上 下
233 / 266

231 女の闘い?

しおりを挟む
「準備が整い次第始める。順に呼びに来るのでもう暫くここで待つように」

部下の方の役人がそう告げ、二人は部屋を出ていく。

出ていく際に誰かと視線を交わして頷いたので、その視線を追うと、ラトゥーヤと彼女の舞屋の主らしき女性に向いていた。



「初めて見る顔ね。名前は?」

ラトゥーヤから私に近づいてきた。

「よろしく、私はクレア……"月下の花"です」

彼女は私の挨拶を無視して私の頭から足元までをじろじろ見てくる。

「何か?」

「別に……月下の……もしかしてこの前の宴で王室の推奨をもらったときの踊り子?」

「そうですが……」

「へえ……あなただったんだ……衣装が破れても最後まで踊り抜いたって……なるほどねぇ」
「何が言いたいんですか」
「私のこと……知っている?」
「えっと……ラトゥーヤさんって皆さんが……」
「それで?」
「………それで、とは?」
「まさか、あなた私のこと知らないの?」

意外に大きな声を出したので、回りにいた皆に注目された。

「う……すいません。有名な方なんですよね……きっと」

そのことを謝ると、まわりから失笑が聞こえた。

「ラトゥーヤったら、皆が自分に一目置いてるって勘違いしていない?」
「ちょっと踊りがうまいからっていつも偉そう。いい気味ね」
「でもラトゥーヤを知らないなんて、もぐりもいいところね」
「ちょっと!聞こえてるわよ」

聞こえるように言っているのがわかり、ラトゥーヤさんが振り返って怒鳴った。

「毎年私が選ばれるからってやっかんでるんじゃないわよ!」

彼女の一喝にこそこそ話していた声が止む。
皆が口をつぐんだのを確認してから彼女がこちらに向き直った。

「私はね、ここ二、三年毎年選ばれているの。本当なら審査なんて必要ないんだけど、一応建前上は審査を受けたことにしないといけないからこうやって来てるの、おわかり?」

どや顔で私に説明をしてくる。彼女の話だと、すでに踊り子の一人は彼女に決まっているということなのか。その話が本当かどうか確認するすべもないので、私はただ「そうですか」というしかなかった。

「まあ、あなたもせいぜい頑張りなさい。もし選ばれたら私の引き立て役くらいならなれるんじゃないかしら」

彼女なりの嫌味なんだろう。ミリアムにも引き立て役を切望されていることは黙っておこう。

「励ましありがとう。もし選ばれたら仲良くしてくださいね」

年は二十歳を過ぎた頃だろうか?まわりにいないタイプだが、アラサーの余裕で嫌味も受け流した。

「ば、バカじゃないの!あなたなんか選ばれるわけないじゃない!私を知らないなんて、本当にあなた踊り子?」

私に嫌味が通じないとわかって、ラトゥーヤが更に詰め寄ってきた。

「ラトゥーヤ、いい加減にしなさい!そんな田舎者相手にする必要ないわ」

そこへ彼女のお母さんである女性が割って入ってきた。

「ちょっと、レリアナ、うちの踊り子を田舎者呼ばわり……」

黙って聞いていたティータさんも参戦する。

「うちのラトゥーヤを知らないなんて田舎者でしょ?うちは王都で一番大きな舞屋でラトゥーヤは一番の稼ぎ頭だよ。あんたのところやメレディスのところと格が違うんだから」
「ちょっと、それどういうことよ。確かに大きさでは負けるけど、うちだって!」

先ほどのメレディスさんも加わり、三人が三つ巴よろしくにらみ合い互いに言いたい放題罵りだした。
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない

たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。 何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

処理中です...