転生して要人警護やってます

七夜かなた

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もう一度おさらい。と思っているとバタバタと数人の足音が近づいてきて、身構えた。

「あ、お待ち下さい、カギが……」
「まったく、なぜカギなど!」

慌てて扉を開けようとした人が扉にカギが掛かっていてすぐ開けることが出来ず、文句を言っている。

「そうは言いましても……そうしろとおっしゃったのは……」
「なに!」
「いえ、何でも……」

扉の前で内輪揉め(?)みたいな言い合いをしながら彼らは扉を開けた。

入ってきたのはさっきの上司の方と初めて見る男性だった。

「お前、どういうことだ?」

初めて見る男性はかなり上等な服を着ている。それなりの地位にいる人だとわかる。

「何のことでしょう?」

いきなりどういうことだと訊かれても答えようがない。

「まあいい……とにかくついて来い」

「もう選考が始まるのですか?」

意外に早く呼びに来られたので訊ねると、それが気に入らなかったのか、不機嫌な一言だけが返ってきた。

「そうだ」

二人の後について元の部屋へ向かうと、途中から物々しい雰囲気が漂っていた。

腰に剣を下げた騎士が通路に立ち並びだす。

「お待たせいたしました」

上役の人が先ほど審査に訪れた部屋の前に立ち声を掛けると、中から扉が開かれた。

「頭を下げて中に入れ、言われるまで顔を上げずひと言も喋るな」

頭をぐっと押さえられてそう命令された。

「遅かったな。待ちくたびれたぞ」

「申し訳ございませんでした」

うつむいたまま中へ進むと、後ろで扉が閉まった。

「陛下、これで全員揃いました」

最近聞いたことがある声だと思った。それもごく最近。一瞬考えてカーマリング侯爵だと思い至った。

それより、彼は何て言った?陛下?陛下と言えば……

(ええ……こ、国王陛下……)

競い舞でちらりと見たこの国の最高権力者……というよりは、キルヒライル様のお兄様。思わず顔を上げそうになって、さっき言われたことを思いだし、思い止まった。

「顔を上げなさい」

こんな時、直接陛下が声をかけることはないと聞いている。喋ったのはカーマリング侯爵だった。

言われるままに顔を上げると、正面に国王陛下がいた。

銀髪に琥珀色の瞳。似ているようで似ていない。それでもキルヒライル様を彷彿とさせる容貌。

「そなたらはこちらへ、踊り子はあちらへ」

他の踊り子たちが寄り添っている場所へと行く。

「これより審査を始める。光栄にも国王陛下の僥倖を頂くことになった」

「よいか?」

陛下が手を上げて口を挟む。直接陛下の声を聞くことは滅多にない者にとってはそれだけでビックリだ。

「大事な祝賀の舞の踊り子を決めていると聴いて、是非立ち会わせてもらいたいと思ってな。私がいることで変に緊張するかも知れないが、本番も同じ、いや、それ以上に緊張するものだ。慣れておいた方がいい」

確かにそうだ。これに受かれば実際に本番での披露をすることになる。陛下一人におどおどしていては仕事にならない。

「それでは早速審査を始める。初めの五人は前へ」

「は、はひ」「はい……」「……はい」

残念なことに一人は声が裏返っていた。それだけでもうパニックになっている。もう一人も声は裏返らなかったが、何もないところで躓いて転びかけた。他の者も消え入りそうな声で返事をして震えている。

私は皆が揃った後に空いた所に立たなければならない。

四人が位置を取り、空いた場所は中央、光の精霊の位置だった。
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