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243 空振り?
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バート・レイノルズ。その名を告げると受付の女性の顔が少し強張った。
「少し……お待ち下さい」
席を立ちどこかに立ち去る。
「もしかして、ものすごいお偉い人……なんでしょうか?」
「少なくとも、名前に心当たりがあるようだ」
アポ無しで来たので、本人がいないということもある。
「それにしては、様子が変だったな」
暫くすると彼女が戻ってきた。
「ご案内します。こちらへ」
彼女に案内されて二階へ向かい、部屋に案内される。
豪奢な応接室に通され、こちらでお待ち下さいと言って彼女は私たちを置いて出ていった。
「お待たせしました」
彼女と入れ替わりに入ってきた男性は肩まで伸ばした赤茶色の髪に顎髭を蓄えた、ウィリアムさんくらいの年齢だった。
「もう一度、お名前をお訊きしてもよろしいでしょうか」
「ウィリアム・ドルグランです。彼女はローリィ・ハインツ」
年長であるウィリアムさんが代表して答えた。
「彼女……失礼、女性の方でしたか」
彼が驚きばつの悪そうな顔をする。
「構いません。よくあることですし、紛らわしい格好をしているのはこちらですので。ところで、あなたが……バート・レイノルズさんですか?」
「いいえ、私はギル・グレンと言って、ここの副会頭をしております。レイノルズ氏に御用とか。どのような用件でしょうか」
「いえ……特に用はないのです……レイノルズさんはこちらの従業員の方ですか?」
「………用があるわけではないとは……彼は今所用で王都にはおりません」
「そうですか。それは失礼いたしました」
「お二人が来られたことは伝えておきます。ご連絡先を伺えましたら、本人から連絡させますが……」
「いえ、そこまでは……ご本人はいつ頃王都に戻られますか?」
「マイン国との取引が彼の専門ですので、基本、あちらへ行っていることが多いのです。こちらへは不定期にしか戻ってきません。戻る前には一報がありますが、近いうちに戻る予定はありません」
いつ戻るかもわからない。こちらもどうしても会いたいかと言われれば、どんな人物かもわからないので、無理に連絡をつけてもらうこともできない。
マイン国との取引を専門にしていると言われて、ますますなぜ彼に会えと言われたのかわからない。
「どうする?こちらは名を名乗った。伝言だけ残して出直すか?」
件の人物に会えないなら仕方ない。
「なぜレイノルズに面会を?私を彼と間違えられたのは、彼の顔をご存知ないということですよね」
「ある方に、ここの商会の名前とレイノルズ氏の名前を教えてもらいましたが、それが何故なのか、会えば何か分かるかと思って来たまでです」
「ある方……とは?」
陛下の差し入れに入っていたが、それが陛下からの伝言なのかもわからない。もしかしたら誰かが間違って入れたのかも知れない。
「王宮にお勤めの方です…あ、でも頂いた籠に紙が入っていただけですので、間違いかもしれません。お騒がせしました」
会えばわかるかと思ってきたが、宛が外れた。
そこへ、コンコンと扉を叩く音がして、先ほどの女性がお茶を運んできた。
「なるほど……」
お茶を置いて彼女が部屋を出ると、彼は私たちを見て何やら頷いた。
「何か?」
「いえ……どうやらそちらの仰っていることは本当のようです」
「と言いますと?」
「そちらの……ハインツさんとレイノルズ氏を引き合わせたいと考えた方が、その指示を出した。間違って紛れたわけではないと言うことです。こちらにもレイノルズ氏を訪ねて客が来ることは知らされておりましたから」
「そうなんですね」
「ですが、お話したとおり、彼は今王都におりません。せっかくお越しいただきましたが、そういうことですので、また日を改めていただけますか?」
「それは構いませんが……」
「連絡はどちらに?」
「では、第三近衛騎士団の詰所本部にお願いいたします。私の職場ですから」
「騎士団の……そうですか。承知いたしました」
それで話は終わり。私たちは商会を後にした。
「レイノルズ氏に会えと言う伝言はやっぱりローリィ宛で合っていた。レイノルズ氏からの連絡を待つしかない」
「そうですね。一応、子爵にも今日の件は伝えておきます」
都合良くアポ無しで出向いて会えて、一件落着とはいかなかった。何となくスッキリしなかったが、ウィリアムさんの言うとおり待つしかないと、ウィリアムさんにハレス邸に送ってもらった。
