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224 男の正体
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留守の場合を除き、来客を迎えるのは舞屋の代表のティータさんの役割だ。
ティータさんに案内されて来客用の居間へとやってきた男は、武人というより役人風。書類仕事が得意そうな優男だった。
年は五十くらい。こめかみに少し白いものが混じる。背は高くもなく低くもなく、特に特徴がない。
それでも、フレッドが私を探す人物について探りをいれても本人に会うまで話さないと徹底してはね除けていたところは、少しのことでは揺るがない強いところとあるのだと思う。
無用な警戒を抱かせないため、師匠は奥にあるティータさんの部屋で待機し、私は一人そこで二人が入ってくるのを待っていた。
「あなたが、王弟殿下の帰還の宴で"英雄の舞"を踊ったクレア?」
男は私に訊ね、私は「そうです」と言って頷く。
「そちらは?」
「私の名はジルベルトと言います。雇い主の命令であなたに仕事を頼むために探していました」
「わざわざ舞屋を通さず、個人に仕事の依頼というのは異例なことだとわかっていらっしゃいますか?」
ティータさんが横から声をかける。
通常、踊り子の仕事依頼は舞屋を通じて行われる。個人と個人の仕事のやりとりは行われることはない。
流し(?)の踊り子もいないではないが、それだとかなり足元を見られる金額で叩かれ、また踊り子を娼婦か何かと勘違いした客にどんなことをされるかわからない。踊り子の地位と品位を保つため、舞屋があり組合があるのだ。
また、仕事を頼む方も一定の水準にある踊り子でなければ無駄金を払うことになる。
「わかっていますよ。しかしこちらのクレアさんは現在のところどこの舞屋にも属されていない。仕事を頼むならこうするしかありません。それとも、またこちらの舞屋に所属されるなら別ですが」
彼の言葉も一理あるとティータさんと視線を交わして頷き合う。
「わかりました。彼女はうちの所属という事で話を進めてください。あなたもそれでいいわね」
「よろしくお願いします」
「それで、彼女をわざわざ探してまで頼みたいのは、どこの宴なのですか」
「では、改めて…私の名前は先ほどお伝えいたしましたが、私が仕えているのは王宮です。王宮の式部が私の所属です」
「式部……あ、もしかして」
ジルベルトさんの話を聞いてティータさんが何か思い当たったのか、声をあげた。
「ティータさん?」
「式部の……では、この時期に踊り子を探しているということは、まさか祝賀の舞の……」
「お察しの通りです」
「ま………まあ……」
ティータさんの声が感動でうち震え、手元がふるふると震え出す。
ジルベルトさんはティータさんの反応を見て満足そうだ。
私はと言えばジルベルトさんが王宮の式部に勤めていて、ティータさんが呟いた祝賀の舞というキーワードだけでまるで話が読めない。
でもティータさんの様子を見ると感動する程すごいことらしい。
「祝賀の舞だって!」
バアーンっと隣から扉をあけて師匠が飛び込んできて、いきなりの大男の出現にジルベルトさんがひいっと悲鳴をあげた。
ティータさんに案内されて来客用の居間へとやってきた男は、武人というより役人風。書類仕事が得意そうな優男だった。
年は五十くらい。こめかみに少し白いものが混じる。背は高くもなく低くもなく、特に特徴がない。
それでも、フレッドが私を探す人物について探りをいれても本人に会うまで話さないと徹底してはね除けていたところは、少しのことでは揺るがない強いところとあるのだと思う。
無用な警戒を抱かせないため、師匠は奥にあるティータさんの部屋で待機し、私は一人そこで二人が入ってくるのを待っていた。
「あなたが、王弟殿下の帰還の宴で"英雄の舞"を踊ったクレア?」
男は私に訊ね、私は「そうです」と言って頷く。
「そちらは?」
「私の名はジルベルトと言います。雇い主の命令であなたに仕事を頼むために探していました」
「わざわざ舞屋を通さず、個人に仕事の依頼というのは異例なことだとわかっていらっしゃいますか?」
ティータさんが横から声をかける。
通常、踊り子の仕事依頼は舞屋を通じて行われる。個人と個人の仕事のやりとりは行われることはない。
流し(?)の踊り子もいないではないが、それだとかなり足元を見られる金額で叩かれ、また踊り子を娼婦か何かと勘違いした客にどんなことをされるかわからない。踊り子の地位と品位を保つため、舞屋があり組合があるのだ。
また、仕事を頼む方も一定の水準にある踊り子でなければ無駄金を払うことになる。
「わかっていますよ。しかしこちらのクレアさんは現在のところどこの舞屋にも属されていない。仕事を頼むならこうするしかありません。それとも、またこちらの舞屋に所属されるなら別ですが」
彼の言葉も一理あるとティータさんと視線を交わして頷き合う。
「わかりました。彼女はうちの所属という事で話を進めてください。あなたもそれでいいわね」
「よろしくお願いします」
「それで、彼女をわざわざ探してまで頼みたいのは、どこの宴なのですか」
「では、改めて…私の名前は先ほどお伝えいたしましたが、私が仕えているのは王宮です。王宮の式部が私の所属です」
「式部……あ、もしかして」
ジルベルトさんの話を聞いてティータさんが何か思い当たったのか、声をあげた。
「ティータさん?」
「式部の……では、この時期に踊り子を探しているということは、まさか祝賀の舞の……」
「お察しの通りです」
「ま………まあ……」
ティータさんの声が感動でうち震え、手元がふるふると震え出す。
ジルベルトさんはティータさんの反応を見て満足そうだ。
私はと言えばジルベルトさんが王宮の式部に勤めていて、ティータさんが呟いた祝賀の舞というキーワードだけでまるで話が読めない。
でもティータさんの様子を見ると感動する程すごいことらしい。
「祝賀の舞だって!」
バアーンっと隣から扉をあけて師匠が飛び込んできて、いきなりの大男の出現にジルベルトさんがひいっと悲鳴をあげた。
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