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247 巡り合わせ
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「しかし、剣となり盾となり……か。本当に風変わりだな。普通の男女なら安らげる存在になりたいとか、心から尽くしたいとか考えるものだろう。そこがローリィなのだろうが」
誉められているのか呆れられているのか。
ハレス卿の顔は、ひどくまじめなので、からかっているのではないとわかる。
「そういう君だから、殿下の目にも止まったのか。君のお父上がご存命で、今も領地にいたなら、どうなっていただろう」
「わかりません。それが巡り合わせというものだと思います。こうしてハレス卿のお宅にお世話になっているのも、陛下の御前で舞を披露したのも……」
私が来宮 巴という前世の記憶を持っていなかったら、今の私にはならなかった。
ローゼリア・アイスヴァインとして生まれて育って……巴の記憶を思い出さなかったら、母も父も死んでいなかった? それとも、それ以外の運命は変わらなかったのだろうか。
「あ、そうだ」
ふと、ハレス卿に会ったら聞こうと思っていたことを思い出した。
「ハレス卿にお訊きしたいことがあります」
「何だ?」
「サラヴァン商会のバート・レイノルズという方をご存知でしょうか? 商会の方のようなので、ご存じないかもしれませんが」
「誰だって?」
「バート・レイ「その名前をどこで耳にした?」」
ハレス卿の表情が強張り、問い詰めるような口調になった。
その様子から、卿がその人物を知っていて、そして何か訳ありの人物なのだろうか。
「どこで…耳にしたというより……」
その名を知ることに至った経緯を話した。
陛下から下賜された食べ物と一緒に入っていたメモの話を伝え、サラヴァン商会をウィリアムさんと共に訪れたことを話す。
「結局会えなかったということだな」
「はい。ハレス卿は、ご存知なのですね」
「直接その姿を見たことはない。名前を知っている……という程度だ」
何だか中途半端な言い方だった。どんな人物か詳しく知っている訳ではなさそうだ。
「会っても大丈夫そうな方なんですか?」
「もしそれが本当に陛下からなら、君に会わせてもいいと陛下が判断されたということだな。ならば、君には今必要な人物だろう」
「………? 私に必要な人物?」
「会えばわかる」
「でも、いつ会えるかわかりません」
いつ戻ってくるかわからないと対応に出た商会の人も言っていた。
「心配しなくても、近いうちに戻ってくる筈だ」
変に確信のある言い方だったが、それ以上詳しいことはハレス卿に訊くことはできなかった。アンジェリーナ様がやって来て、話を続けることができなかった。
そのまま、アンジェリーナ様と共にお茶に付き合わされ、ハレス卿と話をする時間がないまま、彼も午後早くまた王宮へと仕事に出掛けていった。
ハレス卿の言葉が予言だったのか、始めから確証があったのか、その数日後にサラヴァン商会からバート・レイノルズが近いうちに本部にやってくると連絡が来たと、ウィリアムさんのところに一報が入った。
サラヴァン商会からの伝言は、レイノルズが戻ったら、私たちが会いたいと言ってきたことを伝え、その上で会う日を設定してくれるというものだった。
そして、日程を記した手紙がウィリアムさんを介して子爵邸に届けられた。
「一応中を読んだ。商会まで来てほしいと書いてある」
日時は明日の昼。
「一人で来いというようなことも書いていないし、おれは無理だが親父ならついていけるが、どうする?」
「こういう時、一人で行くと言ったら許してくれないんですよね」
「普通の娘なら絶対一人で行かせない。でも、ローリィだって油断できない。腕が立つと言っても、無敵ではないからな」
ウィリアムさんの言いたいこともわかる。腕に自信があっても、過信は禁物だ。相手の懐に飛び込むなら、万全を期すに越したことはない。
ハレス卿はレイノルズさんが私に必要だと言っていた。
危険な人物ならそんなことは言わないはずだ。
そうは言ったが、用心に越したことはないと、師匠に同行してもらうことになった。
誉められているのか呆れられているのか。
ハレス卿の顔は、ひどくまじめなので、からかっているのではないとわかる。
「そういう君だから、殿下の目にも止まったのか。君のお父上がご存命で、今も領地にいたなら、どうなっていただろう」
「わかりません。それが巡り合わせというものだと思います。こうしてハレス卿のお宅にお世話になっているのも、陛下の御前で舞を披露したのも……」
私が来宮 巴という前世の記憶を持っていなかったら、今の私にはならなかった。
ローゼリア・アイスヴァインとして生まれて育って……巴の記憶を思い出さなかったら、母も父も死んでいなかった? それとも、それ以外の運命は変わらなかったのだろうか。
「あ、そうだ」
ふと、ハレス卿に会ったら聞こうと思っていたことを思い出した。
「ハレス卿にお訊きしたいことがあります」
「何だ?」
「サラヴァン商会のバート・レイノルズという方をご存知でしょうか? 商会の方のようなので、ご存じないかもしれませんが」
「誰だって?」
「バート・レイ「その名前をどこで耳にした?」」
ハレス卿の表情が強張り、問い詰めるような口調になった。
その様子から、卿がその人物を知っていて、そして何か訳ありの人物なのだろうか。
「どこで…耳にしたというより……」
その名を知ることに至った経緯を話した。
陛下から下賜された食べ物と一緒に入っていたメモの話を伝え、サラヴァン商会をウィリアムさんと共に訪れたことを話す。
「結局会えなかったということだな」
「はい。ハレス卿は、ご存知なのですね」
「直接その姿を見たことはない。名前を知っている……という程度だ」
何だか中途半端な言い方だった。どんな人物か詳しく知っている訳ではなさそうだ。
「会っても大丈夫そうな方なんですか?」
「もしそれが本当に陛下からなら、君に会わせてもいいと陛下が判断されたということだな。ならば、君には今必要な人物だろう」
「………? 私に必要な人物?」
「会えばわかる」
「でも、いつ会えるかわかりません」
いつ戻ってくるかわからないと対応に出た商会の人も言っていた。
「心配しなくても、近いうちに戻ってくる筈だ」
変に確信のある言い方だったが、それ以上詳しいことはハレス卿に訊くことはできなかった。アンジェリーナ様がやって来て、話を続けることができなかった。
そのまま、アンジェリーナ様と共にお茶に付き合わされ、ハレス卿と話をする時間がないまま、彼も午後早くまた王宮へと仕事に出掛けていった。
ハレス卿の言葉が予言だったのか、始めから確証があったのか、その数日後にサラヴァン商会からバート・レイノルズが近いうちに本部にやってくると連絡が来たと、ウィリアムさんのところに一報が入った。
サラヴァン商会からの伝言は、レイノルズが戻ったら、私たちが会いたいと言ってきたことを伝え、その上で会う日を設定してくれるというものだった。
そして、日程を記した手紙がウィリアムさんを介して子爵邸に届けられた。
「一応中を読んだ。商会まで来てほしいと書いてある」
日時は明日の昼。
「一人で来いというようなことも書いていないし、おれは無理だが親父ならついていけるが、どうする?」
「こういう時、一人で行くと言ったら許してくれないんですよね」
「普通の娘なら絶対一人で行かせない。でも、ローリィだって油断できない。腕が立つと言っても、無敵ではないからな」
ウィリアムさんの言いたいこともわかる。腕に自信があっても、過信は禁物だ。相手の懐に飛び込むなら、万全を期すに越したことはない。
ハレス卿はレイノルズさんが私に必要だと言っていた。
危険な人物ならそんなことは言わないはずだ。
そうは言ったが、用心に越したことはないと、師匠に同行してもらうことになった。
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