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229 世間の噂
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キルヒライル様が帰還した際の宴で行われた競い舞で、衣装が破れた(破られた)のは事実だ。
そして、着替える間もなくそのまま踊り、結果私たちが勝利した。
王様が勝敗の判定をキルヒライル様に委ねられたが、それが色目を使ったと噂されていたことは知らなかった。
「ティータさん……今の……」
「あの……その………えっと」
今の言葉が本当なのかティータさんに確かめようとそちらを見たが、彼女の反応が今聞いたことが真実だと物語っている。
周囲を見渡せばこちらを窺い見る他の人達もミリアムと似通った表情をしている。
「でも、本当はそうじゃないって私たちは知っているわ。最初に約束された褒美以上のものはなかったし、何も特別待遇なんてなかったわ。第一、それが本当ならあの場にいた他の方たちから異論が上がったでしょう。なかったということは王弟殿下の評価に間違いはなかったということだわ」
「そんなの、王様の弟…しかも英雄と称えられる方の判定に文句言えなかっただけじゃない」
ティータさんの反論にミリアムが言い返す。
「ミリアム……言い過ぎよ」
「お母さんだって、こんなポッと出の踊り子がいきなり王宮の宴で「英雄の舞」を躍って勝つなんておかしいって言ってたじゃない。後ろ暗いところがあるから王都からいなくなったって」
もともとミリイの代役だけのつもりだったし、あの後すぐにキルヒライル様の護衛に雇われたため、舞屋を出たことがそんな風に噂されていたとは思わなかった。
王室の推奨を貰ったことへのやっかみとは思うが、確かにあの宴意外に実績のない私がここにいることに対して少なからず思うところがあるのだろうとは理解できる。
しかし、私に対するやっかみとは言え、彼女が言ったことに対し許せないことがあった。
「ロー……クレア……単なる噂よ。あの後うちを出たのも他に理由があったからだし……」
「私たちは踊ることでお金をもらってるけど、決して安売りはしない。誇りを持って踊ってるの、なのに……」
「私も真剣に踊ったわ!」
ミリアムの言葉を遮って私は叫んだ。
あまりの声の大きさに彼女が驚いて、一瞬びくっとする。
「真剣に踊っていなかったと、どうして言いきれるの。それに今の言い方はキルヒ……王弟殿下に失礼よ!あなたの言い分が正しいなら、殿下は肌が見えたとか色目を使ったとかで簡単に流される人だって言ってることになるのよ。それをわかって言っているの?あなたの言い方は殿下を貶めているのよ」
ミリアムが言ったことは、私を……踊りを評価してくれたキルヒライル様が、下心で評価したと言っているのだ。
いくら私の踊りが信用できなくても、言って良いことと悪いことがある。
「このことが知れたら侮辱罪を問われても文句言えないのよ、そのことをわかって言っているの。ましてやここは王宮の敷地内、状況をわかってる?」
これは脅しだったが、王族に対してその言動を疑ったりすることはそう取られても仕方ない。
「そ、それは……」
私の言葉にメレディスさんも青くなる。
「ミリアム!もうやめなさい!彼女の言うとおりよ。ティータもあなたも今のはなかったことに、ね?」
侮辱罪を問われると聞いてミリアムもそれ以上は何も言わなかったが、明らかに納得していないのは顔を見ればわかる。
「なかったことって……虫がよすぎない?メレディス。ロー……クレアのことを知りもしないで……」
ティータさんは私が侮辱されたことが気に入らないようで、メレディスさんに詰めよる。
「ティータさん、私は気にしていません。確かにこの前の踊り以外に実績がない私がここにいるのを快く思わない気持ちはわかります。でも……」
ティータさんを止め、彼女からミリアムに向き直る。
「言い訳になりますが、今回のこともこちらは何も細工していません。あなただって、頼んでここに来られるほど簡単ではないことはわかるでしょ?それに、来るように言われて断ることも容易ではないとわかっていますよね」
