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210 消えた踊り子
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頭の上から野太い声がして、男の口から思わず「ヒィッ」という悲鳴が洩れた。
「み……道を間違えたみたいだ」
「待ちなさい」
師匠を見て勝てないと悟った男は、私の側を通り過ぎて通りに向かいかけたのを腕を掴んで引き留め、腕を後ろに捻り上げた。
「ぎゃあああ、い、痛い!何すんだよ!み、道を間違えたって……言ってる」
「とぼけるな、明らかにこっちの歩幅に合わせてついてきただろう」
「師匠……折っちゃってもいいですか?それとも間接を外す?」
「両方でもいいぞ」
勘違いを決め込む男の腕を私は更に捻り壁に押し付ける。通りから師匠が体を盾にして人目を遮る。
「わ、わかった。わかった。白状する。お、おれはただ頼まれただけだ!あの舞屋に出入りする人間がいたら調べろって……」
「どうしてあの舞屋を?」
「ひ、人を探してるんだ」
「人?誰?あそこに出入りするのは仕事を頼みに来た人間か踊り子……」
「その踊り子を探している。あそこの舞屋で登録していた踊り子だ。どこにいったかわからないし、だから、いつか来るだろうと……」
探している踊り子の手がかりを求めて出入りする人間を見張っていた。
大抵は何度も出入りしている者ばかりだったが、私と師匠は初めて見る顔だから何かわかるかとついてきた。男はそう言う。
私と師匠の後をつけていたので、狙いはどちらかと思っていた。
師匠なら騎士団時代に関わりのある人物。私ならもしかしたらグスタフかフィリップあたりかと踏んだが、探しているのが踊り子なら、「月下の花」関係ということだろうか。
「誰を探しているの?」
「こ、この前、あそこの舞屋が王宮の競い舞をした時にいた踊り子だ。一人はあそこに今も通いできているが、おれが探しているのはもう一人の方だ」
男の言葉に眉をしかめる。師匠を見ると師匠も同じように怪訝な顔つきをしている。
競い舞の踊り子。それはモニクと変装しクレアと名乗っていた私。
そして、モニクの所在は確認しているが、彼女ではなくクレアを探しているの?
拘束している力を少し強め更に問い詰める。
「その踊り子を探してどうするの?」
「知らん。仕事を頼みたいんだろうよ。もしくは囲い込みたいのか。おれの仕事は踊り子の行方を突き止めるところまでだ。後は知らん」
「誰に頼まれて探している?見つけたらどうするの?」
「酒場で会った男だ。どこの誰か知らん。見つけたらその酒場に伝言を残すことになっている」
もう一度師匠と私は顔を見合せ、私は男の首筋に手刀を当てて男を気絶させた。
意識を失った男の体を師匠が抱き抱えた。
「こいつの言っていた踊り子って……夕べ話を聞いたお前のことか?」
「でしょうね。ティータさんが手続きしてくれて、終わった後で抹消してくれた筈」
「どうする?」
「誰が探しているか、今言ったことは本当かな……」
「それはわからん。だが、このままここに居ても仕方ない。とりあえず移動しよう」
師匠が気絶したままの男を背負い私は横に付き添う。
「どこへ?」
ウィリアムさんの家には行けない。ホリイさんを怖がらせるだけだ。
「ウィリアムがいる詰所に行こう。ここから近いし目立たず出入りできる入口がある」
第三近衛騎士団はかつての職場。師匠もよく知るそこへ気絶した男を連れて向かった。
時折変な目で行き交う人に振り返られたが、そこは大都会であまり他人に興味がないのか、特に注目もされずに第三近衛騎士団の詰所へ行くことができた。
「み……道を間違えたみたいだ」
「待ちなさい」
師匠を見て勝てないと悟った男は、私の側を通り過ぎて通りに向かいかけたのを腕を掴んで引き留め、腕を後ろに捻り上げた。
「ぎゃあああ、い、痛い!何すんだよ!み、道を間違えたって……言ってる」
「とぼけるな、明らかにこっちの歩幅に合わせてついてきただろう」
「師匠……折っちゃってもいいですか?それとも間接を外す?」
「両方でもいいぞ」
勘違いを決め込む男の腕を私は更に捻り壁に押し付ける。通りから師匠が体を盾にして人目を遮る。
「わ、わかった。わかった。白状する。お、おれはただ頼まれただけだ!あの舞屋に出入りする人間がいたら調べろって……」
「どうしてあの舞屋を?」
「ひ、人を探してるんだ」
「人?誰?あそこに出入りするのは仕事を頼みに来た人間か踊り子……」
「その踊り子を探している。あそこの舞屋で登録していた踊り子だ。どこにいったかわからないし、だから、いつか来るだろうと……」
探している踊り子の手がかりを求めて出入りする人間を見張っていた。
大抵は何度も出入りしている者ばかりだったが、私と師匠は初めて見る顔だから何かわかるかとついてきた。男はそう言う。
私と師匠の後をつけていたので、狙いはどちらかと思っていた。
師匠なら騎士団時代に関わりのある人物。私ならもしかしたらグスタフかフィリップあたりかと踏んだが、探しているのが踊り子なら、「月下の花」関係ということだろうか。
「誰を探しているの?」
「こ、この前、あそこの舞屋が王宮の競い舞をした時にいた踊り子だ。一人はあそこに今も通いできているが、おれが探しているのはもう一人の方だ」
男の言葉に眉をしかめる。師匠を見ると師匠も同じように怪訝な顔つきをしている。
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拘束している力を少し強め更に問い詰める。
「その踊り子を探してどうするの?」
「知らん。仕事を頼みたいんだろうよ。もしくは囲い込みたいのか。おれの仕事は踊り子の行方を突き止めるところまでだ。後は知らん」
「誰に頼まれて探している?見つけたらどうするの?」
「酒場で会った男だ。どこの誰か知らん。見つけたらその酒場に伝言を残すことになっている」
もう一度師匠と私は顔を見合せ、私は男の首筋に手刀を当てて男を気絶させた。
意識を失った男の体を師匠が抱き抱えた。
「こいつの言っていた踊り子って……夕べ話を聞いたお前のことか?」
「でしょうね。ティータさんが手続きしてくれて、終わった後で抹消してくれた筈」
「どうする?」
「誰が探しているか、今言ったことは本当かな……」
「それはわからん。だが、このままここに居ても仕方ない。とりあえず移動しよう」
師匠が気絶したままの男を背負い私は横に付き添う。
「どこへ?」
ウィリアムさんの家には行けない。ホリイさんを怖がらせるだけだ。
「ウィリアムがいる詰所に行こう。ここから近いし目立たず出入りできる入口がある」
第三近衛騎士団はかつての職場。師匠もよく知るそこへ気絶した男を連れて向かった。
時折変な目で行き交う人に振り返られたが、そこは大都会であまり他人に興味がないのか、特に注目もされずに第三近衛騎士団の詰所へ行くことができた。
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