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223 記憶にない出来事
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カーマリング侯爵は見知らぬ寝室で目が覚めた。
横を見るとすぐ側のテーブルに明かりを絞ったランタンが置かれ、水差しとコップがその明かりに浮かび上がっている。
「う、痛い!」
水差しを見た瞬間、無性に喉の渇きを覚えて慌てて起き上がり水を飲もうとして手のひらに痛みが走り、右手を見ると手には包帯が巻かれ、よく見ると血が滲んでいる。
「怪我?いつこんな怪我を……」
まったく記憶にない手の怪我を見つめ、改めて周囲を見渡す。
「ここは………なぜ」
少し考え自分が何をしていたか考える。
自分は妻とルードリヒ侯爵邸の晩餐に招かれ、食後に彼と書斎で更に高級なワインを何杯か飲んだ。
最後に進められたエドワルド公爵領産のワインを口にしてからの記憶がない。
まさか酔いつぶれたというのか。
しかも手に怪我までしている。持っていたグラスでも割ったかと考える。
記憶がないのもだからなのか。
酒に酔い潰れたことはあっても記憶を失ったことはなかったが、今回は随分飲んだのかもしれない。
多分ここはルードリヒ侯爵邸の一室。自分は恐らく酔いつぶれてしまったのだろう。
これから姻戚関係になるかもしれない相手に失態を見せてしまった。
隣で誰かの気配がしてぎくりとそちらを見ると、妻とは違う赤い髪色の女が隣で眠っていた。
「これは……」
よく見ると自分も女も何も着ていない。
「まさか………」
どうして自分は?この怪我は?この女は誰だ?
訳がわからずパニックに陥っていると、女が徐に動き、こちらに目を向けた。
「………………」
仄かな明かりの中で黙って見つめているうちに、途端に女の目に涙が溢れてきた。
「旦那様………ひどいですわ………おやめくださいと……あんなに申し上げましたのに………」
「は?」
女は両手で顔を覆い隠し涙声で訴える。
これではまるで自分が嫌がる女を無理矢理手込めにした言い方だ。
「お前は……何を言っている……私がお前を?言いがかりは………」
「ひどい!覚えていらっしゃらないのですか?酔って落としたグラスで怪我をされたのを手当てして差し上げていたら、いきなり………わたし……わたしは何度もおやめくださいと……」
そう泣きながら言われても彼にはまったく記憶がなかった。
「お目覚めですか、カーマリング卿」
そこへ部屋の扉が開いて明かりを持ってルードリヒ侯爵が入ってきた。
「や!これは………カーマリング卿……」
その時になってカーマリング侯爵は床に脱ぎ散らからされた衣服があるのに気付いた。
「ル………ルードリヒ卿……ち、違うのです!こんな……これは何かの間違い」
「ひどい!旦那様……わたし……は」
明かりに照らされ立ち尽くすルードリヒ卿の顔を見れば彼が何を考えているのか一目瞭然だ。
「カーマリング卿……彼女は我が家のメイドです………酔い潰れたあなたの介抱をするように申し付けましたが……」
「いや、違うのです!私も何が何だか……妻は?私の妻は?」
「卿が酔いつぶれてしまったので、こちらできちんとお送りするとお約束して、奥方はお一人で先にお帰りいただきました。怪我もされておりましたので様子をみるためにこの者にお世話をするように申し付けましたが……まさか、カーマリング卿がこのようなことをなさるとは……」
「……わたし……わたし……このようなこと……わたし、おやめくださいと何度も……何度もお客様に申し上げましたのに……」
女は自分の主人であるルードリヒ卿に訴える。
「マヤ……悪かった……私が命じたばかりに……カーマリング卿……いくら侯爵と言っても、我が家のメイドにこのような……しかも嫌がる者を無理矢理とは……私も使用人に対して示しがつきません。責任を取っていただけるのでしょうね」
