転生して要人警護やってます

七夜かなた

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226 候補者になるということ

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熱く語るティータさんとは対称的に私の反応がいまいちなのでジルベルトさんがこれはどこの田舎者だという目で見つめてくる。

「いかにも……候補者を集めて最終決定を明後日王宮の式部で行う予定です。ともかく期日までに見つかってよかった。明日にでもこちらの舞屋に再登録をして明後日の正午に王宮へ二人で来ていただきたい」

彼の口調はこちらが断ることは全く想定していない。

「待ってください……まだ引き受けるとは」
「まさか、断るのですか?」

ジルベルトさんが何て礼儀知らずだと言うように私を睨む。

「踊り子としてこんな名誉はない。最終選考で落とされるならまだしも、断るなど過去一度もないことだ。こちらの舞屋は先日の宴で王室の推奨を得たばかり。断ることは王室侮辱罪と取られても文句は言えませんよ」
「え、そんな……」

彼の言葉にティータさんが青ざめる。

王室の権威を嵩に着たような役人の言葉に腹が立った。前回の宴の折りにもミリイの怪我のために舞を披露できなければ舞屋を畳むことになるような話になった。
キルヒライル様を見ていると理不尽にそんなことを王族がするとは思えないが、王室至上主義というか、命令は絶対だと権威を振りかざすのは何も王族とは限らない。
一番権力があるのは国王陛下だが、いかに国王が優秀でも一から百まで全てを采配しているわけではない。
そのために様々な役割を担う役人がいるのであって、平民は国の命令には何をおいても従うものだと信じて疑わない役人がいれば、彼の言うようなことがあるのかもしれない。

「舞屋を営むということは、いつどんな時も客の要望に応えて完璧な舞を提供することが最優先。こちらの舞屋が特別な理由なくそれを辞退するのであれば、その大原則が守られていないということです」

「わ、私どもは決してそのようなつもりは……」

更なる脅しとも言える発言にティータさんはあたふたとしている。

ジルベルトさんの物言いは大げさとも言えなくもないが、彼の言い方であれば王宮からの要請に断ったという前列がないため、本当にそんなことができるのか確証はない。

だが、それが本当かどうか確認することはできない。

「ティータさんは「月下の花」を営むお母さんとして、ずっとここで暮らしているミリイたちを差し置いて私が選ばれることはどう思われているのですか?」

「それは……でもうちの名前が出ることに変わりはないし、正直、ミリイたちもなかなかいい踊り子とは思っているけど、今のあの子達がこの申し出をもらえるとは思っていないわ。私も昔候補に上がったことがあるからわかるの」

「候補になったことがあるんですか?」

「二度候補になっただけよ。一度目は十人程が候補になって最終の五人には選ばれなかったもの。緊張していたこともあるけど、それなりにいい踊り子だと自負していた自分が恥ずかしくなるくらい実力が足りていないと実感したわ。それからその失敗を反動にして二度目に候補にあがった時は何とか選ばれたけど、だからわかるの。あの子達は技術も度量もまだその域ではないわ。あなたなら……もしかしたら……私としては舞屋の主というより、あなたが選ばれたら個人的に嬉しいわ」

ティータさんの話は経験者だから言える説得力があった。
そして舞屋の主としてでなくティータさん個人として喜んでくれているという言葉が嬉しかった。
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