ、警戒するなと言う方が無理だ」
「モーリス・ドルグラン殿…『ロイシュタールの猛獣』とわかっていて歯向かうことはしません」
「おれを知っているのか?」
「噂だけですが……そしてそちらはあなたのお弟子さんだと聞いています」
私のことも名前だけでなく、色々知っている様子だ。
「グレン氏に名前は告げましたが、そこまでは伝えていません。どうして……」
「疑問はレイノルズに会えばわかります。ドルグラン殿はこちらで私共としばらくお待ちください。ハインツ殿は二階の一番奥の部屋へ」
師匠と互いに目線を交わし、頷き合った。
「行ってきます」
「気をつけて」
「左の扉を開けると奥に階段がある」
師匠に送り出され、一人で二階に上がった。
二階には扉が三つ。上がってすぐ、両脇に扉があって奥にもう一つ。
一階には人の気配がたくさんあったが、二階は閑散としている。
扉を叩くと中からくぐもった男性の声が聞こえて中に入った。
窓辺に置かれた机に座り、窓の方を向いて扉に背を向けていた人物が立ち上がってこちらを向いた。
「あなたが……レイノルズさん?」
窓から差し込む光を背にして立ち上がったので、眩しくて顔立ちがすぐにはわからなかった。
男性が立ち上がった場所から移動してこちらに歩いてきて、眩しさがなくなり目がなれてきた。
「いかにも、私がバート・レイノルズです。お嬢さん」
その声はどこかで聞いたことがあると思った。
座っていた机の前にまわって、そこにもたれかかるようにして立ったその人は、肩下より少し長めの茶色い髪と、同じ色の髭を頬から顎にかけて生やしている。
その瞳は濃紺。
「…………」
「どうしましたか?」
「い、いえ……」
似ていると思ったが、まさか。
「私にご用があるとか。どのような用件でしょうか?」
「用件?」
そう訊ねられて、彼の名前が書かれた紙を見て会うことだけ考えていて、用件などないことに気がついた。
「そうです。私に何かご用があって商会を訪ねられたのですよね」
顔が似ているからだろうか。声まで似ている気がする。
「用は………」
陛下からもらった籠に入っていた紙に書かれた名前。
そしてハレス卿がバート・レイノルズという名を聞いて私に言った言葉。
そして目の前に立つ人物の姿と声。
「…………まさか」
「どうしましたか?」
小首を傾げ、私の戸惑いを見てそう訊ねた目の前に立つ人物の目は、面白そうに笑っている。
「…………キルヒ………ライル……?」
最後は疑問符になった。
1
お気に入りに追加
1,930
あなたにおすすめの小説

3年前にも召喚された聖女ですが、仕事を終えたので早く帰らせてもらえますか?
せいめ
恋愛
女子大生の莉奈は、高校生だった頃に異世界に聖女として召喚されたことがある。
大量に発生した魔物の討伐と、国に強力な結界を張った後、聖女の仕事を無事に終えた莉奈。
親しくなった仲間達に引き留められて、別れは辛かったが、元の世界でやりたい事があるからと日本に戻ってきた。
「だって私は、受験の為に今まで頑張ってきたの。いい大学に入って、そこそこの企業に就職するのが夢だったんだから。治安が良くて、美味しい物が沢山ある日本の方が最高よ。」
その後、無事に大学生になった莉奈はまた召喚されてしまう。
召喚されたのは、高校生の時に召喚された異世界の国と同じであった。しかし、あの時から3年しか経ってないはずなのに、こっちの世界では150年も経っていた。
「聖女も2回目だから、さっさと仕事を終わらせて、早く帰らないとね!」
今回は無事に帰れるのか…?
ご都合主義です。
誤字脱字お許しください。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?


ヤンデレお兄様から、逃げられません!
夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。
エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。
それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?
ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる