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222 華麗なる晩餐
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約束の土曜日。
ルードリヒ侯爵邸での食事会は穏やかに進んでいった。
ルードリヒ侯爵は何かにつけてカーマリング侯爵の業績を褒め称え、誉められた侯爵は謙遜しながらも満更でもない。
ルードリヒ侯爵の奥方は饒舌な夫に比べ口数が少なく、殆ど会話らしい会話はなかった。
そしてルードリヒ侯爵の息子、第一近衛騎士団に所属するというライオネルは顔つきは父親に似ているが、寡黙なところは母親に似ていた。
話を向けられればそれなりに答えるが、自分から話題を持ちかけることもない。
食事が終わり、侯爵たちは書斎へ奥方たちはサロンに分かれて時間を過ごすことになった。
ライオネルは食事が終わると自室へと引き上げていった。
「いかがです?」
書斎へ入るとルードリヒ侯爵が棚のひとつから赤ワインのボトルを持ち出しカーマリング侯爵に見せる。
それはかなりの高級品で知られる一品だった。
「頂戴いたします」
酒好き……とりわけ高級品を好むカーマリング侯爵がその誘いを断るわけがなく、ルードリヒ侯爵が栓を開けてグラスに注ぐと、目を輝かせて二人で乾杯をした。
「なかなかですな」
ひとくち口に含みその味に酔いしれる。
そのまま二人で二杯立て続けに飲み干す。
「どうですか?私の息子は」
「思っていた以上の好青年ですな。落ち着きがあって、あの年で小隊長とは、将来が楽しみですな」
「そう言っていただけると父として鼻が高いというものです。それでは、正式にはご令嬢がデビューしてからということになりますが、このお話、進めさせていただいてもよろしいですか?」
「私に異存はございません。娘も喜んでこのお話を受けるでしょう。少々お転婆ではございますが、今から侯爵家の嫁としてしっかり仕込むつもりです」
「それは良かった。これで我々は身内ということになりますね。今後ともよろしくお願いいたします」
「こちらこそ」
「それでは、もう一度乾杯しましょうか。実は侯爵に飲んでいただきたい酒がまだあるんですよ」
「それは是非頂きたいところですが、晩餐でもいくらか頂いたところですし、これ以上は…」
晩餐で一人で軽く二本を飲み干し、今も続けざまに二杯を飲んだ。既に自分のいつもの酒量を超えつつある。
「そうですか……次のワインはエドワルド公爵領から特別に仕入れた物でして、卿には是非お飲み頂きたいと思っておりました」
「エドワルド公爵領の……」
カーマリング侯爵に見せられたのは黄金のラベルが貼られたワイン。
エドワルド公爵領は王弟殿下がその地を引き継ぐ前からワインの産地であったが、彼が領地を引き継いでから名のある醸造家を雇い入れたこともあり、更にその生産量と品質を上げていた。
そしてその年の出来のいいワインには黄金のラベルが貼られ、王族の作ったワインとして貴族の間ではかなりの高値で取り引きされている。
「しかもこれは殿下がマイン国に赴く最後の年に生産されたもの。年数は浅いですが、かなりの当たり年だったと言われるものです」
そう説明されてはカーマリング侯爵が断ろうはずがない。
それにしても……とカーマリング侯爵は思った。
晩餐に出された料理も豪華だった。ワインも、そして先ほど飲んだワインに今彼が持つワインもそれなりに値が張るものばかり。
それらを惜しげもなく自分達に振る舞えるとは、ルードリヒ侯爵はかなり裕福なのか、それとも自分達には特別なのか。
グラスに注がれる芳醇な香りの赤紫色の液体を眺めながら、カーマリング侯爵は目の前の男の接待に酔いしれていった。
ルードリヒ侯爵邸での食事会は穏やかに進んでいった。
ルードリヒ侯爵は何かにつけてカーマリング侯爵の業績を褒め称え、誉められた侯爵は謙遜しながらも満更でもない。
ルードリヒ侯爵の奥方は饒舌な夫に比べ口数が少なく、殆ど会話らしい会話はなかった。
そしてルードリヒ侯爵の息子、第一近衛騎士団に所属するというライオネルは顔つきは父親に似ているが、寡黙なところは母親に似ていた。
話を向けられればそれなりに答えるが、自分から話題を持ちかけることもない。
食事が終わり、侯爵たちは書斎へ奥方たちはサロンに分かれて時間を過ごすことになった。
ライオネルは食事が終わると自室へと引き上げていった。
「いかがです?」
書斎へ入るとルードリヒ侯爵が棚のひとつから赤ワインのボトルを持ち出しカーマリング侯爵に見せる。
それはかなりの高級品で知られる一品だった。
「頂戴いたします」
酒好き……とりわけ高級品を好むカーマリング侯爵がその誘いを断るわけがなく、ルードリヒ侯爵が栓を開けてグラスに注ぐと、目を輝かせて二人で乾杯をした。
「なかなかですな」
ひとくち口に含みその味に酔いしれる。
そのまま二人で二杯立て続けに飲み干す。
「どうですか?私の息子は」
「思っていた以上の好青年ですな。落ち着きがあって、あの年で小隊長とは、将来が楽しみですな」
「そう言っていただけると父として鼻が高いというものです。それでは、正式にはご令嬢がデビューしてからということになりますが、このお話、進めさせていただいてもよろしいですか?」
「私に異存はございません。娘も喜んでこのお話を受けるでしょう。少々お転婆ではございますが、今から侯爵家の嫁としてしっかり仕込むつもりです」
「それは良かった。これで我々は身内ということになりますね。今後ともよろしくお願いいたします」
「こちらこそ」
「それでは、もう一度乾杯しましょうか。実は侯爵に飲んでいただきたい酒がまだあるんですよ」
「それは是非頂きたいところですが、晩餐でもいくらか頂いたところですし、これ以上は…」
晩餐で一人で軽く二本を飲み干し、今も続けざまに二杯を飲んだ。既に自分のいつもの酒量を超えつつある。
「そうですか……次のワインはエドワルド公爵領から特別に仕入れた物でして、卿には是非お飲み頂きたいと思っておりました」
「エドワルド公爵領の……」
カーマリング侯爵に見せられたのは黄金のラベルが貼られたワイン。
エドワルド公爵領は王弟殿下がその地を引き継ぐ前からワインの産地であったが、彼が領地を引き継いでから名のある醸造家を雇い入れたこともあり、更にその生産量と品質を上げていた。
そしてその年の出来のいいワインには黄金のラベルが貼られ、王族の作ったワインとして貴族の間ではかなりの高値で取り引きされている。
「しかもこれは殿下がマイン国に赴く最後の年に生産されたもの。年数は浅いですが、かなりの当たり年だったと言われるものです」
そう説明されてはカーマリング侯爵が断ろうはずがない。
それにしても……とカーマリング侯爵は思った。
晩餐に出された料理も豪華だった。ワインも、そして先ほど飲んだワインに今彼が持つワインもそれなりに値が張るものばかり。
それらを惜しげもなく自分達に振る舞えるとは、ルードリヒ侯爵はかなり裕福なのか、それとも自分達には特別なのか。
グラスに注がれる芳醇な香りの赤紫色の液体を眺めながら、カーマリング侯爵は目の前の男の接待に酔いしれていった。
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