転生して要人警護やってます

七夜かなた

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207 恥ずかしい夜

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「今の話はウィリアムも知っているみたいだな」
「はい。ハレス卿もその場にいましたし」
「だろ?他の人間が知っている事実を今さら隠す筈がない。他にもあるだろう?」
「し、師匠……何を」
「何年お前の師匠をやってると思ってる。お前が獣を倒した時に怪我をして大したことないと指の骨折を隠そうとしたのも、成長痛を隠して修行しようとした時も気づいただろう」

「…………はい」
「で、何があった」

諦めのため息を観念したと判断して師匠が話を促す。

私は馬屋での出会いから倒れていた殿下に手当てしたことまでを話した。
手当ての仕方は省いて。

「…………なるほどね……でもそれなら逆に自慢すればいいだろう。何を勿体ぶったんだ?」

「そうだな……助けたのは実は私でした。で済むのでは?男装していたりしても別に悪いことをしたわけではないし」

師匠はなかなか納得してくれない。ウィリアムさんたちも一緒になって話に乗る。

「ローリィ、正直に話なさい」
「師匠……勘弁してください。これ以上は恥ずかしくて言えません」
「恥ずかしい?何をしたんだ?」
「ローリィ、殿下に対して何か失礼なことをしたのか?」

もうこれ以上三人を相手に誤魔化しきれない。
今度こそ観念してすべて洗いざらい話した。


「………それで、包帯がわりに自分の身に付けていた……胸当てを……」

全て聞き終え、男三人は顔を下にして長々とため息を吐いた。

「良く知りもしないあいてに、殿下だったから良かった……とも言えないが、もし途中で気づいたらどうするつもりだったんだ」
「人命第一だったんだから仕方ない……」
「だとしても、追っ手がいたかも知れない状況で……」
「殿下は気づかれているのか?」
「………」
「ローリィ?」
「その様子だと知っているのだな。もしかして胸元の傷のこともご存知なのか?」
「胸元の傷?」

マシューさんが聞き返す。
師匠はもちろん知っている。ウィリアムさんにも王都に来てすぐに話してある。マシューさんたけが知らない。

胸元にある傷についてマシューさんに説明する。
傷が消せないならこの傷ごと自分を受け入れ生きていこうと決心したことを。

「五歳の子どもが考えることじゃないが、こいつは昔から年に似合わず大人びた所があって時々驚かされた」

「まあ、五歳で親父の顔を見て泣かなかったんだから普通じゃないとは思う」

しみじみとウィリアムさんが言う。

「殿下には……私から話しました。それで朧気に覚えていた倒れた時の記憶から助けたのがわたしだと勘づかれたみたいです」
「どうしてそういうことになった?」
「え?」
「どうして傷痕のことを殿下に話すことになったんだ?見られたのか?」
「いえ……そういうわけでは……」

さすがに殿下から告白されて自分も好きで、隠し事をしたくなかったからとか、言いにくい。

「親父……そのことは、それ以上突っ込まないでやって欲しい。ローリィだけじゃなく、殿下の立場もあるから」

殿下との仲を勘づいているウィリアムさんが助け船を出してくれた。

「?どういうことだ?」
「勘が鈍いな。好きな人に隠し事はしたくなかった。そういうことだろ」
「ちょっ!ウィリアムさん」

助け船だと思っていたらいきなりの爆弾を投げつけられた。
師匠とマシューさん、二人の視線が痛い。

「殿下も少なからず……いや、遅い初恋かな」
「ちょっと待て、好きって……相手は王弟……初恋?」
「それって、ローリィが殿下と両思いってこと?」

戸口からホリイさんの甲高い声が響いた。

「ホリイさん……聞いて……」

洗い物を済ませたホリイさんが目をギラギラさせてこちらを見ている。

「いつ?どうやって?殿下は何て言ったの?ローリィさんは何て答えたの?二人はどこまで行ったの?もしかしてキスとかしたの?」

師匠の睨みより恐ろしいホリイさんの質問攻めに、私は親代わりの師匠や兄とも慕うウィリアムさん、マシューさんの前で殿下とのやり取りを白状させられ、ある意味丸裸にされるより恥ずかしい夜を過ごすことになった。
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