言いがかりだとわかっているのか、私の正論に彼女も何も言い返してこない。
「何を騒いでいるんですか?」
その時、入り口から人が入ってきた。
そして、着替える間もなくそのまま踊り、結果私たちが勝利した。
王様が勝敗の判定をキルヒライル様に委ねられたが、それが色目を使ったと噂されていたことは知らなかった。
「ティータさん……今の……」
「あの……その………えっと」
今の言葉が本当なのかティータさんに確かめようとそちらを見たが、彼女の反応が今聞いたことが真実だと物語っている。
周囲を見渡せばこちらを窺い見る他の人達もミリアムと似通った表情をしている。
「でも、本当はそうじゃないって私たちは知っているわ。最初に約束された褒美以上のものはなかったし、何も特別待遇なんてなかったわ。第一、それが本当ならあの場にいた他の方たちから異論が上がったでしょう。なかったということは王弟殿下の評価に間違いはなかったということだわ」
「そんなの、王様の弟…しかも英雄と称えられる方の判定に文句言えなかっただけじゃない」
ティータさんの反論にミリアムが言い返す。
「ミリアム……言い過ぎよ」
「お母さんだって、こんなポッと出の踊り子がいきなり王宮の宴で「英雄の舞」を躍って勝つなんておかしいって言ってたじゃない。後ろ暗いところがあるから王都からいなくなったって」
もともとミリイの代役だけのつもりだったし、あの後すぐにキルヒライル様の護衛に雇われたため、舞屋を出たことがそんな風に噂されていたとは思わなかった。
王室の推奨を貰ったことへのやっかみとは思うが、確かにあの宴意外に実績のない私がここにいることに対して少なからず思うところがあるのだろうとは理解できる。
しかし、私に対するやっかみとは言え、彼女が言ったことに対し許せないことがあった。
「ロー……クレア……単なる噂よ。あの後うちを出たのも他に理由があったからだし……」
「私たちは踊ることでお金をもらってるけど、決して安売りはしない。誇りを持って踊ってるの、なのに……」
「私も真剣に踊ったわ!」
ミリアムの言葉を遮って私は叫んだ。
あまりの声の大きさに彼女が驚いて、一瞬びくっとする。
「真剣に踊っていなかったと、どうして言いきれるの。それに今の言い方はキルヒ……王弟殿下に失礼よ!あなたの言い分が正しいなら、殿下は肌が見えたとか色目を使ったとかで簡単に流される人だって言ってることになるのよ。それをわかって言っているの?あなたの言い方は殿下を貶めているのよ」
ミリアムが言ったことは、私を……踊りを評価してくれたキルヒライル様が、下心で評価したと言っているのだ。
いくら私の踊りが信用できなくても、言って良いことと悪いことがある。
「このことが知れたら侮辱罪を問われても文句言えないのよ、そのことをわかって言っているの。ましてやここは王宮の敷地内、状況をわかってる?」
これは脅しだったが、王族に対してその言動を疑ったりすることはそう取られても仕方ない。
「そ、それは……」
私の言葉にメレディスさんも青くなる。
「ミリアム!もうやめなさい!彼女の言うとおりよ。ティータもあなたも今のはなかったことに、ね?」
侮辱罪を問われると聞いてミリアムもそれ以上は何も言わなかったが、明らかに納得していないのは顔を見ればわかる。
「なかったことって……虫がよすぎない?メレディス。ロー……クレアのことを知りもしないで……」
ティータさんは私が侮辱されたことが気に入らないようで、メレディスさんに詰めよる。
「ティータさん、私は気にしていません。確かにこの前の踊り以外に実績がない私がここにいるのを快く思わない気持ちはわかります。でも……」
ティータさんを止め、彼女からミリアムに向き直る。
「言い訳になりますが、今回のこともこちらは何も細工していません。あなただって、頼んでここに来られるほど簡単ではないことはわかるでしょ?それに、来るように言われて断ることも容易ではないとわかっていますよね」
言いがかりだとわかっているのか、私の正論に彼女も何も言い返してこない。
「何を騒いでいるんですか?」
その時、入り口から人が入ってきた。
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