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236 与えられた機会
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わたしに与えられた機会は一度だけ。
目の前にいる踊り子を息をするのも忘れるくら見つめる。
ゆっくりとした曲が流れる中、五人は同じ振り付けを同時に踊るときもあれば、少しずつタイミングをずらして踊るときもある。
また、それぞれが異なる精霊に扮しているため、ソロパートもあった。一人がソロを踊っている間は他の四人はバックダンサーのように後ろに回って踊る。
アクロバティックな所はないが、この中の誰を踊るかわからないため、全員の振り付けを目に焼き付ける。
「そこまで」
役人が踊りの途中で声をかけると踊り子が踊りを止めて後ろに下がった。
「今のが祝賀の舞の前半部分となる。正式に選ばれれば最後まで踊ってもらうが、今日は選考が目的なのでここまでとする。それでは今から指導に移る。二人は別室に案内するのでこちらに来るように」
私とラトゥーヤは手招きされるまま、扉近くまで移動する。
「半分で終わって良かったわね」
案内されている途中でラトゥーヤが声をかけてくる。
「あんなほら話、さっさと謝ればいいのに。もう後には引けないわよ。何しろ正式に審査は始まってしまったもの」
「ご心配ありがとう」
最後まで嫌みを言い、ラトゥーヤが先に用意された部屋に入っていき、どんどん人気のない廊下を進んで私が案内されたのは高い場所に小さな窓がひとつあるだけのじめっとした部屋だった。
半地下のようなその場所は王宮の敷地内にあるとはとても思えない粗末な部屋だった。
「時間が来たら呼びに来ますのでそれまではこの部屋からは出られませんように。後程お茶をお持ちします」
「わかりました」
出ていきがてら鍵を締める音がする。どうやら勝手に外へ出ることも出来ないらしい。
足音が遠ざかる。鍵をかけてそれでいいと思ったのか、外に人がいる気配はしない。
一人になって改めて室内を見渡した。
中には小さな机と椅子があるだけで、その椅子もあまり座り心地が言いとは言えないものだった。
座るのは諦めて目を閉じてさっき見た踊りの振り付けを思い出して、練習することにした。
ひとつ目、二つ目、三つ目と記憶を頼りに踊っていく。
一度にいくつもの形を覚えて実践するのは初めてで、どこまで出来るか不安だった。
四つ目、五つ目になるとさすがに私も自信がなくなり、少し踊ってはしばらく瞑想し、また始めるということを繰り返した。
「もう一度……やってみるか」
ひととおりやって二度目に挑戦しようとした時、人の近づいてくる気配がして動きを止めた。
鍵が開いて入ってきたのは先ほどとは違い、女性だった。
紺地のワンピースに白のエプロンを着て、頭にはメイドキャップを被っている。
彼女はティーセットを乗せたワゴンを押してきた。
「こちらに置いておきますので、お好きな時にお飲みください」
「ありがとうございます」
部屋の入り口にワゴンを置き、それだけ言うと彼女はさっさと部屋を出ていった。
ガチャリとまた鍵がかかる。お茶は出してくれるけど、部屋からは出るなと言うのは変わらないらしい。
目の前にいる踊り子を息をするのも忘れるくら見つめる。
ゆっくりとした曲が流れる中、五人は同じ振り付けを同時に踊るときもあれば、少しずつタイミングをずらして踊るときもある。
また、それぞれが異なる精霊に扮しているため、ソロパートもあった。一人がソロを踊っている間は他の四人はバックダンサーのように後ろに回って踊る。
アクロバティックな所はないが、この中の誰を踊るかわからないため、全員の振り付けを目に焼き付ける。
「そこまで」
役人が踊りの途中で声をかけると踊り子が踊りを止めて後ろに下がった。
「今のが祝賀の舞の前半部分となる。正式に選ばれれば最後まで踊ってもらうが、今日は選考が目的なのでここまでとする。それでは今から指導に移る。二人は別室に案内するのでこちらに来るように」
私とラトゥーヤは手招きされるまま、扉近くまで移動する。
「半分で終わって良かったわね」
案内されている途中でラトゥーヤが声をかけてくる。
「あんなほら話、さっさと謝ればいいのに。もう後には引けないわよ。何しろ正式に審査は始まってしまったもの」
「ご心配ありがとう」
最後まで嫌みを言い、ラトゥーヤが先に用意された部屋に入っていき、どんどん人気のない廊下を進んで私が案内されたのは高い場所に小さな窓がひとつあるだけのじめっとした部屋だった。
半地下のようなその場所は王宮の敷地内にあるとはとても思えない粗末な部屋だった。
「時間が来たら呼びに来ますのでそれまではこの部屋からは出られませんように。後程お茶をお持ちします」
「わかりました」
出ていきがてら鍵を締める音がする。どうやら勝手に外へ出ることも出来ないらしい。
足音が遠ざかる。鍵をかけてそれでいいと思ったのか、外に人がいる気配はしない。
一人になって改めて室内を見渡した。
中には小さな机と椅子があるだけで、その椅子もあまり座り心地が言いとは言えないものだった。
座るのは諦めて目を閉じてさっき見た踊りの振り付けを思い出して、練習することにした。
ひとつ目、二つ目、三つ目と記憶を頼りに踊っていく。
一度にいくつもの形を覚えて実践するのは初めてで、どこまで出来るか不安だった。
四つ目、五つ目になるとさすがに私も自信がなくなり、少し踊ってはしばらく瞑想し、また始めるということを繰り返した。
「もう一度……やってみるか」
ひととおりやって二度目に挑戦しようとした時、人の近づいてくる気配がして動きを止めた。
鍵が開いて入ってきたのは先ほどとは違い、女性だった。
紺地のワンピースに白のエプロンを着て、頭にはメイドキャップを被っている。
彼女はティーセットを乗せたワゴンを押してきた。
「こちらに置いておきますので、お好きな時にお飲みください」
「ありがとうございます」
部屋の入り口にワゴンを置き、それだけ言うと彼女はさっさと部屋を出ていった。
ガチャリとまた鍵がかかる。お茶は出してくれるけど、部屋からは出るなと言うのは変わらないらしい。
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