アンジェリーナ様とお茶をして子爵の帰りを待ったが、その日子爵は夜中過ぎまで帰ってこなかった。
「少し……お待ち下さい」
席を立ちどこかに立ち去る。
「もしかして、ものすごいお偉い人……なんでしょうか?」
「少なくとも、名前に心当たりがあるようだ」
アポ無しで来たので、本人がいないということもある。
「それにしては、様子が変だったな」
暫くすると彼女が戻ってきた。
「ご案内します。こちらへ」
彼女に案内されて二階へ向かい、部屋に案内される。
豪奢な応接室に通され、こちらでお待ち下さいと言って彼女は私たちを置いて出ていった。
「お待たせしました」
彼女と入れ替わりに入ってきた男性は肩まで伸ばした赤茶色の髪に顎髭を蓄えた、ウィリアムさんくらいの年齢だった。
「もう一度、お名前をお訊きしてもよろしいでしょうか」
「ウィリアム・ドルグランです。彼女はローリィ・ハインツ」
年長であるウィリアムさんが代表して答えた。
「彼女……失礼、女性の方でしたか」
彼が驚きばつの悪そうな顔をする。
「構いません。よくあることですし、紛らわしい格好をしているのはこちらですので。ところで、あなたが……バート・レイノルズさんですか?」
「いいえ、私はギル・グレンと言って、ここの副会頭をしております。レイノルズ氏に御用とか。どのような用件でしょうか」
「いえ……特に用はないのです……レイノルズさんはこちらの従業員の方ですか?」
「………用があるわけではないとは……彼は今所用で王都にはおりません」
「そうですか。それは失礼いたしました」
「お二人が来られたことは伝えておきます。ご連絡先を伺えましたら、本人から連絡させますが……」
「いえ、そこまでは……ご本人はいつ頃王都に戻られますか?」
「マイン国との取引が彼の専門ですので、基本、あちらへ行っていることが多いのです。こちらへは不定期にしか戻ってきません。戻る前には一報がありますが、近いうちに戻る予定はありません」
いつ戻るかもわからない。こちらもどうしても会いたいかと言われれば、どんな人物かもわからないので、無理に連絡をつけてもらうこともできない。
マイン国との取引を専門にしていると言われて、ますますなぜ彼に会えと言われたのかわからない。
「どうする?こちらは名を名乗った。伝言だけ残して出直すか?」
件の人物に会えないなら仕方ない。
「なぜレイノルズに面会を?私を彼と間違えられたのは、彼の顔をご存知ないということですよね」
「ある方に、ここの商会の名前とレイノルズ氏の名前を教えてもらいましたが、それが何故なのか、会えば何か分かるかと思って来たまでです」
「ある方……とは?」
陛下の差し入れに入っていたが、それが陛下からの伝言なのかもわからない。もしかしたら誰かが間違って入れたのかも知れない。
「王宮にお勤めの方です…あ、でも頂いた籠に紙が入っていただけですので、間違いかもしれません。お騒がせしました」
会えばわかるかと思ってきたが、宛が外れた。
そこへ、コンコンと扉を叩く音がして、先ほどの女性がお茶を運んできた。
「なるほど……」
お茶を置いて彼女が部屋を出ると、彼は私たちを見て何やら頷いた。
「何か?」
「いえ……どうやらそちらの仰っていることは本当のようです」
「と言いますと?」
「そちらの……ハインツさんとレイノルズ氏を引き合わせたいと考えた方が、その指示を出した。間違って紛れたわけではないと言うことです。こちらにもレイノルズ氏を訪ねて客が来ることは知らされておりましたから」
「そうなんですね」
「ですが、お話したとおり、彼は今王都におりません。せっかくお越しいただきましたが、そういうことですので、また日を改めていただけますか?」
「それは構いませんが……」
「連絡はどちらに?」
「では、第三近衛騎士団の詰所本部にお願いいたします。私の職場ですから」
「騎士団の……そうですか。承知いたしました」
それで話は終わり。私たちは商会を後にした。
「レイノルズ氏に会えと言う伝言はやっぱりローリィ宛で合っていた。レイノルズ氏からの連絡を待つしかない」
「そうですね。一応、子爵にも今日の件は伝えておきます」
都合良くアポ無しで出向いて会えて、一件落着とはいかなかった。何となくスッキリしなかったが、ウィリアムさんの言うとおり待つしかないと、ウィリアムさんにハレス邸に送ってもらった。
アンジェリーナ様とお茶をして子爵の帰りを待ったが、その日子爵は夜中過ぎまで帰ってこなかった。
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