222 / 266
220 肩ならし
しおりを挟む
次の日の朝早く、師匠が子爵邸を訪れた。
夕べの話は聞いていたので、どうなったか気にはなっていたから、こちらから出向くつもりだった。
「子爵にお会いしたい」
師匠が厳しい顔をして私に囁き、ハレス卿との面会を求めてきた。
執事のジベルさんが子爵に取り次ぎし、朝食の席にいる子爵から書斎で待てとの伝言を伝えてくれた。
ジベルさんは子爵の出勤が遅れることを伝えるために第二近衛騎士団のに使いを送る手配をするため、私たちに子爵の伝言を伝えて姿を消した。
子爵を待つ間、師匠は椅子に座り膝に肘を立てて額を手に置いてずっと無言だった。
何も言わなくても夕べの話が上手くいかなかったことがわかる。
「待たせた」
子爵が書斎に入ってきて、二人で立ち上がって出迎えた。
「こちらこそ、朝早くから申し訳ありません」
「その表情……夕べの話し合いはうまくいかなかったのだな」
子爵も師匠の顔色を見て察したらしく、師匠に腰を下ろすよう促し、自分も私たちの向かい側に座った。
「まず、酒場での話し合いは上手くいきませんでした。相手は仕事の内容は直接本人に話すからと、それで仕方なく事前に決めていたもうひとつの案を伝えました」
「向こうもそれだけ用心深いということだ」
三人の間に暫く沈黙が流れる。
クレアを探す相手の素性を知るために残された方法はひとつ。
「クレアの出番……ということですね」
「出来れば使いたくない手だったが……」
子爵もそれしかないとわかっている。
「ウィリアムが用意した家でクレアになってそこから舞屋へ行こう。ハレス卿、申し訳ありませんが、彼女を暫く借ります」
「それは構わない。アンジェリーナにはうまく言っておこう。他にこちらで何かしておくことはないか?」
そう言いながらも、子爵はまだ少し不安げに呟いた。
「お気遣いありがとうございます。ウィリアムたちにも仕事がありますし、私とローリイで何とかやってみます」
「すいません。師匠……」
「気にするなと言っているだろう、今夜に備えてどこかで肩慣らしでもしておくかな」
「師匠、果たし合いになるとは限りません」
そう言って師匠は肩をぐるぐると回し戦う気満々だ。
「常に万全の態勢で挑まなければな。まだまだ若い者に引けは取らん」
「なら、我が家の者といかがですか?いつも彼女と剣を交えている者たちです。ドルグラン殿に相手をしてもらえるとなれば喜びます」
「それはありがたい、是非お願いしたい。」
師匠の表情ががらりと変わった。
夕べの話は聞いていたので、どうなったか気にはなっていたから、こちらから出向くつもりだった。
「子爵にお会いしたい」
師匠が厳しい顔をして私に囁き、ハレス卿との面会を求めてきた。
執事のジベルさんが子爵に取り次ぎし、朝食の席にいる子爵から書斎で待てとの伝言を伝えてくれた。
ジベルさんは子爵の出勤が遅れることを伝えるために第二近衛騎士団のに使いを送る手配をするため、私たちに子爵の伝言を伝えて姿を消した。
子爵を待つ間、師匠は椅子に座り膝に肘を立てて額を手に置いてずっと無言だった。
何も言わなくても夕べの話が上手くいかなかったことがわかる。
「待たせた」
子爵が書斎に入ってきて、二人で立ち上がって出迎えた。
「こちらこそ、朝早くから申し訳ありません」
「その表情……夕べの話し合いはうまくいかなかったのだな」
子爵も師匠の顔色を見て察したらしく、師匠に腰を下ろすよう促し、自分も私たちの向かい側に座った。
「まず、酒場での話し合いは上手くいきませんでした。相手は仕事の内容は直接本人に話すからと、それで仕方なく事前に決めていたもうひとつの案を伝えました」
「向こうもそれだけ用心深いということだ」
三人の間に暫く沈黙が流れる。
クレアを探す相手の素性を知るために残された方法はひとつ。
「クレアの出番……ということですね」
「出来れば使いたくない手だったが……」
子爵もそれしかないとわかっている。
「ウィリアムが用意した家でクレアになってそこから舞屋へ行こう。ハレス卿、申し訳ありませんが、彼女を暫く借ります」
「それは構わない。アンジェリーナにはうまく言っておこう。他にこちらで何かしておくことはないか?」
そう言いながらも、子爵はまだ少し不安げに呟いた。
「お気遣いありがとうございます。ウィリアムたちにも仕事がありますし、私とローリイで何とかやってみます」
「すいません。師匠……」
「気にするなと言っているだろう、今夜に備えてどこかで肩慣らしでもしておくかな」
「師匠、果たし合いになるとは限りません」
そう言って師匠は肩をぐるぐると回し戦う気満々だ。
「常に万全の態勢で挑まなければな。まだまだ若い者に引けは取らん」
「なら、我が家の者といかがですか?いつも彼女と剣を交えている者たちです。ドルグラン殿に相手をしてもらえるとなれば喜びます」
「それはありがたい、是非お願いしたい。」
師匠の表情ががらりと変わった。
1
お気に入りに追加
1,935
あなたにおすすめの小説
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる