転生して要人警護やってます

七夜かなた

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215 息抜きの場所

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会議が終わり、アウグステン公爵は副団長とともに部屋を出た。
隣に並んで歩くイエーツ副団長は、いつも表情の変わらない団長の顔色を見ながら、その中でも何となく気落ちしているような雰囲気を彼から感じ取っていた。

「何か心配ごとでも?」

自分ごときに弱味を見せたり相談することはないと思いながら訊ねる。

「どうしてそう思う?」

少し考えてそう聞き返され、答えに詰まる。

「申し訳ございません。はっきり分かりませんが、何となくいつもと違うような気がして……」

あやふやな感覚で根拠もなく訊ねたことを叱責されるだろうと覚悟する。

「………気にするな。お前は知らなくていい」

言い方は素っ気なかったが、意外にもその言葉にいつものような冷たさがなく、その反応にまた驚いた。

「少し寄るところがある。先に戻っていろ」

それぞれの執務室は三階にある。会議を行った一階から上がる階段の手前で公爵は足を止めた。

「どちらへ?」

王宮などから呼び出しがあった場合を想定し、常に所在を把握しておく必要があるため、特に他意もなく訊ねた。

「図書室だ、すぐに戻る」

そう言い、団長はすたすたと外へ出ていってしまった。

なぜ急に図書室へ?

副団長として側に居るようになって三年。ようやく彼の人となりを理解できるようになったと思ったが、まだまだのような気がする。

「他の騎士団でもそうなのかな……」

先ほどの会議に来ていた他の騎士団の団長、副団長を思い浮かべる。

第三近衛騎士団の二人は平民出身だけあって格式ばったことが苦手そうで、上司と部下というよりは同士のような関係に見える。
第二近衛騎士団はハレス子爵が国王陛下や宰相のテインリヒ伯爵と親しいこともあり、ソーヤ団長も一目置いているところがある。だが、決して子爵も伯爵をないがしろにしているわけではなく、理想的な関係と言える。

「結局上司に馴染めていないのは自分だけか……」

階段を昇りながら独り言を呟き自らに与えられた執務室へと向かった。



副団長を残し公爵は王宮内にある図書室へと向かっていた。

王宮内には二種類の図書室がある。

王宮に勤める者が誰でも利用できる一般的な図書室がそのひとつ。古今東西から様々な分野の書物が保管され、王室が発令した御触れや過去の天災の記録など、政務を行う上で必要な情報を得ることができる。

もうひとつは王宮内でもごく限られた者だけが利用できる図書室。その奥には禁書とされる書物も厳重に保管されており、過去の騎士団が行った作戦の内容や軍事機密などもあるかと思えば、王族が学ぶ帝王学のような特殊なもの、かつての王家の方々が好んで読んでいた詩や旅行記、恋愛小説などの雑多な分野の書物もある。
先の図書室と異なり、そこは閲覧のみ。持ち出しは厳禁とされている。

彼が向かったのはそちらの図書室。
第一近衛騎士団に入った頃からちょくちょく出入りし、管理職となってから時折ここにやってきては過去の作戦や訓練の記録などを読み耽り、常に最適な対応ができるように知識を得てきた。
団長になった後は息抜きの場所にもなっていた。
誰の持ち物かはわからなかったが、かつての王族の個人所有の書物は、それを読んでいたであろう王族の趣味趣向が感じ取られ、なかなかに興味深い。

良く出入りしているせいで彼が訪れても司書は特に意外な顔はしない。
立ち上がろうとするのを手で制し、気遣いは不要だと手を振る。

ここを最後に訪れたのは五日前だ。その時にも手に取った書物に手を伸ばす。

周囲を見渡し側に誰もいないことを確認し、本を開く。

宛名も差出人もない書簡がそこに挟まれていた。
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