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240 結果は結果
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審査が終わり、私たちは再び陛下やカーマリング侯爵たちのいる部屋にお母さんたちと共に戻った。
カーマリング侯爵は私には全く気付いていない。陛下のことが気にかかるのか、さっきは気がつかなかったが、この前見た時よりも顔色も悪くやつれて見える。具合でも悪いのだろうか。
部屋に入る前からレリアナさんはびくびくしている。先ほどここに来る直前に聞いた話が気になっているのは間違いない。
「今回、審査方法について変更があったことにより、混乱を招いたことはこちらの不手際の致すところ。そのため皆には十二分に実力を発揮出来なかった者もいたことを考慮する必要があった」
最初に審査方法について説明した男性が前に進み出て話し出した。
「しかしながら、予測できない事態は常に起こり得るものである。審査の方法がどうであれ、陛下が同席されたと言え、才能と努力があれば乗り越えられるもの。ここに呼ばれたことは既に実力も実績も十二分にあると判断されている。初見の舞であれ、普段から己の技量を磨いているのであれば、たとえ間違ったからと言って途中で我を忘れることはないはずだ」
つまり、踊り子として舞屋の看板を背負うなら、失敗しても気付かせないくらいの気概がなければだめだと言っているのだ。
「合格者五人の名を呼ぶ。呼ばれた者は舞屋の主と共に一歩前へ来なさい」
私は名前を呼ばれなかった。
ついでを言えばラトゥーヤも。
名前を呼ばれた中にはミリアムもいたが、最初に失敗しても最後まで諦めず持ち直した風の精霊を踊った子……アグネスは呼ばれた。他に失敗しなかったひと組目の火の精霊のボニー、水の精霊のサーシャ、二組目の風の精霊ジェマが選ばれた。
「納得できません!どうして私が……」
ラトゥーヤが憤るのも当然だ。彼女は失敗しなかった。
「陛下の御前である。慎みなさい!」
「……ぐ」
「何故選ばれなかったか……確かにそなたは完璧だった」
陛下が机を指でコツコツと叩きながら話し出した。
「しかしそれはそなたが前回踊った精霊だからだ。完璧は当たり前。それは誇れることか?同じ誇るなら、せめて他の四大精霊を選ぶべきだった。他者より圧倒的有利な立場であることに胡座をかき、努力をしなかった。それは明らかにそなたの失敗だ。それに、そなたは既に経験者だ。他の者にも機会は与えられるべきだ。いつも同じ者が選ばれるのではつまらないだろう?」
「………」
陛下の言葉にラトゥーヤは反論出来なかった。選ばれて当然。その驕りが彼女の失敗だった。
「加えてそなたの舞屋の主…そなたの口出しで審査方法が変わったそうだな。そこまでして他を陥れ自分の子である踊り子を勝たせたかったか?祝賀の舞は神聖な国の一年の安泰を願う舞だ。そのような邪な心根の者が関わることは断じて許さん」
「そ、そんな……」
陛下の一喝にレリアナさんの顔色は青を通り越して真っ白になり、今にも倒れそうだ。ちらりと彼女は陛下の隣に座るカーマリング侯爵を見るが、彼はすっと視線を反らした。
「舞屋の取り潰しは今回は大目にみる。だが、今後そなたの所の踊り子が王宮で舞を披露することはないだろう」
そして陛下は全員を見渡し、最後に私に目を止める。
「そなたは何か言いたいことはないのか?あるなら聞くぞ」
「いえ……異論はございません」
私が選ばれなかった理由は何となく分かっていた。けれどそれをここで口にすることはできない。
「そうか……では予定よりかなり時間が掛かったが、これで祝賀の舞の舞手が決定した。皆のものご苦労であった」
カーマリング侯爵は私には全く気付いていない。陛下のことが気にかかるのか、さっきは気がつかなかったが、この前見た時よりも顔色も悪くやつれて見える。具合でも悪いのだろうか。
部屋に入る前からレリアナさんはびくびくしている。先ほどここに来る直前に聞いた話が気になっているのは間違いない。
「今回、審査方法について変更があったことにより、混乱を招いたことはこちらの不手際の致すところ。そのため皆には十二分に実力を発揮出来なかった者もいたことを考慮する必要があった」
最初に審査方法について説明した男性が前に進み出て話し出した。
「しかしながら、予測できない事態は常に起こり得るものである。審査の方法がどうであれ、陛下が同席されたと言え、才能と努力があれば乗り越えられるもの。ここに呼ばれたことは既に実力も実績も十二分にあると判断されている。初見の舞であれ、普段から己の技量を磨いているのであれば、たとえ間違ったからと言って途中で我を忘れることはないはずだ」
つまり、踊り子として舞屋の看板を背負うなら、失敗しても気付かせないくらいの気概がなければだめだと言っているのだ。
「合格者五人の名を呼ぶ。呼ばれた者は舞屋の主と共に一歩前へ来なさい」
私は名前を呼ばれなかった。
ついでを言えばラトゥーヤも。
名前を呼ばれた中にはミリアムもいたが、最初に失敗しても最後まで諦めず持ち直した風の精霊を踊った子……アグネスは呼ばれた。他に失敗しなかったひと組目の火の精霊のボニー、水の精霊のサーシャ、二組目の風の精霊ジェマが選ばれた。
「納得できません!どうして私が……」
ラトゥーヤが憤るのも当然だ。彼女は失敗しなかった。
「陛下の御前である。慎みなさい!」
「……ぐ」
「何故選ばれなかったか……確かにそなたは完璧だった」
陛下が机を指でコツコツと叩きながら話し出した。
「しかしそれはそなたが前回踊った精霊だからだ。完璧は当たり前。それは誇れることか?同じ誇るなら、せめて他の四大精霊を選ぶべきだった。他者より圧倒的有利な立場であることに胡座をかき、努力をしなかった。それは明らかにそなたの失敗だ。それに、そなたは既に経験者だ。他の者にも機会は与えられるべきだ。いつも同じ者が選ばれるのではつまらないだろう?」
「………」
陛下の言葉にラトゥーヤは反論出来なかった。選ばれて当然。その驕りが彼女の失敗だった。
「加えてそなたの舞屋の主…そなたの口出しで審査方法が変わったそうだな。そこまでして他を陥れ自分の子である踊り子を勝たせたかったか?祝賀の舞は神聖な国の一年の安泰を願う舞だ。そのような邪な心根の者が関わることは断じて許さん」
「そ、そんな……」
陛下の一喝にレリアナさんの顔色は青を通り越して真っ白になり、今にも倒れそうだ。ちらりと彼女は陛下の隣に座るカーマリング侯爵を見るが、彼はすっと視線を反らした。
「舞屋の取り潰しは今回は大目にみる。だが、今後そなたの所の踊り子が王宮で舞を披露することはないだろう」
そして陛下は全員を見渡し、最後に私に目を止める。
「そなたは何か言いたいことはないのか?あるなら聞くぞ」
「いえ……異論はございません」
私が選ばれなかった理由は何となく分かっていた。けれどそれをここで口にすることはできない。
「そうか……では予定よりかなり時間が掛かったが、これで祝賀の舞の舞手が決定した。皆のものご苦労であった」
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