転生して要人警護やってます

七夜かなた

文字の大きさ
上 下
226 / 266

224 男の正体

しおりを挟む
留守の場合を除き、来客を迎えるのは舞屋の代表のティータさんの役割だ。

ティータさんに案内されて来客用の居間へとやってきた男は、武人というより役人風。書類仕事が得意そうな優男だった。
年は五十くらい。こめかみに少し白いものが混じる。背は高くもなく低くもなく、特に特徴がない。
それでも、フレッドが私を探す人物について探りをいれても本人に会うまで話さないと徹底してはね除けていたところは、少しのことでは揺るがない強いところとあるのだと思う。

無用な警戒を抱かせないため、師匠は奥にあるティータさんの部屋で待機し、私は一人そこで二人が入ってくるのを待っていた。

「あなたが、王弟殿下の帰還の宴で"英雄の舞"を踊ったクレア?」

男は私に訊ね、私は「そうです」と言って頷く。

「そちらは?」

「私の名はジルベルトと言います。雇い主の命令であなたに仕事を頼むために探していました」

「わざわざ舞屋を通さず、個人に仕事の依頼というのは異例なことだとわかっていらっしゃいますか?」

ティータさんが横から声をかける。
通常、踊り子の仕事依頼は舞屋を通じて行われる。個人と個人の仕事のやりとりは行われることはない。
流し(?)の踊り子もいないではないが、それだとかなり足元を見られる金額で叩かれ、また踊り子を娼婦か何かと勘違いした客にどんなことをされるかわからない。踊り子の地位と品位を保つため、舞屋があり組合があるのだ。
また、仕事を頼む方も一定の水準にある踊り子でなければ無駄金を払うことになる。

「わかっていますよ。しかしこちらのクレアさんは現在のところどこの舞屋にも属されていない。仕事を頼むならこうするしかありません。それとも、またこちらの舞屋に所属されるなら別ですが」

彼の言葉も一理あるとティータさんと視線を交わして頷き合う。

「わかりました。彼女はうちの所属という事で話を進めてください。あなたもそれでいいわね」
「よろしくお願いします」
「それで、彼女をわざわざ探してまで頼みたいのは、どこの宴なのですか」
「では、改めて…私の名前は先ほどお伝えいたしましたが、私が仕えているのは王宮です。王宮の式部が私の所属です」
「式部……あ、もしかして」

ジルベルトさんの話を聞いてティータさんが何か思い当たったのか、声をあげた。

「ティータさん?」
「式部の……では、この時期に踊り子を探しているということは、まさか祝賀の舞の……」
「お察しの通りです」
「ま………まあ……」

ティータさんの声が感動でうち震え、手元がふるふると震え出す。

ジルベルトさんはティータさんの反応を見て満足そうだ。

私はと言えばジルベルトさんが王宮の式部に勤めていて、ティータさんが呟いた祝賀の舞というキーワードだけでまるで話が読めない。
でもティータさんの様子を見ると感動する程すごいことらしい。

「祝賀の舞だって!」

バアーンっと隣から扉をあけて師匠が飛び込んできて、いきなりの大男の出現にジルベルトさんがひいっと悲鳴をあげた。
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ2巻5/29発売
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

処理中です...