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209 尾行

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玄関口で慌ただしく挨拶だけして師匠と私は舞屋を後にした。

皆は中に入ってお茶でもと言ってくれたが、今回は挨拶だけと早々に辞した。
残念そうに絶対また来てね。と念を押されて近い内の訪問を約束させられた。

「王都の女は積極的だな……」

二人で子爵邸へ向かう道すがら師匠が頭を掻きながら言う。

「アイスヴァインでもお前を気にしてた子はいたけど、伯爵令嬢だということもあるのか、皆、遠巻きに見てただけだが、彼女たちはそれに比べるとかなり強引……悪いと言ってるんじゃないぞ。そのわりには男にモテないな。モテたと思ったら王弟殿下か。大物だな、お前」

殿下とはひと月会っていない。
ハレス卿から様子は聞いているし、側にいる道を断ったのは私だ。そのことは後悔していないが、会えないのはやっぱり寂しい。
夕べ殿下との思い出を語らされただけに、ますます会いたいと思ってしまった。
携帯やテレビ電話などのツールがないこの世界で、遠く離れた人との交流はとても難しい。

「それはそうと…………」

歩きながら師匠が何気ない様子を装いながら耳の側で囁いた。

「気付いてましたか?」

実は舞屋を出て少し歩きだしてから私たちの後をつけてくる人物がいることに気付いた。
師匠も気づいているらしく確認してきた。

「お前はこのまま真っ直ぐ行け。商店街の外れで路地に入って待っていろ。俺は次の角で曲がって先回りする」
「私が……」
「俺は第三近衛騎士団にいたんだぞ。王都の地理はよく知っている。お前は方向音痴なんだから、俺に任せておけ。それに多分、俺とお前なら間違いなくお前を追うだろう」

方向音痴を指摘されたら黙って従うしかない。
師匠がさりげなく手を振って私と別れ、私は通りを真っ直ぐすすんだ。時折立ち止まり通りに面した店のガラスに映る人物を観察する。

大抵の人は通りすぎる中に、私が止まれば止まり、常に一定の距離を保つ人物がいる。
狙いは私?
中肉中背の目立たないどこにでもいる男。年齢は師匠より少し若いようだ。

商店が建ち並ぶ通りの先は富裕層の屋敷。そしてその先に下級貴族の屋敷街になっている。

言われたとおり商業地区の外れで路地裏に入り、曲がってすぐ側に積まれていた木箱があったのでその陰に隠れた。

潜んでいると少し小走りに駆けてくる足音が聞こえ、私が隠れている所を過ぎたのを見て男の背後に立った。

「何か用ですか?」

後ろから声をかけられ男が飛び上がってこちらを振り返った。

「何のことかな………」

女だとわかり一瞬怯んだ後に男は強気に言い返す。

「つけてきたでしょ」
「勘違いだ。おれもこっちに用が……」
「どんな用かな」

男が私に注目している間に向こうから回り込んできた師匠が距離を詰めて立った。

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