「せ、責任………」
ルードリヒ卿の厳しい視線に晒され、カーマリング侯爵は頭が真っ白になった。
横を見るとすぐ側のテーブルに明かりを絞ったランタンが置かれ、水差しとコップがその明かりに浮かび上がっている。
「う、痛い!」
水差しを見た瞬間、無性に喉の渇きを覚えて慌てて起き上がり水を飲もうとして手のひらに痛みが走り、右手を見ると手には包帯が巻かれ、よく見ると血が滲んでいる。
「怪我?いつこんな怪我を……」
まったく記憶にない手の怪我を見つめ、改めて周囲を見渡す。
「ここは………なぜ」
少し考え自分が何をしていたか考える。
自分は妻とルードリヒ侯爵邸の晩餐に招かれ、食後に彼と書斎で更に高級なワインを何杯か飲んだ。
最後に進められたエドワルド公爵領産のワインを口にしてからの記憶がない。
まさか酔いつぶれたというのか。
しかも手に怪我までしている。持っていたグラスでも割ったかと考える。
記憶がないのもだからなのか。
酒に酔い潰れたことはあっても記憶を失ったことはなかったが、今回は随分飲んだのかもしれない。
多分ここはルードリヒ侯爵邸の一室。自分は恐らく酔いつぶれてしまったのだろう。
これから姻戚関係になるかもしれない相手に失態を見せてしまった。
隣で誰かの気配がしてぎくりとそちらを見ると、妻とは違う赤い髪色の女が隣で眠っていた。
「これは……」
よく見ると自分も女も何も着ていない。
「まさか………」
どうして自分は?この怪我は?この女は誰だ?
訳がわからずパニックに陥っていると、女が徐に動き、こちらに目を向けた。
「………………」
仄かな明かりの中で黙って見つめているうちに、途端に女の目に涙が溢れてきた。
「旦那様………ひどいですわ………おやめくださいと……あんなに申し上げましたのに………」
「は?」
女は両手で顔を覆い隠し涙声で訴える。
これではまるで自分が嫌がる女を無理矢理手込めにした言い方だ。
「お前は……何を言っている……私がお前を?言いがかりは………」
「ひどい!覚えていらっしゃらないのですか?酔って落としたグラスで怪我をされたのを手当てして差し上げていたら、いきなり………わたし……わたしは何度もおやめくださいと……」
そう泣きながら言われても彼にはまったく記憶がなかった。
「お目覚めですか、カーマリング卿」
そこへ部屋の扉が開いて明かりを持ってルードリヒ侯爵が入ってきた。
「や!これは………カーマリング卿……」
その時になってカーマリング侯爵は床に脱ぎ散らからされた衣服があるのに気付いた。
「ル………ルードリヒ卿……ち、違うのです!こんな……これは何かの間違い」
「ひどい!旦那様……わたし……は」
明かりに照らされ立ち尽くすルードリヒ卿の顔を見れば彼が何を考えているのか一目瞭然だ。
「カーマリング卿……彼女は我が家のメイドです………酔い潰れたあなたの介抱をするように申し付けましたが……」
「いや、違うのです!私も何が何だか……妻は?私の妻は?」
「卿が酔いつぶれてしまったので、こちらできちんとお送りするとお約束して、奥方はお一人で先にお帰りいただきました。怪我もされておりましたので様子をみるためにこの者にお世話をするように申し付けましたが……まさか、カーマリング卿がこのようなことをなさるとは……」
「……わたし……わたし……このようなこと……わたし、おやめくださいと何度も……何度もお客様に申し上げましたのに……」
女は自分の主人であるルードリヒ卿に訴える。
「マヤ……悪かった……私が命じたばかりに……カーマリング卿……いくら侯爵と言っても、我が家のメイドにこのような……しかも嫌がる者を無理矢理とは……私も使用人に対して示しがつきません。責任を取っていただけるのでしょうね」
「せ、責任………」
ルードリヒ卿の厳しい視線に晒され、カーマリング侯爵は頭が真っ白になった。
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